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このページの趣旨
斎藤知事は、2025年3月26日の記者会見で、通報者を保護する体制整備義務を定めた同法の指針について「対象は3号(外部)通報も含まれるという考え方がある一方、内部通報に限定されるという考え方もある」と発言しました。
この発言に対し、公益通報者保護法を所管する消費者庁が「公式見解とは異なる(知事の)発言を確認した」と兵庫県へのメールで指摘し、この指摘に斎藤知事は、5月8日の定例記者会見で「一般的な法解釈のアドバイスをいただいたということで、重く受け止めたい」と語りました。(情報ソース:2025/5/9読売新聞オンライン)
当ページでは、法律に詳しくない方にもできるだけ理解できるように、具体的な条文を見ながら論点を解説し、あわせて消費者庁解釈の成立過程の問題についても解説します。
結論
- 斎藤知事の発言どおり、法曹界でも「通報者探索は内部通報に限定される」「外部通報も通報者探索が禁止される」との両論があることは事実。
- 実際に条文を読むと、どちらにも解釈できる。一意に解釈できない条文が問題。
- 消費者庁の現在の解釈は「外部通報も通報者探索が禁止される」となっている。
- 消費者庁解釈は重い見解ではあるが、最高裁判所判決と異なり、最終的に確定した解釈とまではいえない。
- 消費者庁が現在の解釈を採用するに至るまでのプロセスが不透明で、正当性に疑義がある。
解説
公益通報者保護法の「指針」とは
兵庫県文書問題が発生した時点の法律では、通報者探索の禁止は「公益通報者保護法」そのものには書かれていません。消費者庁が所管する「指針」に書かれています。
そのため、この問題を理解するには、まず「指針」の位置づけを理解する必要があります。
指針の法的根拠
公益通報者保護法第十一条4項は、以下の内容になっています。
公益通報者保護法 抜粋
第十一条 4 内閣総理大臣は、第一項及び第二項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めるものとする。
(※カッコ書きは消しています)
この定めに従って定められたものが、「指針」です。
つまり、「指針」は、「第十一条の第一項・第二項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して」必要なことだけが定められている必要があります。もし第一項・第二項に無関係なことが書かれていたとしたら、その部分は法の委任の範囲を逸脱しており、無効です。
ここで、「第十一条の第一項・第二項は内部通報だけなのか、それとも外部通報を含んでいるか」という論点(論点①)があります。後ほど、詳しく解説します。
通報者探索禁止の法的根拠
この指針の、第4の2(2)ロで、以下のとおり、「通報者の探索を防ぐための措置をとる」と書かれています。これが、「公益通報者の探索の禁止」の法的根拠です。
指針 抜粋
第4 内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置(法第 11 条第2項関係)
2 事業者は、公益通報者を保護する体制の整備として、次の措置をとらなければならない。
(2) 範囲外共有等の防止に関する措置
ロ 事業者の労働者及び役員等が、公益通報者を特定した上でなければ必要性の高い調査が実施できないなどのやむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとる。
この「指針第4」の対象は内部通報だけなのか、それとも外部通報を含んでいるか、という論点(論点②)もあります。第4の表題に「内部公益通報」と書いてあるので、内部通報限定のようにも見えます。こちらも、後ほど解説します。
外部通報の通報者探索は法令で禁止されているのか(論点①~②)
論点① 法第十一条の第一項・第二項に外部通報が含まれるか
上で紹介した論点①は、「公益通報者保護法第十一条の第一項・第二項は内部通報のみか、それとも外部通報を含んでいるか」でした。
その第一項、二項を見てみましょう。
公益通報者保護法 抜粋
第十一条 事業者は、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務に従事する者を定めなければならない。
2 事業者は、前項に定めるもののほか、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない。
(※カッコ書きは消しています)
両方とも、「第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報」という言葉がありますが、これは「内部通報」を指しています。
第一項
第一項は、「事業者は、内部通報対応に従事する担当者を定める義務がある」ということが書かれています。
従業員300名以下の事業者は努力義務ですが、300名以上の事業者なら、必ず組織内部に内部通報窓口が設置されていると思います。
こちらは、「内部通報に限定される」と解釈されており、特に意見が割れてはいません。
第二項
外部通報を含むか否か、意見が割れているのは第二項です。
条文が複雑なので、今回の論点と関係ない箇所を一部簡略化し、再掲します。
公益通報者保護法(一部簡略化)
第十一条 2 事業者は、前項に定めるもののほか、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命等の保護に関わる法令の遵守を図るため、内部通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない。
この「必要な体制の整備その他の必要な措置」が指針で定められており、通報者探索禁止もここに含まれます。
これは、内部通報に限定されるのか、それとも外部通報も含むのか。ぜひ一度条文を熟読して考えてから、以降の解説をお読みください。
それぞれの主張
- 「適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置」の前に「内部通報に応じ、」と書かれているので、「必要な体制の整備その他の必要な措置」は、当然内部通報に限定される。
- 「前項に定めるもののほか、」と書かれており、前項は明らかに内部通報限定なので、第二項も内部通報限定だ。
- 前半の「公益通報者」「公益通報」は、外部通報も含む言葉である。
- 「内部通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」と「その他の必要な措置」が並列で列記されている。
- 前者は内部通報限定だが、後者は外部通報も含まれる。
- よって、「指針」には外部通報も含まれる。
公益通報者保護法を所管している消費者庁は、「外部通報も含まれる」との解釈を採用しています。しかし、日本語の読み方としては、「内部通報に限定される」という解釈もありうることは明らかです。
公益通報者保護法は、兵庫県庁だけに適用される法律ではありません。全国の民間企業の経営者など、法律に詳しくない多くの国民に守らせるべき法律です。
もし、本気で外部通報も通報者探索を禁止するつもりでこの条文を書いたとしたら、立案者は相当頭が悪いと思います。「一意に解釈できない条文」が、最大の問題です。
論点② 「指針第4」は外部通報を含んでいるか
指針 抜粋(再掲)
第4 内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置(法第11条第2項関係)
2 事業者は、公益通報者を保護する体制の整備として、次の措置をとらなければならない。
(2) 範囲外共有等の防止に関する措置
ロ 事業者の労働者及び役員等が、公益通報者を特定した上でなければ必要性の高い調査が実施できないなどのやむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとる。
「通報者探索の禁止」は、指針第4の2(2)ロで定められています。
- 「第4」の表題に「内部公益通報」と書かれているので、「第4」全体が内部通報に限定される。
- 第4の表題は「内部公益通報対応体制の整備」と「その他の必要な措置」が並列に並んでおり、後者は外部通報も含まれる。
- 「2」や(2)文中の「公益通報者」は外部通報も含む概念なので、外部通報の通報者探索は禁止されている
こちらも、論点①とほとんど同じです。「一意に解釈できない条文」が、最大の問題です。
公益通報者保護法全体の立てつけ
上記論点①②とは別に、公益通報者保護法全体の立てつけ上、「外部通報の探索が禁止されるのは不条理ではないか」という意見もあります。
法十一条や指針第4には真実相当性や期間の定めがないので、外部通報を含む説を採用するなら、「真実相当性の有無にかかわらず、通報者探索は永久に禁止」という解釈になります。不当な誹謗中傷にさらされた事業者にとっては、非常に不利な解釈です。
一方、法三条・五条・六条では、いずれも「外部通報者が保護されるのは、真実相当性がある場合のみ」と定められています。
法全体では「真実相当性がない(真実と確信するほど確かな証拠がない)場合は、内部通報窓口へ」という立て付けになっており、外部通報者への不利益処分も禁止されていないのに、通報者探索だけ禁止されるのは不条理だ、という意見です。
公益通報者保護法の改正の経緯
既に述べたとおり、公益通報者保護法を所管している消費者庁は、「外部通報も通報者探索が禁止される」との立場を取っています。
消費者庁の見解は、もちろん重い見解ではありますが、最高裁判所判決ほど確定したものではありません。最終的に条文を解釈する権限は、行政ではなく司法にあります。
元々、この公益通報者保護法の制定の主な契機は、事業者による食品偽装やリコール隠しなどの不祥事が、内部通報をきっかけに明るみに出たことでした。消費者庁の立場なら、事業者よりも通報者を保護するのは当然と言えます。
しかし、この社会は、公益通報者保護法のみで回っているわけではありません。事業者も、不当な誹謗中傷からは守られる権利があるはずです。消費者庁のみを正として取り扱うのは、本当に社会全体の健全な発展に資するのでしょうか?
そこで、消費者庁の「外部通報も通報者探索が禁止される」という解釈が、正当なプロセスで決定されたのかを検証します。
改正法の立法時点の議論
公益通報者保護法の第十一条4項で「指針を定めるものとする」と追加されたのは、2022年6月施行の法改正時です。この改正法が国会で議論されたのは、2020年3月~6月頃です。
まず最初に、2020年3月6日に消費者庁が国会に提出した、法律案の概要資料を見てみましょう。

「事業者に対し、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等を義務付け。具体的内容は指針を策定【第11条】」と記載があります。
これを読む限り、ほとんどの国会議員は、「指針に委任するのは内部通報のみ」と理解するでしょう。
次に、具体的な国会答弁を見てみましょう。

このやり取りでも、ほとんどの国会議員は「指針の策定範囲は内部通報体制の整備義務」と理解すると思われます。
筆者は、この時期の国会議事録を一通り確認しましたが、「外部通報も指針に含む」という趣旨の発言は見当たりませんでした。
改正法が国会で成立したのは2020年6月8日ですが、この時点で、ほとんどの国会議員は「指針に委託するのは内部通報のみ」と認識していたと思われます。
指針の検討時の議論
改正法の成立後、2020年10月以降、消費者庁において、指針検討会が計5回開かれました。資料は、消費者庁の以下ページに掲載されています。
この指針検討会の、少なくとも第2回(2020/11/13)までは、消費者庁も「指針に委任するのは内部通報のみ」と認識していたことが、資料からわかります。
指針検討会時の消費者庁の認識
第1回指針検討会

第2回指針検討会

第3回以降の指針検討会
第3回以降は、資料からはこの文言が消えましたが、「指針に外部通報を含むか否か」という議論は、議事録等に一切残っていません。
いつ、どのような議論を経て「指針には外部通報も含まれる」という解釈が生まれたのか不明であり、「選挙で選ばれた国会議員が決定した法律を、選挙で選ばれていない役人が勝手に解釈変更した結果、善良な事業者の正当な権利を無視した、とんでもない悪法が誕生した」と言っても過言ではない状況です。
「外部通報を含む」との解釈に変更したプロセスは不明
村上ゆかり秘書による問合せ
浜田参議院議員の公設秘書である村上ゆかりさんが、この解釈変更のプロセスについて消費者庁に問い合わせ、回答は以下のとおりでした。
- 色々と探し回って調べたが、経緯は分からなかった
- 検討会は議事概要しか残されていないので、会議でそのような話があった可能性は否定できない(議事録ではない為、完全に否定はできない)が、話があったとは記録が残されていない。
- 検討会以外でも経緯が書かれた記録は一切見当たらなかった。
増山県議による問合せ
兵庫県の増山県議も同様に問い合わせましたが、以下のとおりの対応だったそうです。
2週間ほどの調査期間を経た後 「どのような議論を経て外部公益通報を対象とするようになったか確認できなかった」 との回答が返ってきました。
また、「御議論いただきたい事項等」に「指針は内部公益通報に限定」すると記載された経緯についても分からなかったとのことでした。
「指針の解説」の公表
2021年の8月に「指針」が公表され、10月には「指針の解説」が公表されました。
指針の解説は、一意に解釈できない法令と違って、明確に「外部通報通報者探索も禁止」と書かれています。
「指針の解説」P.14
法第2条に定める「処分等の権限を有する行政機関」や「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」に対して公益通報をする者についても、同様に不利益な取扱いが防止される必要があるほか、範囲外共有や通報者の探索も防止される必要がある。
太字で書いた箇所が、「2号通報や3号通報」、つまり「外部通報」を意味しています。
しかし「指針の解説」は、そもそも法的拘束力のある「法令」ではなく、単なる見解の一つでしかありません。(重い見解ではありますが)
法案・指針案の立案者の認識
片山元副知事は、2024/12/25の百条委員会で、「改正公益通報者保護法の解説書によりますと、法第11条第2項は外部通報に適用にならないと書いてありまして、この解説書の執筆は消費者庁の検討会に深くかかわっておられる弁護士さんです。」と発言しました。(関連ページ:12/25百条委員会)
後に、この解説書の執筆者の一人である中野真弁護士から、「別のページに『外部通報した者に対する不利益な取扱いも防止等の措置を取る必要がある』との脚注があり、3号通報に対して不利益な取扱い防止等の措置をする必要はない旨の記載はしていない」という趣旨の反論がありました。(情報ソース:1/27百条委員会資料2ページ目)
この片山元副知事の発言と、中野弁護士の反論をそれぞれ読み解くと、「法案の立案者も、指針の公表以前は、指針の対象は内部通報のみと認識していた」ことがわかります。
以下、詳しく解説します。
中野真弁護士とは
中野真弁護士は、消費者庁在籍時に、公益通報者保護法の改正法案や指針案を立案した弁護士です。(情報ソース:BUSINESS LAWYERS)
- 2005年 早稲田大学政治経済学部政治学科卒業
- 2008年 旧司法試験合格
- 2015年 消費者庁政策調査員
- 2016年 内閣府事務官(消費者庁政策企画専門官)
「解説 改正公益通報者保護法」の記載の変遷

片山元副知事発言の「ある本」とは、「解説 改正公益通報者保護法」という本(以下、「解説」といいます)です。立法に関わった中野弁護士が執筆に加わっているだけあり、公益通報者保護法に関わる弁護士にとってのバイブルのような位置づけの本です。
この解説書の、該当箇所の記述は初版と第二版で変わっています。端的に言うと、中野弁護士が主張する脚注は初版には無く、第二版から追加されました。
初版と第二版の発行は、時系列では以下のとおりです。
- 2020年6月8日 改正法が国会で成立
- 2020年6月12日 改正法が公布される
- 2021年7月1日 「解説」(初版)が発行される
- 2021年8月1日 消費者庁から、指針が公表される
- 2021年10月13日 消費者庁から、指針の解説が公表される
- 2022年6月1日 改正法が施行される
- 2023年2月3日 「解説」(第二版)が発行される
特に、以下のポイントを認識したうえで、以降の解説をお読みください。
- 「初版」の発行は、「指針」「指針の解説」の公表より前
- 「第二版」の発行は、「指針」「指針の解説」の公表より後
「解説」(初版)の記載内容
この『必要な体制の整備その他の必要な措置』については、前提として、『第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報に』とあることから、法11条1項と同様に、公益通報のうち1号通報に対応するための体制整備に限定している
「解説」(初版)212ページ
「解説」(第二版)の記載内容
「この『必要な体制の整備その他の必要な措置』は、『第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報に』との留保があることから、法11条1項と同様に、公益通報のうち内部公益通報に対応するための体制整備に限定している
「解説」(第二版)225ページ
不利益な取扱いを防止する措置(注165)
(注165)内部公益通報をした者に限らず、2号通報および3号通報をした者に対する不利益な取扱いも防止等の措置をとる必要がある
片山元副知事の「ある解説書に法第11条第2項は、外部通報には適用されないと読める」という発言は、初版の212頁、または第2版の225ページの記述を指していると思われます。
「解説」(第二版)258ページ
初版にも第2版にも、片山元副知事の発言通り、明確に「内部通報に対応するための体制整備に限定」と書かれています。
中野真弁護士の反論は、それより30ページ以上も後ろの258ページ(第2版のみ)に書かれた「注165」に基づいていると思われます。
確かにそういった注意書きはありますが、この注意書きにより225ページに明記されている「内部通報に限定」との解説を打ち消すと読むのは困難です。
また、この注意書きは指針完成前に発行された初版には存在していなかったことから、「法案の立案者も、改正法の成立時点では、法11条2項は内部通報限定」と認識していたと考えられます。
なおこの件は、野村修也弁護士が百条委員会に提出した書面調査回答でも言及されています。
しかも,この措置に関する解説は,すべて1号通報を念頭に置いて書かれていた。つまり,指針ができるまでは,法第11条第2項に規定された「第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置」は1号通報に限定される(以下「内部公益通報者限定説」という。)というのが立法担当者(中野弁護士)の理解だったと考えられる。
百条委員会書面調査【野村修也弁護士】
他の書籍の記載
公益通報者保護法に関する専門書は他にも多数存在し、この中野真弁護士が執筆している書籍も複数あります。
筆者はすべてを確認していませんが、浜田参議院議員の質問主意書によると、「いずれも、第十一条第二項は内部通報のみを対象としたものとの記載」だったそうです。
令和六年十二月二十三日 浜田議員質問主意書(抜粋)
私の事務所から国立国会図書館へ調査依頼したところ、
- 「逐条解説・公益通報者保護法(第二版)」(消費者庁参事官(公益通報・協働担当)室編、商事法務)
- 「公益通報者保護法に基づく事業者等の義務への実務対応」(中野真著、商事法務)
- 「公益通報者保護法改正の概要」(中野真、ジュリスト一五五二号)
- 「二〇二二年義務化対応 内部通報・行政通報の実務~公益通報体制整備のノウハウとポイント~」(日野勝吾著、ぎょうせい)
- 「内部通報制度の構築・運用の実務」(坂井知世、ビジネス法務二〇二三年九月号)
- 「改正公益通報者保護法の概要」(戸塚亮太・蜂須明日香、法律のひろば二〇二二年六月号)
が提供された。しかし、いずれも同法第十一条第二項は内部通報(一号通報)のみを対象としたものとの記載であり、外部通報を対象としていると記載された解説書籍・論文は見当たらなかった
(参考)英語版の条文はどうなっている?
法務省運営の「Japanese Law Translation」英訳版では、論点①の「第三条一号及び第六条一号に定める公益通報」が、明らかに、「体制の整備」と「必要な措置」の両方にかかっています。
つまり、この英訳版では、指針に委任されているのは内部通報のみです。

この英訳版は正文ではなく、法的効力を有するのは日本語の法令自体です。翻訳は、あくまでその理解を助けるための参考資料という位置づけです。
しかし、政府の中でも解釈が統一されておらず、斎藤知事が「対象は3号(外部)通報も含まれるという考え方がある一方、内部通報に限定されるという考え方もある」と発言した通り、世間には両論存在することが明白です。
このページのまとめ
- 斎藤知事の発言どおり、「通報者探索は内部通報に限定される」「外部通報も通報者探索が禁止される」との両論があることは事実。
- 実際に条文を読むと、どちらにも解釈できる。一意に解釈できない条文が問題。
- 消費者庁の現在の解釈は「外部通報も通報者探索が禁止される」となっている。
- 消費者庁解釈は重い見解ではあるが、最高裁判所判決と異なり、最終的に確定した解釈とまではいえない。
- 消費者庁も、改正法の成立直後は「指針は内部通報のみ」と認識していた。現在の解釈を採用するに至るまでのプロセスが不透明で、疑義がある。
- 立法担当者が執筆した著書にも「法11条2項は内部通報のみ」と記載された個所がある。