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当ページには、告発文書の内容の真偽を確認する「文書問題に関する第三者調査委員会」が2025/3/19に公表した調査報告書の、「第12章 まとめに代えて」について文字起こしを掲載しています。
当報告書の全容は、以下リンク先を参照ください。
調査報告書(文字起こし) 第12章
第12章 まとめに代えて
―より良き兵庫県政であるために―
兵庫県は、北は日本海、南は瀬戸内海に面している。県内には大都市もあれば、自然豊かな農村、漁村もある。山間部もあれば、港湾地域もある。令和7年2月現在、約532万人が暮らすが、住民が県政に望むこととは、地域、職業、年齢、性別等によりさまざまである。
県当局の仕事は、住民の多様な願いを受け止め、複雑に絡み合う利害を調整し、光の当たらないところにも目を配り、取り残される者のない社会を実現していくことである。
政治は、少数の優秀なエリートだけで行いうるものではない。現場の職員が献身的に働くことにより初めて実を結ぶものである。そのためには、職員がやりがいをもって職務に励むことのできる、活力ある職場でなければならない。
活力ある職場となるためにパワハラはあってはならない。パワハラは、直接の被害者に精神的、身体的ダメージを与えるにとどまらない。周囲の職員を含め、就業環境を悪化させ、士気の低下を招く。職員の士気が低下したとき、県政は停滞する。その被害を受けるのは県民である。
国は、国民生活が安定し、社会経済が健全に発展するためには法令の規定が遵守されなければならないとして公益通報者保護法を制定した。同法は、犯罪行為や過料の理由となる事実についての通報を保護するものであるが、兵庫県は、一歩を進め、①法令違反の事実、②職務上の義務違反の事実、更には、③前2号に準じ、県政を推進するに当たり県民の信頼を損なうおそれのある事実についての通報も保護の対象とした。
しかし、齋藤知事にはパワハラ行為があった。本件文書問題に関しては、当事者が関与して違法な通報者探索を行い、更には、通報行為それ自体を理由として懲戒処分を科す等、違法・不当な事態を生ぜしめた。
本調査委員会は、パワハラ事案が発生したこと、外部通報に対して違法・不当な対応と取扱いが行われたことの背景と原因には、①知事と職員とのコミュニケーションのギャップないし不足、②知事を支える主要メンバーが同質的な集団となり、組織の分断や異論を受け入れない硬直的姿勢が生じたこと、③知事をはじめ主要メンバーには、他の意見をよく聴き、取り入れる姿勢が乏しかったこと、批判耐性の強さも問題なしとしないこと、④ハラスメント防止規定や公益通報制度実施要網は定められていたが、十分には機能していなかったことなど共通の問題があると分析した。
異なる意見は、自身に、また組織に幅をもたらす。本件文書によるパワハラの指摘は、内部通報を通じ、知事を含めた幹部職員を対象とする組織マネジメント力向上特別研修の実施につながった。贈与問題についての指摘は、財務規則の改正とガイドラインの策定等、物品受領ルールの明確化として結実した。本件文書の作成と配布、それに続く内部公益通報は、県の組織体制の改善につながったのである。
本調査委員会は、本件文書で指摘された事実のうち、①令和3年7月に実施された県知事選挙の事前運動と選挙運動、②令和7年に実施予定の県知事選挙の事前運動に関する部分は、事実であると認めなかった。③令和5年7月開催の政治資金パーティーについては、周囲の者が疑念を感じることも無理からぬ状況のあったことは確認したが、その指摘を事実であるとは認めなかった。
しかし、阪神タイガース、オリックス・バファローズ優勝記念パレードの問題については、補助金が大幅に増額された時期と協賛金拠出依頼の時期が近接し、その双方に片山元副知事が決定的な役割を担っていて、その間には「見返り」ではないかと疑念を持たれてもやむを得ない状況が存していたことが確認された。本調査委員会は、その指摘には真実相当性が認められると判断し、公益通報者保護法の制度趣旨に鑑み、不利益取扱いをしてはならないとした。また、パレードをめぐっては、職員の労務環境に問題があったことが確認された。
通報は、そのすべてが真実であるとは限らない。当事者が見れば明らかに誤りとわかる場合もある。しかし、誤りであっても、第三者として見れば疑惑が生じうる客観的な事情が存するときもある。上記優勝パレードの件では、本調査委員会も、詳細な調査を行うまで事実関係を理解することができなかった。そのような場合に指摘を誤りであると一蹴することは適切でない。疑惑を感じることに無理がない客観的な事情があるのであれば、指摘を真摯に受け止め、その上で、誤りであることを丁寧に、かつ誠実に説明をすることが必要であり、重要である。そうすれば、通報者と県民の理解を得ることができ、信頼が深まって、県政は前進する。
本調査委員会は、調査の過程で多くの職員と話をした。調査に応じた職員の中には、知事を支持する者もいれば、批判的な意見を持つ者もいた。しかし、調査に応じた職員は、みな、県民に尽くしたい、県政を発展させたいとの思いを持っていた。批判を持つ職員も、決まったことは誠実に実行しようとしていた。知事や幹部の職員は、異なる意見に直面した場合や自分の知らないことを外部からの情報で知った場合、あるいは、自らの意図しない事態が発生した場合などには、まず、それがなぜかを聞く姿勢を持つべきである。感情をコントロールせず、いきなり叱責したり、注意・指導をすることは適切でない。相手を尊重する姿勢なくして指導は功を奏しないし、相手との関係に発展はない。
齋藤知事は、令和6年3月27日の記者会見において、本件文書問題に触れ、「うそ八百」、「公務員失格」などと述べて、公用の場で元西播磨県民局長を非難した。
本件百条委員会は、本年3月5日、本件文書問題についての調査結果書を定例議会に提出し、事実関係の分析結果を報告するとともに、知事のパワハラや県民局の公益通報に対する対応についての見解を明らかにして、改善提言を述べる等したが、齋藤知事は、これに対しても、「違法の可能性があるということは適法である可能性もある」、「パワハラに該当するか否かは司法の判断することである」等として、報告書を正面から受け止める姿勢を示していない。報告書は、元西播磨県民局長の公用パソコン内に存した私的な情報が漏洩したことを問題視し、現在第三者(弁護士)によって行われている調査の結果を速やかに公開し、刑事告発を含めた厳正な対応を求めるとの意見を示したが、この点についても、情報漏洩をした職員を懲戒処分する可能性があるとの理由を述べて、必ず公開するとの姿勢は示していない。逆に、公用パソコン中の私的情報に触れて、中身は見ていないとしながら、「倫理上極めて問題がある文書だった」、「わいせつな文書を作成していた」などと発言した。
本調査委員会が、調査を通じ、最も述べたいところは、組織のトップと幹部は、自分とは違う見方もありうると複眼的な思考を行う姿勢を持つべきということである。また、組織の幹部は、感情をコントロールし、特に公式の場では、人を傷つける発言、事態を混乱させるような発言は慎むべきということである。
最後に。
本件文書の事実関係に関する本調査委員会の結論は、事実と異なる部分もあるが、複数の事実については、真実であるか、真実相当性があると認められたいというものである。
21世紀機構の人事については、県に貢献のある有識者に対しては、十分な敬意を払い、丁寧で慎重な対応が求められるというものである。
優勝記念パレードをめぐっては、企画について無理のない方針を取るべきであった、職員の労務管理は適切に行うべきであったというものである。
公益通報については、その有益性をよくかみしめ、法の趣旨に沿った対応をする姿勢を持つべきということである。また、内部公益通報の結果としてなされた改善を一歩進め、外部公益通報を覚知した場合の対応、知事や副知事が通報の対象となった場合の対応等についても体制を整備すべきということである。
パワハラについては、より相談がしやすい制度設計をし、知事や副知事がパワハラの主体となった場合についても体制を整備すべきということである。
これらについては、さらに第三者の意見を聞いて体制を整備する等の方策も考えられないではない。しかし、県には、自らの力でパワハラをなくし、公益通報者を保護する体制を築く自浄力が求められる。本調査報告書がその一助となれば幸いである。
以上