文書問題に関する第三者調査委員会 調査報告書ダイジェスト版

第三者委員会報告書ダイジェスト版 第三者委員会

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兵庫県代表監査委員殿

調査報告書

ダイジェスト版

令和7年3月19日
文書問題に関する第三者調査委員会
委員長 藤本久俊
委員 上田日出子
委員 白井俊美

目次
第1章 序論…1
第2章 本件の経緯…3
第3章 本件文書に記載された事項1の調査結果…4
第4章 本件文書に記載された事項2の調査結果…6
第5章 本件文書に記載された事項3の調査結果…7
第6章 本件文書に記載された事項4の調査結果…8
第7章 本件文書に記載された事項5の調査結果…12
第8章 本件文書に記載された事項6の調査結果…13
第9章 本件文書に記載された事項7の髄柳結果…16
第10章 公益通報などの観点から見た場合の県の対応の問題点について…22
第11章 原因・背景分析等…26
第12章 まとめに代えて…30

  1. 第1章 序論
    1. 1 本調査委員会について
    2. 2 調査の方法等
    3. 3 調査の期間等
  2. 第2章 本件の経緯
  3. 第3章 本件文書に記載された事項1(21世紀機構)の調査結果
    1. 第1 事実認定
    2. 第2 評価
  4. 第4章 本件文書に記載された事項2(令和3年知事選挙)の調査結果
  5. 第5章 本件文書に記載された事項3(次回知事選挙の投票依頼)の調査結果
  6. 第6章 本件文書に記載された事項4(贈答品)の調査結果
    1. 第1 事実認定
      1. 1 コーヒーメーカー等贈与の有無とその経緯
      2. 2 自転車贈与の有無とその経緯
      3. 3 ゴルフのアイアンセット贈与の有無とその経緯
      4. 4 スポーツウェア等の贈答、特定企業との癒着の有無及び経緯
      5. 5 視察先企業リストに役得が列記されていることの有無
      6. 6 農産物や食品関係の贈答品の独り占めの有無とその経線
      7. 7 出張先での飲食のタカリ体質、お土産必須の有無及び経緯
      8. 8 本件文書には記載されていないが、齋藤知事が受領した贈答品の有無とその経緯
        1. (1)播州織の浴衣の贈与の有無とその経緯
        2. (2)スキーウェアの贈与の有無とその経緯
        3. (3)竜山石の湯呑の贈与の有無とその経緯
        4. (4)ベニズワイガニの贈与の有無とその経緯
      9. 9 齋藤知事のおねだり体質が県庁内でも有名で、知事の自宅に贈答品が山のように積まれていることの有無
    2. 第2 評価
  7. 第7章 本件文書に記載された事項5(政治資金パーティー)の調査結果
    1. 第1 事実認定
    2. 第2 評価
  8. 第8章 本件文書に記載された事項6(プロ野球球団優勝記念パレード)の調査結果
    1. 第1 事実認定
      1. 1 パレードについて
      2. 2 補助金について
    2. 策2 評価
      1. 1 本件パレードの協賛金と本件補助金との関係
      2. 2 本件パレードを担当した職員の問題について
      3. 3 その他
  9. 第9章 本件文書に記載された事項7(パワハラ、不適切な言動等)の調査結果
    1. 第1 パワハラ該当性を含めた事実認定
    2. 第2 評価
      1. 1 考古博物館の件
      2. 2 アワイチ報道とその後の淡路県民局長への対応について
      3. 3 空飛ぷクルマをめぐる諸問題
      4. 4 県立美術館の休館をめぐる件について
      5. 5 「SDGs未来都市」等の選定証授与式の広報をめぐる問題について
      6. 6 報道がなされることの事前報告等について
      7. 7 机を叩いて叱責した行為について
      8. 8 付箋を投げた行為について
      9. 9 淡路スポーツチャレンジの件
      10. 10 AIによるマッチングシステムの件
      11. 11 介護テクタノロジー導入・生産性支援センターの件
      12. 12 はばたんペイの件
      13. 13 知事であることを特に強調する発言について
      14. 14 チャットについて
      15. 15 左遷的な人事について
      16. 16 ココロンカードについて
  10. 第10章 公益通報などの観点から見た場合の県の対応の問題点について
    1. 第1 本件の経緯
    2. 第2 公益通報者保護法とその関連法規等
    3. 第3 本件文書の作成・配布行為に対する兵庫県の対応の適否
      1. 1 本件文書の作成・配布行為の公益通報該当性…3号通報に該当
        1. (1)通報対象事実要件充足の有無
        2. (2)「不正の目的」について
      2. 2 齋藤知事と片山副知事ら利害関係者が関与したこと…極めて不当
      3. 3 通報者を探索した行為
        1. (1)メール調査と元西播磨県民局長らへの事情聴取について…違法
        2. (2)公用パソコンの引上げ行為について…違法
      4. 4 令和6年3月27日付け人事…人事の発令は有効
      5. 5 元西播磨県民局長に対して行った懲戒処分
        1. (1)本件文書の作成・配布行為を処分理由の1つとしたことについて…違法・無効
          1. ア 特定事由
          2. イ 通報対象事実の真実相当性
          3. ウ 保護法5条の要件を満たす事実
          4. エ 保護法5条の要件を満たさず、通報者が保護を受けえない部分についての検討
        2. (2)その他の理由に基づいて行った処分について…適法・有効
    4. 第4 元副知事に対する要請行為について…内部公益通報には当たらない
    5. 第5 本件内部公益通報の調査結果を待たず、先行して懲戒処分を課したことについて…不相当
    6. 第6 令和6年3月27日の知事の記者会見における発言について…極めて不適切
  11. 第11章 原因・背景分析等
    1. 1 序論
    2. 2 多くのパワハラ事案が生じた背景と原因
      1. (1)コミュニケーションの不足とギャップ
      2. (2)職員風土
      3. (3)知事と取り巻くメンパーの集団としての同質性
      4. (4)職員への対応をめぐる問題点
      5. (5)ハラスメント防止指針の機能不十分
    3. 3 公益通報に対して適切な対応を取ることができなかった原因
  12. 第12章 まとめに代えて

第1章 序論

1 本調査委員会について

兵庫県は、令和6年9月12日、文書問題に関する第三者調査委員会(以下「本調査委員会」という。)を構成することになる下記委員3名とこれを補助する下記調査員3名との間で、委託契約を締結し、本件事案に関する事実関係の究明、把握、調査、認定、評価、公益通報の観点などから、本件文書に関する兵庫県当局の取扱いに関する事実を調査し、これを評価すること等を委託した。

  • 委員長 藤本久俊(弁護士法人アーネスト法律事務所 弁護土)
  • 委員 上田日出子(佐藤法律事務所 弁護士)
  • 委員 白井俊美(白井俊美法律事務所 弁護士)
  • 調査員 村上秀樹(神戸むらかみ法律事務所 弁護土)
  • 調査員 長城紀道(芦屋法律事務所 弁護士)
  • 調査員 松谷卓也(神戸明石町法律事務所弁護士)

本調査委員会では、兵庫県の職員によって構成される事務局は設置せず、本調査委員会会自体が事務局機能を担った。

本調査委員会では、日本弁護土連合会が令和3年3月19日付けで作成した「地方公共団体における第三者調査委員会調査等指針」(以下「日弁連指針」という。)に準拠して設置された委員会である。本調査委員会は、日弁連指針及び兵庫県との合意のもと、場合によっては事案関係者の対象者には氏名の秘匿を条件に事情聴取すること、事情聴取の場所や時間により対象者が特定されないよう配慮すること、議事録、調書等及び収集した証拠資料は、兵庫県には引き渡さないこと、兵庫県が報告書の内容に実質的に関与をするものであってはならないこと、本調査委員会は兵庫県との間で報告書の実質上の内容に関して協議してはならないこと、などの取扱いを徹底した。

2 調査の方法等

本調査委員会の行った調査の概要は次のとおりである。

(1)兵庫県とその外郭団体に所属する県職員並びに元職員を対象としてホットラインを開設し、累計116名(うち113名は現職員又は外郭学団体に勤務する元職員)から情報提供を得た。また、元職員へのホットラインも合わせて設置し、3名の回答を得た。

(2)本件事案に関する客観的な資料を所持していると推察される兵庫県の各部署に対し、約120に及ぶ資料の提供を依頼し、その提供を受けた。

(3)本件事案に関連すると推察される兵庫県以外の団体ないし個人に対しても、必要に応じて資料の提供を依頼し、その提供を受けた。

(4)前記(3)の団体等に適宜書面照会を行い、その回答を得た。

(5)累計60名と面談し、延べ90時間に及ぶヒアリングを行った。

(6)県庁内の知事室、秘書課、知事応接室、秘書課の倉庫(贈答品を保管)の視祭を行った。また、必要に応じて、本件文書に記載された団体ないしその施設を訪問し、ヒアリングを含めて現地の様子を見分した。

(7)兵庫県の各部署に対し、文書問題調査特別委員会(いわゆる百条委員会)に提出した資料(追加提出分も含め)の全てを本調査委員会にも提供することを依頼し、その提供を受けた。

(8)上記の百条委員会に対し、兵庫県以外の団体、組織や個人から入手した資料、アンケート結果(記名分のアンケート)と証人尋問の結果(議事録、調書。非公開の尋問分も含めて)の提供を求め、大部分の提供を受けた。ただし、非公開で実施された尋問の記録と、アンケートは開示されなかった。なお、公開された尋問については、適宜、視聴した。

3 調査の期間等

(1)本調査委員会は、令和6年9月12日から令和7年3月12日まで調査を行った。

(2)本調査委員会は、令和7年3月18日までの間に、対面の方法により12回にわたって委員会を開催した。

(3)本調査報告書で報告する事項は、実施した調査の範囲内で判明したものに限られる。情報提供者への被害、不利益防止の観点から、十分な調査が出来なかった関連事項もあった。

第2章 本件の経緯

公表版を参照のこと

第3章 本件文書に記載された事項1(21世紀機構)の調査結果

第1 事実認定

ひょうご震炎記念21世紀研究機構(以下「21世紀機構」という。)は、阪神・淡路大震災の経験と教訓を踏まえ、国内外の自然災害等に対して様々な支援活動等に取り組むとともに、多文化共生の21世紀文明の構築を目指す政策志向型のシンクタンクである。県の密接公社等に当たり、従前より、兵庫県が理事長、副理事長、その他理事の人事案を策定してきた。

令和3年8月に齋藤知事が就任した後、兵庫県の密接公社等について組織をスリム化するという方向性のもとで、21世紀機構の役員構成についても、片山元副知事が所管して人事案を検討した。

片山元副知事は、検討した結果を踏まえ、令和6年2月に、齋藤知事の了承を得た上で、当時理事長であった五百旗頭真氏(以下「五百旗頭氏」という。)に対して副理事長の人事に関する変更案を伝えることになった。

同年2月29日午後5時ころ、片山元副知事が21世紀機構の事務所を訪問し、五百旗頭氏と面談をした。

片山元副知事は、五百旗頭氏に対して、令和7年に震炎30年を迎えるに当たり、令和6年7月以降もあと1期理事長を務めてほしい旨を伝え、五百旗頭氏はこれを了承した。

次いで、片山元副知事は、五百旗頭氏に対し、副理事長2名の退任の人事を伝えた。

この面談後、五百旗頭氏は21世紀機構の他の役員との間で、人事方針の一部については余りに失礼である旨の話をした上で、片山元副知事に連絡し、考え直すよう求めた。これを受けて、片山元副知事は調整を行った。

同日以後も、五百族頭氏は21世紀機構の関係者に対して、同日に片山元副知事から告げられた人事に関する内容について腹が立つ旨を伝えていた。

同年3月6日、五百旗頭氏は、昼から出勤したが、執務を開始した後に倒れ、救急搬送された。その後、神戸市内の病院で急性大動脈解離のため死亡した。

第2 評価

本件文書が指摘する21世紀機構の人事に関する県側の行為が五百旗頭氏の命を縮めたとの点自体については、死亡との間の因果関係の有無を裏付ける証拠はなく、不明である。

しかし、令和6年2月29日に片山元副知事が21世紀機構の副理事長の人事に関する方針を事前の相談なく五百旗頭氏に伝えた出来事は、五百旗頭氏に対して、日常的ではない一定以上大きなストレスを与えたことが窺われる。

県の密接公社等のスリム化の方針、また、それに基づく21世紀機構における今回の人事改革案については、県の政策に基づくものであるから、その是非について本調査委員会は言及しない。

ただ、それまでの21世紀機構の来歴、五百旗頭氏、副理事長らが多年にわたって同機構に貢献してきた経緯や、翌年(令和7年)に節目である震災30周年を迎えるという時期に鑑みれば、片山元副知事が五百旗頭氏に伝えた人事改革案について、当時の他の県職員らの認識からしても疑問を抱く余地があったことも事実である。

人事改革の進め方として、令和6年6月をもって副理事長らについて再任しないというのであれば、五百旗頭氏に対し、より以前から人事案に関する県の考え方を伝えることや、継続した協議を行うといった、より丁寧な調整を行う余地はあったものと考えられる。

第4章 本件文書に記載された事項2(令和3年知事選挙)の調査結果

1 令和3年に行われた兵庫県知事選挙(以下「令和3年知事選挙」という。)において、本件文書に記載された県幹部らが公職選挙法や地方公務員法に違反する事前運動、選挙運動をした事実は認められなかった。

なお、一部の者は、齋藤氏の街頭演説を傍聴したことがあるが、齋藤氏を応援する目的ではなく、令和3年知事選挙の情勢を把握し、知事らが参加する公式の会議の場で報告するためにしたものであって、職務に関連する行為であると認められた。

また、一部の者は、令和3年知事選挙の告示前から、齋藤氏を支援していた自民党兵庫議員団に所属する兵庫県議会議員らに対し、職務上有していた情報や資料を提供し、それらが齋藤氏の公約を策定するに当たって利用されたことが認められた。しかし、そのような行為は、従来からいずれの立候補者予定者に対しても、要請があれば、それに応じてされていたものであって、兵庫県職員としての職務を逸脱した異例の行為とは言えないし、特に齋藤氏に対してのみ便宜を図り、同氏を支援する目的でした行為であるとも言えない。

2 上記の職員らは、令和3年に齋藤知事が就任した後に、新県政推進室などの要職に任命されているが、同氏らの経歴や能力に照らして不相応な役職に任命されたとも言えないから、本件文書が指摘するような、令和3年知事選挙において齋藤知事を支援したことによる論功行賞の人事であるとは認められなかった。

第5章 本件文書に記載された事項3(次回知事選挙の投票依頼)の調査結果

齋藤知事は、令和6年2月から同年6月までの間、産業労働部長を随行させ、兵庫県内の商工会及び商工会議所を訪問した。

これらの訪問の主要な目的は令和6年度の予算や重点施策について説明し、理解と支持を求めるとともに、施策に対する意見・要望や各地域の経済等の状況を聴取して把握することにあった。

各訪問の際、齋藤知事らが令和7年に実施される予定であった兵庫県知事選挙において齋藤知事への支援や投票を依頼するような言動をした事実については、関係資料を精査したほか、各訪問先に対する書面による照会、齋藤知事らからの事情聴取など本調査委員会においてなし得る限りの調査を尽くしたが、その事実を認めるに足りる証拠等はなかった。

以上のとおり、本調査委員会の調査においては、本件文書が指摘するような齋藤知事らが令和7年に実施される予定であった兵庫県知事選挙に向け、兵庫県内各地の商工会議所及び商工会を訪問し、同選挙において齋藤知事への投票を依頓するなどの働き掛けをした事実を認めることはできなかった。

第6章 本件文書に記載された事項4(贈答品)の調査結果

第1 事実認定

1 コーヒーメーカー等贈与の有無とその経緯

本件文書「④贈答品の山」に例1と記載されている内容については、兵庫型奨学金返済支援制度利用企業の視察として齋藤知事がコーヒーメーカー等を製造する企業を訪れたこと、周囲にマスコミがおり、高級コーヒーメーカーの受領について疑問を投げかける質問が出たこと、その発言後、齋藤知事が贈与を辞退したこと、後日、兵庫県庁にコーヒーメーカーが届いたという多くの記載が事実である。

しかし、本件文書の趣旨、重要事項である、齋藤知事個人による受領については事実ではなく、齋藤知事が随行職員に対して、コーヒーメーカー等を秘書課に送るよう同社に伝えるよう指示したことも、齋藤知事個人がコーヒーメーカー等を受領した事実も認められない。齋藤知事がコーヒーメーカーを所望した事実も認められない。

2 自転車贈与の有無とその経緯

本件文書「④贈答品の山」例2のうち、自転車を販売する企業と兵庫県が連携協定を結んだこと、ヘルメット着用のキャンペーンを展開したこと、PR用の写真は同社のロードバイク(約50万円)に跨る知事であったという多くの記載が事実である。

しかし、本件文書の趣旨、重要事項である、齋藤知事個人への贈与は事実ではなく、贈与の偽装として無償貸与の形をとったという経緯も認められない。連携協定の見返りとして齋藤知事個人にロードバイクが贈与された事実はなく、本件文書記載の職員がロードバイクの贈与等を偽装するアレンジをした事実も認められない。

3 ゴルフのアイアンセット贈与の有無とその経緯

本件文書「④贈答品の山」例3については、本件文書記載の職員が知事と同じ総務省からの出向者であることは事実であるが、それ以外の記載はいずれも事実とは認められない。

4 スポーツウェア等の贈答、特定企業との癒着の有無及び経緯

本件文書「④贈答品の山」に例4と記載されている内容については、齋藤知事がスポーツ用品を製造販売する企業からスポーツウェアの提供を受けていたことは事実であり、同社からすると齋藤知事が広告塔としての意味があったこと(ただし、程度問題として、同社が商品PRに大きな期待や役割を求めていたものとは考え難い)は否定できないが、あくまで兵庫県への贈与であった。同社との癒着の事実は認められなかった。

5 視察先企業リストに役得が列記されていることの有無

齋藤知事の視察先やカウンターパートの企業を選定する際、何がもらえるかが判斯材料で、企業リストの備考欄に役得が列記されているといった事実は認められない。

6 農産物や食品関係の贈答品の独り占めの有無とその経線

齋藤知事が農産物や食品関係の贈答品を概ね1人で持ち帰り、職員に分配していなかったことは事実で、独り占めと揶揄される外形的要因があることは否定できない。

しかし、各贈与者が特産品を知事に食べてもらいたいと考えて渡しているものが主であることからすると、知事がそのまま持ち帰ること自体、本件文書が指摘するように強欲とまで言えるのか疑間がある。公務として正当な理由に基づき視察や行事出席等を行っていることからすると、出張が好きな理由がこれらの農産物や食品がもらえることにあるという事実も明らかとはいえない。

7 出張先での飲食のタカリ体質、お土産必須の有無及び経緯

齋藤知事が出張先で飲食をした際に代金を支払わず、出張先等に要求して支払わせたり、お土産を必須とさせたりしていた事実は認めらちれない。

8 本件文書には記載されていないが、齋藤知事が受領した贈答品の有無とその経緯

(1)播州織の浴衣の贈与の有無とその経緯

齋藤知事は、兵庫県として、商工会議所関連の団体から、播州織の浴衣1着と帯2点の無償提供を受けた。地場産業である播州織のPRとして、齋藤知事の公務でのみ使用し、秘書課で保管されていた。

(2)スキーウェアの贈与の有無とその経緯

齋藤知事の要望を受け、複数職員の伝聞を通じ、某観光協会の会長にスキーウェア提供が打診されたが、必要であれば購入してもらうしかない、との回答で、贈与されなかった。

もっとも、知事発信で、スキーウェアの購与について打診があったことからすると、知事としてはあくまで質問という意図で、かつ、個人としての所有ではなく、知事としての職務での使用のみを想定していたとしても、知事がスキーウェアを(個人としてではなく県としてであろうが)贈与してもらうことを期待していた事実に変わりはない。どれだけ丁寧かつ柔らかな物言いで伝えたとしても、県知事という県のトップからの期待、要望に圧力を感じる、あるいはそこまで感じなくても対応しないといけないと受け止めるケースはありうると思われることから、外形的にみて知事の側から贈与を希望したと見られる可能性がある状況であったことは事実といえる。

(3)竜山石の湯呑の贈与の有無とその経緯

齋藤知事は、兵庫県として、竜山石を使った商品を製造している企業から、竜山石の湯呑(複数個入りのセットで、小売価格約4万円弱だったようである)の贈与を受けた。あくまで県として受領され、PRとして使用されたものであった。

もっとも、竜山石の湯呑贈与の経緯としては、県庁内での知事協謙において、職員から竜山石の湯呑の話題が出た際、齋藤知事が「使ってみたいな」等といった興味、関心を示す発言をしたこと、普段から齋藤知事が知事応接室を県の特産品のPRの場として使いたいという趣旨の発言を公言していたこと、齋藤知事は普段からあまり多くを語らず、周囲の職員には知事の意向や趣旨を汲み取って動くことを期待していた様子があることから、職員が齋藤知事の発言、態度を受けて齋藤知事が贈与を希望していると理解し、同社に相談し、贈与することになったものである。

その意味で、齋藤知事が、贈与を求めるよう要求する直接的な発言をしたものではないが、齋藤知事自身、無償提供を期待した発言をしていたものといえ、外形的にみて知事の側から贈与を希望したと見られる可能性がある状況であったことは事実といえる。

(4)ベニズワイガニの贈与の有無とその経緯

齋藤知事は、漁業協同組合から、事前に用意されていたお土産として、ベニズワイガニ2杯の贈与を受け、自宅に持ち帰った。齋藤知事が2杯持ち帰ることになったのは、他の職員が受領を辞退したためのようである。

9 齋藤知事のおねだり体質が県庁内でも有名で、知事の自宅に贈答品が山のように積まれていることの有無

兵庫県庁内の一定範囲の幹部のうちでは、齋藤知事が要望して贈答品をたくさんもらっているという噂はあったようであるが、県庁全体で有名な噂とまでなっていたわけではなかった。農産物や食品関係については、累計するとかなりの数の贈与を受け、自宅に持ち帰って消費していたようであるものの、自宅に贈答品が山のように積まれているという事実は確認できなかった。

第2 評価

贈収賄と評価できる事実はなく、本件文書で例示された1~4の事案は、いずれも兵庫県に対する贈与か使用貸借であり、齋藤知事個人への贈与ではなかった。

多くの特産品の農産物や食品関係を齋藤知事1人が持ち帰っていたことはおおむね事実であるが、1件1件については、社交儀礼の範囲内を超えることが明らかとは言えない上、本件文書が指摘するような強欲によるものと断定することはできないし、お土産を必須としていたこと、飲食代を出張先に支払わせていた事実、更には、出張が好きな理由が飲食やお土産にあるという事実も明らかとは言えない。その意味で、いずれも重要な部分、指摘する趣旨が該当する事実は認められなかったものと言わざるを得ない。

もっとも、外形的に見て、齋藤知事による贈答品の要望とも受け取りうる発言が複数件で見受けられ、特産品となる農産物や食品関係を多く贈与されて自己消費していたことは事実であるし、コーヒーメーカーの件については、マスコミからの疑問を投げかける質問が出た後に贈与を辞退した中で、後日に兵庫県庁にコーヒーメーカーが届いていること等からすると、外形的に見て、マスコミを気にして贈与を断ったにもかかわらず後で隠れて受領したのではないかと疑われる素地があったこと、齋藤知事が贈与を要求している、個人的に贈答品を非常に多くもらっていると他者から疑惑の目で見られるケースがあったこと自体は否定し難いものと評価せぎるを得ない。

また、ベニズワイガニ2杯については、県との間で一定の利害関係がある組合から贈与されたものであることからすると、外形的に見て職務の公正さを疑われかねない利害関係もあることから、違法な収賄とはいえなくとも、受領を辞退した職員のように、齋藤知事も受領しないことが望ましかったのではないかと思われる。

第7章 本件文書に記載された事項5(政治資金パーティー)の調査結果

第1 事実認定

令和5年7月30日に実施された齋藤知事の政治資金パーティーに際しては、片山元副知事が呼び掛ける形で、元県職員による世話人組織が構成され、この組織がパーティー券販売活動の一部を担っていた。当時の兵庫県信用保証協会(以下「保証協会」という。)理事長と理事の1人は、産業労働部出身という経歴を有していたため、片山元副知事の指示の下、県下の各商工会議所を訪問してチラシの配布先名簿等を入手し、若しくは、完成したチラシを持参するなどの活動をした。もっとも、保証協会の理事長が世話人組織の責任者という立場にあったものとは認められなかった。

当時、県下の商工会議所、商工会では、経営指導員の定数削減、補助金カットが問題となっていたが、県も、小規模商工事業者の減少に伴って直ちに経営指導員も減員していく対応をとると、地城の経済活動がさらに弱まっていくとの懸念を共有しており、経営指導員の削滅を強く求める立場はとっておらず、県が商工会議所や商工会に対して、経営指導員削滅の方向で圧力をかけたという事実自体が認められなかった。

保証協会の理事長と理事の1人が、県下の商工会議所や商工会、企業等に対して、パーティー券の購入依頼を持ちかけた事実は、本調査委員会の調査によっても確認できず、本件文書で特定された現役の県職員がパーティー券の販売活動に関与していた事実も認められなかった。

上記関与者の保証協会理事長就任について、報奨・厚遇人事という事情は認められなかった。その後、理事長は、民間企業の社外監実役にも就任したが、県から当該企業に対し、これに伴う特段の利益供与があったとも認められなかった。

第2 評価

信用保証協会は一定の公的な性格をも有し、保証業務を通じて中小企業の資金調達にとって重要な役割を果たしているところ、信用保証協会の理事長等の名刺を各地で配って、パーティー券販売活動の一部を担っていたという事実は、信用保証協会が保つべき公的なイメージや、業務の公平中立性に対する信頼などを傷つけるものであった。

経営指導員の定数削減問題について、商工会議所や商工会と県は、県下の中小企業の支援という点では認識が共通しており、片山元創知事や本件文曹で特定された現役職員らが、県の施策の方向性とも異なる補助金の削減を仄めかすという行動をとること自体が考えにくい。

本件文書が事項5の箇所で指摘した事柄については事実関係が認められず、パーティー券購入依頼に関連して違法行為があったとか、不当な利益供与があったとかの批判には根拠がなかった。

第8章 本件文書に記載された事項6(プロ野球球団優勝記念パレード)の調査結果

第1 事実認定

1 パレードについて

(1)令和5年、プロ野球において阪神タイガースとオリックス・バファローズが優勝し、大阪府、兵庫県、両球団その他関連団体の間で両球団の優勝を祝うパレード(以下「本件パレード」という。)を開催することが企画され、11月23日実施された。

(2)同年9月22日に、兵庫県において、本件パレードの実務を担うプロジェクトチーム(以下「プロジェクトチーム」という。)が立ち上げられた。

(3)本件パレードの資金については、兵庫県は、大阪府が示した方針に倣って、公金を投入せず、個人からのクラウドファンディングと企業・団体(以下「企業等」という。)からの協賛金をもって調達する方針とした。

本会パレードの当初の予算では、事業運営費5億5000万円の支出を見込み、ク
ラウドファンディングの目標額は5億円であった。しかし、クラウドファンディングの募集は低調であったため、企業等への協賛金の拠出依頼を積極的にに行う必要が生じた。そのため、兵庫県においては、各企業に協賛金の依頼を行っていた。

(4)同年11月17日の午後3時以前には、当時大阪府から伝えられていた資金調達の必要額に対して、片山元副知事らが依願していた企業等からの協賛金により確保できる見通しがあった。

しかし、同日午後3時台、大阪府から兵庫県に伝えられた連絡により、さらに2000万円の不足額があることが伝えられた。そのことは後に、片山元副知事にも伝達された。

(5)片山元副知事は、同月21日、某信用金庫本店を訪問し、理事長と面談した。片山元副知事が、本件パレードの事業費に充てる協賛金が不足しているので、各信用金庫に協賛金を拠出するよう呼び掛けてほしい旨依頼したところ、同金庫の理事長は、これに応じた。各信用金庫が拠出する協賛金の額については、両者間で話す中で合計2000万円となった。この際に、片山元副知事が、信用金庫への補助金に言及した事実は認められなかった。

同金庫理事長は、各信用金庫の理事長に電話をし、協賛金を拠出するよう伝えた。各信用金庫はこれに応じ、本件パレード終了後に協賛金の申込みをし、拠出をした。

(6)同月23日に本件パレードが開催された。

(7)プロジェクトチーム内では、例のない大規権イベントである本件パレードを大阪府等外部と調整しながら開催するという困難な業務を担当し、所属していた各職員の負担は非常に重かった。

副リーダーであった職員は、パソコンに残された記録によれば本件パレード直前の1か月では134時間超の時間外勤務をしていた上、大阪府や事業者等との調整など担当業務は多岐にわたっていた。

同職員は、11月10日から上司に不眠を訴えており、本件パレード終了後12月8日にはプロジェクトチームから外れた。その後、令和6年1月26日以降、病気休暇となり、同年4月、死亡した。

2 補助金について

(1)兵庫県において、令和4年度から中小企業経営改善・成長力強化支援事業が行われ、同事業により金融機関に補助金が交付されていた。

同事業は、金融機関が事業者に対して行う伴走支援を補助し、事業者の経営改善を促進することを目的とする事業であり、国から都道府県に交付される地方創生臨時交付金を財源とする。

(2)同事業による補助金額は、第1期(令和4年度)は12億円、第2期(令和5年度)は8俸円であった。

(3)令和5年11月9日、第3期の補助金(以下「本件補助金」という。)の予算について、産業労傷部は財政部財政課に対し、1億円の予算要求を行った。

(4)同月14日の課長査定において同予算は1億円と査定された。

その後、財政課長から片山元副知事に対して報告を行った際、片山元副知事は財攻課長に対し、地域創生臨時交付金の活用を前提に4億円程度で事業設計するようロ頭で指示した。

(5)同月16日、産業労働部は4億円の予算要求を行い、同月17日の部長査定における予算額は3億7500万円であったが、21日の知事査定における齋藤知事の指示により、本件補助金の予算額は4億円となった。

(6)令和5年12月13日に、本件補助金を含む補正予算案が県議会で可決、成立した。

(7)その後、本件補助金について2回にわたって募集が行われ、予算額を上回る応募があった。本件補助金は、令和6年度の中小企業経営改善・成長力強化支援事業による金融機関の対象事業者に対する伴走支援に係る報告書提出後に交付されるものであるから、本件補助金の予算は、未だ執行されていない。

策2 評価

1 本件パレードの協賛金と本件補助金との関係

本件文書では「キックバック」と表現するが、本件パレードの協賛金を各信用金庫が拠出することと各信用金庫に本件補助金が交付されることとの間に、前後関係を問わず「見返り」の関係があったか否かを検討した。

片山元副知事が各信用金庫に協賛金の拠出を依頼する際に、本件補助金の予算を増額する旨を告知したことを窺わせる証言等の証拠は見当たらない。

本件補助金の予算の増額について、本件パレード関係者の証言及び当時のメールの内容からすれば、片山元副知事が本件補助金の予算額の増額を指示した際には、各信用金庫に対して本件パレードの協賛金として2000万円の拠出を依頼する意思をまだ有していなかったことが認められた。

したがって、本件パレードの協資金と本件補助金との間に「キックバック」や`見返り」の関係は認められなかった。

しかし、片山元副知事が、各信用金庫に関係する本件パレードの協賛金と本件補助金のいずれについても決定的な役割を果たしたことが外形的にみて疑念を抱かれる原因になったことは指摘せざるを得ない。

また、そのような疑念を抱かれる事態が発生した一因としては、本件パレードの資金計画において、予測が困難なクラウドファンディングの見込みが楽観的過ぎたため資金調達に無理が生じたことも挙げられる。資金調達の方法等は大阪府の方針の影響が多分にあったことが窺われるが、そうであったとしても、兵庫県としては、本件パレードの資金調達を含む企画全般について、無理のない、現実的な方針を採るべきであった。

2 本件パレードを担当した職員の問題について

本件文書が言及する職員が「不正行為」に巻き込まれたことは認められなかった。

しかし、当該職員には、本件文書が指摘する大阪府をはじめ各方面との困難な調整において過重な負荷がかかっていたことは認められた。本件パレード直前1か月の時間外勤務時間は134時間超に及ぴ、また、業務の質としても、例のない大規模イベント開催に当たり、短期間に、普段の業務とは異なる内容の業務に従事し、大阪府や事業者等との困難な調整を行ったこと、協賛金の依頼を直接担当したわけではないものの、県として本件パレードの資金調達に苦労したことなど、厳しい状況の中で心身ともに負担が極めて大きかったことが認められた。

当誠職員は本件パレードに関する業務に従事していた期間中に不眠を訴え、その後に病気休職となったのであり、同人の置かれた勤務環境については、労務管理上重要な問題として正しく検証されなければならない。

3 その他

本件文書は、本件パレードの協賛金について信用金庫以外の他の企業に対しての便宜供与があった旨も指摘するが、そのような事実は認められなかった。

第9章 本件文書に記載された事項7(パワハラ、不適切な言動等)の調査結果

第1 パワハラ該当性を含めた事実認定

認定した齋藤知事の主な行為パワハラ
該当性
①出張先の施設のエントランスが自動車進入禁止とされていたため、20m程手前で公用車を降りた際、出迎えた職員を激しく叱貫した。
②齋藤知事が事前に聞いていなかったアワイチ(淡路島を自転車で一周すること)の起終点に設置した写真撮影用の記念碑の除幕式がテレビで取り上げられたことを問題視して立腹し、これを他の職員を通じて知った責任者が齋藤知事に謝罪した。×
③空飛ぷクルマについて企業との連携協定の締結式前に新聞で報道が行われたことを問題視し、担当職員が知事室に入るやいなや、この記事は何なのかと問い詰めるとともに、「空クルは知事直轄」、「勝手にやるな」等と厳しい口調で論難し、担当職員が説明しようとしたが、「やり直し」と述べて聞く耳を持たず、協議は短時間で打ち切られた。
④県立美術館が夏休み期間中に休館するとの新聞報道を見て「聞いていない」と激怒し、側近職員に向けたチャットで「こんなことでは県立美術館への予算措置はできません。」等と強い措置を取ることを示唆した。
翌日、齋藤知事は、知事室に関係者を呼び、責任者から事情を聞くことなく、知事室入室直後から、「聞いていない」等と述べて叱責した。関係職員は、既に予算化されている問題であることや同期間に休館するやむを得ない事情を説明したが、齋藤知事は、「聞いていない」と強弁するばかりで、納得しなかった。同職員は、やむをえず、謝罪の言葬を繰り返し述べた。
⑤兵庫県が受質したSDGs未来都市等の選定証授与式について、マスコミが現地取材に来ないことを問題視し、夜間、休日にも側近職員にチャットを送り、個別に売込みをする等して報道各社が現地取材に来るよう交渉すること等を繰り返し求めた。
⑥報道からインタビューを受けたことについて報告がないと、報道がなされたことについて報告がなかったこと等を問題視し、担当職員を叱責した。
⑦机を叩いて職員を叱責した。
⑧叱責するとともに、付箋を投げた。
⑨スポーツイベントで知事用の個室を用意しなかったこと、昼食が冷えていたことの不満を側近職員に伝えた。知事の意向を聞いた側近職員は、担当職員を叱責した。×
⑩AIによるマッチングシステムに関する知事協議で、担当者が説明を始める前に、内容を知らないのに会見で発表するかの判断はできないと一蹴した。担当者らは、「内容を説明します。」と述べたが、「なぜ今聞かないといけないのか。今聞いて判断できるわけがない。部長を呼んで来るように。」と述べて、中身の説明に入らせなかった。
⑪介護テクノロジー導入・生産性支援センターに関する知事協議で、中身に入ることなく、「こんな話聞いていない。」「なんでこんな支援センターを勝手に作っているのか。」等と述べて担当者らを叱責した。担当者らは、既に予算化されている等として、説明しようとしたが、齋藤知事は、「こんな資料については知らない。資料に入っていたら知事が全部知っているとは思わないように。」と述べて、それ以上の協議を行わなかった。
⑫はばたんペイの知事協議で、キャンペーン用のうちわを見ながら舌打ちし、大きなため息をついた。齋藤知事が問題にしたのは、齋藤知事の肝煎事業であるのに、知事のメッセージと顔写真がないことであった。
⑬知事であることを強調する発言×
⑭長期間にわたって継続的に繰り返されてきた夜間、休日のチャットによる叱責や業務指示
⑮人事処分×
⑯斎藤知事の名前が入っていない既発行のココロンカードの全部差替え×

第2 評価

1 考古博物館の件

考古博物館での叱責は、指導の必要性がない上に、相当性を欠く方法で行われた。担当職員の精神面に悪影響を与えたばかりでなく、伝え聞いた職員を委縮させ、勤務環境を悪化させたものであるから、パワハラに当たる。

2 アワイチ報道とその後の淡路県民局長への対応について

齋藤知事は、アワイチのモニュメント除幕式について、責任者となる職員を直接に叱責したものではない。当該職員本人も冷淡な態度をとられたという意識は有していなかった。その意味で、パワハラと認定することはしない。

3 空飛ぷクルマをめぐる諸問題

知事協議でのやり取りは、齋藤知事が怒りに任せて職員を論難したものと言わざるを得ない。感情的に怒りをぶつけることは指導ではない。職員が齋藤知事を無視して勝手に事業を進めようとした事実は認められないことから、叱責、指導する業務上の必要性はなく、理不尽と言うべきものであって、パワハラに当たる。

4 県立美術館の休館をめぐる件について

県立美術館は、県から独立した行政委員会である教育委員会の所管であるから、齋藤知事には休館の時期について指導権限はなく、その問題に関与すること自体が越権行為である。加えて、休館期間が夏休みと重なったのは、他の展示等の関係でやむを得なかったもので、そこに指導の必要性は認められない。

齋藤知事は、事情を聞くことなく、最初から叱責し、職員が事情を説明しようとしても、説明を聞こうとしなかった。また、直接ではないが、チャットにより他の職員にも知らしめる形で「こんなことでは県立美術館への予算措置はできません。」と述べて、怒りの程度が強いことを表現し、圧力をかけた。その言動は、極めて不適切である。

上記を総合勘案し、齋藤知事の言動は、パワハラに当たると判断した。

5 「SDGs未来都市」等の選定証授与式の広報をめぐる問題について

マスコミは、それぞれの社においてニュースパリューの有無とその重要度を判断し、報道するか否かを決める。報道する場合も、その時期は独自に判断する。

しかし、齋藤知事は、現地に取材に来てその状況を報道するようマスコミ各社と交渉することを、深夜、休日にもかかわらず、職員に強く求めた。マスコミ側の考えるニュースとしての価値、評価の問題を考慮せずに成果を求めるものであって、実現困難な業務についてする過剰な要求であることから、パワハラに当たる。

6 報道がなされることの事前報告等について

齋藤知事は、

(1)マイナンバーに関する件において、関係職員に対し、取材を受けた事実を報告せず、齋藤知事の記者会見が始まる前に予想される質問内容についてレクチャーしなかったことは問題であると叱責し、

(2)豊岡演劇祭について、職員からの報告でなく、報道で日程を知ったこと、日程が決まる前に知事協議を行わなかったことは問題である、連携が取れていない等と叱責し、但馬県民局長に、「まったくわかっていない」と伝えて釘を刺しておくことを求め、

(3)大阪府から兵庫県内の私立高校に通う生徒の授業料無償化をめぐる問題について、午前中になされた報道を昼食会までに報告しなかったことは問題であると叱責した。

しかし、職員は、すべての報道を即時にチェックできるものではない。チェックできても、そのうちのどれを報告し、どれを報告しないかは、事案の重要度と知事の繁忙度、齋藤知事がその時点で行っている仕事の重要度等によって変わってくる。また、どの情報に緊急性が高いかについては、齋藤知事と職員の判断が一致するとは限らない。

上記の各案件についての齋藤知事の言動は、いずれも、職員に遇大な要求を求め、それができないことへの叱責であり、パワハラに当たる。

7 机を叩いて叱責した行為について

齋藤知事は、尼崎西宮芦屋港湾計画事業に関して報道がされたことについて、担当職員を知事室に呼び、事情を聞くことなく、いきなり、「県として意思決定していないことを先に出すのはよくない。許せない。」と述べ、机を叩いて叱責した。

しかし、県が意思決定していないことについて報道されたものではなかった。この案件については、指導の必要性はないにもかかわらず、机を叩くという相当性を欠く方法で相手を威圧しようとした。知事と相手方との間ではいまだ信頼関係が築かれていない時期に行われたという意味でも、相手の職員に精神的衝撃を与えたことは否定できない。伝え聞いた職員は、畏怖し、その勤務環境は悪化した。よって、本事案はパワハラに当たる。

8 付箋を投げた行為について

齋藤知事は、片山元副知事と協議した際、2回、付箋を投げた。

元副知事は、齋藤知事から見て斜めの場所に座っており、齋藤知事の前にはアクリル板が設置されていた。齋藤知事は、アクリル板の方向に付箋を投げたのであり、元副知事に向かって投げたものではない。投げた付箋は、1回は1枚であり、もう1回は複数枚重なっていたが、分厚いというほどのものではない。

しかし、付箋に厚みがなく、元副知事に向けて投げられたものではないとしても、会議中に物を投げる動作をすることは、それ自体が相手を威圧する意味を持つ。

元副知事は、威圧を受けたとまでは感じていない旨を述べていること、他の職員とは異なり、元副知事と齋藤知事とは密接で信頼し合った関係にあり、コミュニケーションの機会が多かったこと等を考えれば、元副知事との関係では、パワハラと断定し難い。

もっとも、齋藤知事による威圧的な行為は、伝え聞いた周囲の職員を委縮させ、就業環境を悪化させる面を少なからず有している。元副知事との関係で付箋を投げた行為は、パワハラに当たるとは断定しないが、パワハラの疑いが残ることは指摘しておく。

9 淡路スポーツチャレンジの件

齋藤知事は、個室が用意されていなかったこと、食品の温度について、担当者を直接叱責したものではない。パワハラとは認定しない。

10 AIによるマッチングシステムの件

齋藤知事の言動は、事情を聞き、相手の認識を確認せずに指導が必要と判断し、強い口調で叱責したもので、適切を欠くと言わざるを得ない。叱責する前に事情を聞いておけば、互いの認識の違いを確認し、そごを埋めることができたはずで、そうすればそもそも齋藤知事が行ったような指導をする必要はなかったと考えられる。

仮に指導の必要を感じたとしても、予算化された事案について、説明を聞くことなく、知らない等と述べたり、担当者をないがしろにしたりすることは、相当性を欠く。

この事実も、職員間では噂として広まり、齋藤知事は話を聞いてくれないとして士気の低下を生んだ。事業の開始は、本来の予定より1か月遅れた。

よって、勤務環境を悪化さをせたものとして、パワハラに当たる。

11 介護テクタノロジー導入・生産性支援センターの件

わからないことは担当者に聞けばよく、事情を聞かずに説明を受けることを拒否するのは適切でない。本件については、事情を聞けば、知事は前提事実を正しく認識できたから、指導を行う必要さえなかった。事情を聞かずに強い口調で叱責することは相当性も欠く。

一部の職員に、齋藤知事は事情を聞いてくれないとの気分を生み、センター開設が5か月遅れたことも相まって、士気の低下を招いた。

よって、勤務環境を悪化させたものとして、パワハラに当たる。

12 はばたんペイの件

追加注文までして齋藤知事のメッセージと顔写真を入れたうちわが必要であったかは、疑問なしとしない。

齋藤知事から明確にこれらを入れるよう指示があった堤合は格別、そうでない場合、齋藤知事のメッセージと顔写真を入れることは当然に必要な業務とは言えないのであるから、当初、その指示のなかった本件は業務上のミスや懈怠ではない。追加提案として協議すればよく、担当者のミスであるかのような指導を行うことは誤りである。

指導の方法としても、舌打ちをし、ため息をついて相手に考えさせようとすることは、無用に相手を威圧し、萎縮効果を生じさせるものであって、相当でない。

この事実を伝え聞いた多くの職員は、広報物を作成するときには、齋藤知事の顔写真を入れるか検討が必要になったと感じ、職員の中には、顔写真を入れなければ叱責され、あるいは機嫌を損ねる可能性があると畏怖する者が現れるようになった。本来の仕事以外への気遣いをさせ、担当職員に精神的圧迫を与えるとともに、職員の不満と士気の低下を招いた。

よって、勤務環境を悪化させたものであり、パワハラに当たる。

13 知事であることを特に強調する発言について

知事は県民から選挙で選ばれた公人である。自身が知事であることをことさらに強調する発言は、知事は県民の意思を背景にその意見を述べているものとして、職員はそれ以上反論できなくなるし、意見も述べられなくなる側面を有する。

その言動がなされる場面や、声の大きさ、トーンによっては、議論や反論を封じる意味を持ち、適切を欠く場合がありうるものと判断する。ただし、具体的な事象が明らかでないので、その発言をパワハラであるとまでは認定しない。

14 チャットについて

齋藤知事の夜間や休日のチャットによる叱責や業務指示は、その対象となる内容が必ずしも緊急性のあるものではなく、夜間や休日ではなく翌登庁時に協議すればよいものが多く、職員の生活時間を無用に侵害している(業務上必要かつ相当な範囲を越える)ばかりでなく、内容的にも過剰の要求、過度の精神的負担を与えるものも相当数あること、知事という職務上の優位性を背景に行われ、しかも長期間にわたって継続的に繰り返されてきたものであること、チャットの相手方である幹部職員を精神的に疲弊させ勤務環境を害するものであったことから、パワハラに当たる。

15 左遷的な人事について

本調査委員会は、兵庫県の業務の全てを知りうるものではなく、個々の人事の必要性等まで遡って評価できないため、個々の人事が左遷的なものであったかについては判断しない。

16 ココロンカードについて

齋藤知事は、ココロンカード発行事業に関し、既発行分も含めて小学1年生から中学3年生まで全学年分の差替えを求めたが、その結果、令和6年度は例年に比して約140万円もの高額の費用を要した。ココロンカード発行事業をめぐる齋藤知事の職員への言動、対応は、パワハラには該当しないが、その言動と職員への指示は不適切である。

第10章 公益通報などの観点から見た場合の県の対応の問題点について

第1 本件の経緯

公表版を参照のこと

第2 公益通報者保護法とその関連法規等

1 公益通報者保護法(以下「保護法」という。)、公益通報者保護法第11条第1項及び第2項に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下「指針」という。)、地方公務員法等の本件に関係する法規等の概要、関係等については、公表版を参照のこと。

2 保護法11条4項が定める事業者がとるべき措置の具体的な内容を保護法で一律に規定することは困難であることから、公益通報者保護事務を所管する主任である内閣総理大臣が保護法11条4項に基づいて指針を定めた。指針は法令の一部であり、指針に違反する行為はすなわち法令に違反する行為である。

3 保護法11条4項、指針第4の2にいう体制整備義務は、いわゆる3号通報に関しても求められているものであり、このうち、範囲外共有の禁止、通報者の探索防止については、公益通報該当性があれば、保護要件の有無にかかわらず禁止されている。

4 兵庫県には、独自の公益通報者保護制度があり、「兵庫県職員公益通報制度実施要網」が定められている。

第3 本件文書の作成・配布行為に対する兵庫県の対応の適否

1 本件文書の作成・配布行為の公益通報該当性…3号通報に該当

(1)通報対象事実要件充足の有無

事項4(贈答品に係る問題)のうち例1~4のコーヒーメーカー、ロードバイク、ゴルフのアイアンセット及びスポーツウェアに関する各記載内容は、刑法の贈収賄罪が問題になることを指摘している。

事項6(令和5年11月に実施されたプロ野球球団優勝パレードをめぐる問題)は、「信用金庫への県補助金を増額し、それを募金としてキックバック」との事実が記載されていて、刑法の背任罪が問題になることを指摘している。

事項7(職員に対する言動ないし対応の適否)には、「これからますます病む職員が出てくると思われる」とか、「(職員からの訴えがあれば)暴行罪、傷害罪」との記載があり、調査をすれば、刑法の暴行罪、傷害罪等が成立するほどの問題性の大きいパワハラ行為が顕在化する可能性が指摘されている。

したがって、本件文書の記載内容のうち、事項4、同6及び同7は、3号通報の「通報対象事実」の要件を充たしている。

(2)「不正の目的」について

元西播磨県民局長が本件文書内容を流布させることで「不正の利益を得る」ということは考えにくい。また、同元局長が、将来的に何らかの影響力を行使して、実際に齋藤知事や県の幹部職員らを失脚させる目的があったとまでは認めることができず、本件文書末尾に本件文書の取扱いについて注意を促す記載があることに照らすと、本件文書に記載された企業、金融機関や県の外郭団体等に「損害を与える」目的があったとも認め難い。本件文書の配付先が10か所に限定され、その中に県警本部が含まれていたことからは、直ちにこの文書内容を広く流布して県政を混乱に陥れようとの不当な意図も看取することができず、本件文書の配布が「不正の目的」でなされたものと評価することはできない。

2 齋藤知事と片山副知事ら利害関係者が関与したこと…極めて不当

本件文書内容に関係のある者が調査を指示し、処分決定過程にも関与したことで、懲戒処分の公正さを疑わせる事態を招いたのであり、県の対応は、法律及び指針の趣旨に反するものであって、極めて不当であった。

3 通報者を探索した行為

(1)メール調査と元西播磨県民局長らへの事情聴取について…違法

齋藤知事は、3月21日に「通報耆の探索」を命じた理由として、本件文書には、自分たちへの誹謗中傷のほか、関係企業や職員らの実名を記して名誉棄損、信用棄損等がなされていたために、それ以上の拡大を阻止し、再び同様の告発文が頒布されないよう抑止する必要があり、迅速な通報者らの特定が必要な緊急性があったためと説明している。かかる動機による通報者探索は、保護法11条4項及び指針第4の2の趣旨に反するものであり、通報者探索禁止の例外として指針第4の2(2)ロが規定する「やむを得ない場合」に当たるということはできず、違法である。

(2)公用パソコンの引上げ行為について…違法

片山元副知事らが3月25日西播磨県民局に赴いた際に、元西播磨県民局長の公用パソコンを引き上げた行為は、違法な通報者探索行為の一環であり、県が所有し、管理権限を有する公用パソコンであることや、強制的に引き上げたとはいえない態様を考慮しても、正当化されるものではなく、保護法及び指針に反する違法な行為であった。

4 令和6年3月27日付け人事…人事の発令は有効

県が3月27日に元西播磨県民局長に対して行った「退職を保留し、県民局長の職を解く」との発令は、保護法5条1項の趣旨に照らし、不利益取扱いに該当する。もっとも、保護法5条は、人事権を行使する行政庁に一定の裁量を認めており、県当局には、人事権の行使にあたって、与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用した事情までは認められなかったから、当該人事発令が効力を有しないと評価することはできない。

5 元西播磨県民局長に対して行った懲戒処分

(1)本件文書の作成・配布行為を処分理由の1つとしたことについて…違法・無効
ア 特定事由

元西播磨県民局長は、本件文書によって3号通報をした後、実際に通報者探索をされ、不利益な取扱いも受けた。兵庫県においては、元西播磨県民局長が本件文書の配布を行った当時(3号通報を行った当時)、公益通報をした場合に不利盟な取扱い等を受けるおそれが大きい状況があったものと考えられ、保護法3条3号イに該当する特定事由があると信ずるに足りる相当の理由がある場合であった。

イ 通報対象事実の真実相当性

事項4については、本調査委員会の調査によっても、真実とは認められなかった。ただし、例1については、贈収賄の事実を疑わせる間接事実があり、情報提供者の存在もうかがえるため、真実相当性が認められる。

事項6については、本調査委員会の調査の結果、背任にあたる事実関係は認められなかったが、通報対象事実に関連する複数の重要な事実、及びそれら事実の関係の特殊性を総合考慮した上での相応に合理的な推論に基づくものであったと言えるから、真実相当性があったものと認められる。

事項7については、調査の結果、齋藤知事の行為がパワハラに当たると認められた。また、本件文書に列挙されていない事実についても、齋藤知事にはパワハラに該当する言動があった。しかし、保護法5条による保護の対象となるには、単にパワハラがあったことについて真実相当性が認められることでは足りず、パワハラが暴行罪又は傷害罪等を構成することについての真実相当性が認められなければならない。

ウ 保護法5条の要件を満たす事実

事項4の例1と事項6については、保護法5条の要件を満たし、通報者は保護される。よって、地方公務員法においても、これらの事項を通報したことをもって、不利益取投いとしての懲戒処分を課すことは許されない。処分理由①による懲戒処分は、この点において、明らかに違法である。

エ 保護法5条の要件を満たさず、通報者が保護を受けえない部分についての検討

本件文書に対する県の対応は当初から利害関係者が関与し、違法な通報者探索行為を行うなど保護法の趣旨から見てその違法の程度は極めて大きい。本件文書のうち保護法5条及び9条後段による保護を受け得ない部分についても内部告発としての公益性があり懲戒処分の対象とする必要性に之しい。したがって、本件文書を作成して配布した行為を懲戒処分の対象とすることは、公益通報該当性が認められない部分、真実相当性が認められない部分を含め、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、濫用するものであるから、違法であり、その部分について行われた懲戒処分は効力を有しない。

なお、本件文書が事項7で指摘した齋藤知事のパワハラ行為は、保護法によっては直接の保護を受け得ないものの、本調査委員会による調査によれば、その多くが真実であると認められた。知事のパワハラに関する本件文書の指摘は有益であり、保護法の観点を除いても、これを非違行為であるとすることはできず、この部分を懲戒処分の対象とすることは違法である。

(2)その他の理由に基づいて行った処分について…適法・有効

通報者探索行為としてなされた公用パソコン引上げ行為は違法であるが、そのパソコン内のデータによって判明した3件の非行も軽微なものとは言えず、程度はともかく懲戒処分は避けられないと言うべきであるから、県が処分理由②ないし④の事象について懲戒権を行使することは、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したとまでは言えず、その処分が違法無効であると言うことはできない。

第4 元副知事に対する要請行為について…内部公益通報には当たらない

令和6年3月27日の元西播磨県民局長と片山元副知事とのやり取りは、ロ頭のもので、実際の発言内容を正確に再現することは難しく、その際の発言によって内部公益通報があったとは認められない。

第5 本件内部公益通報の調査結果を待たず、先行して懲戒処分を課したことについて…不相当

令和6年4月4日に元西播磨県民局長が県の担当窓口に内部公益通報した内容は、本件文書の項目のうち、五百旗頭氏関係のものを除いてすべての項目に係る事実が記載されていた。元西播磨県民局長に対する懲戒処分は、これを行うとしても、県政改革課の調査結果を待ち、公益通報としての保護が与えられる事案かどうかを確認してからすべきであった。本件文書の作成・配布に関する懲戒処分を、齋藤知事の意向で、内部公益通報についての調査結果が出るのに先行して、令和6年5月7日に行ったことは相当ではなかった。

第6 令和6年3月27日の知事の記者会見における発言について…極めて不適切

齋藤知事は、本件文書について、「ありもしないことを纏々並べた内容を作ったことを本人も認めている。」などと発言したが、そのような事実はない。発言は、齋藤知事が自身の言説を強調しようとしたものであり、極めて不適切で、直後に撤回をされるぺきであった。

また、齋藤知事は、元西播磨県民局長を「公務員失格」、「うそ八百」などの言葉を用いて非難したが、本件文書には数多くの真実と真実相当性のある事項が含まれており、「うそ八百」として無視することはできず、むしろ、県政に対する重要な指摘をも含むものであった。少なくとも、調査未了の段階で、強い語句や断定口調でマスコミに伝えて公に知らしめる必要性はなかったし、齋藤知事の発言は、元西播磨県民局長に精神的苦痛を与え、職員一般を委縮させ、勤務環境を悪化させるもので、パワハラに該当する行為であった。

第11章 原因・背景分析等

1 序論

齋藤知事にはパワハラや不適切な言動に当たる行為が認められた。また、本件文書問題に対する県当局の対応は、公益通報者保護の見地から見て違法、不当なものであった。

その原因には、組織的、制度的な側面と個人の側面の双方があるが、その検討は、パワハラの防止と公益通報への適切な対応のために行われるべきものである。そこで、本調査委員会は、原因、背景の分析は、主として、組織的、制度的な見地から行い、個人の問題については、組織のトップとしてはいかに対応するのが適切であったかの見地から検討を進めた。その結果は、以下のとおりである。

2 多くのパワハラ事案が生じた背景と原因

(1)コミュニケーションの不足とギャップ

ア 齋藤知事は、20年問続いた井戸前知事の後を受けて知事に就任した。

イ 齋藤知事は、県政を刷新したいとの思いが強く、就任後、新県政推進室を新設したが、その主要メンバーには、従前からの知り合いを中心に世代の若いメンパーを登用し、本庁の部長は1人も起用しなかった。

ウ 齋藤知事は、新県政推進室の中心メンバーとコミュニケーションを密にし、自らの施策や思いは、そのメンバーを通じて発信することが多かった。また、職員からの報告と意向伺いも、そのメンバーを通じて受けることが多かった。

エ 間接的なコミュニケーションは、意思疎通の不全を招く。また、一部の職員のみと接触が多い状況は、組織に不透明感を与え、分断を生じる。そのため、多数の職員には、知事に話を聞いてもらえない、知事の意向がわからないと不満が生じ、知事の側にも、求める報告がタイムリーに行われない、その事象については聞いていないと苛立ちを覚えるケースが多く生じた。

オ しかし、齋藤知事は、職員との間に認識にそごがある状態で知事協議が始まったり、知事の知らない事象が報道されたりしたときに、これに苛立ち、事情を聞かないまま叱責に及ぶことがあった。

カ コミュニケーションのギャップと不足は、パワハラ事案を生じる客観的な原因の1つと考えられる。

(2)職員風土

ア 兵庫県の職員は、総じて仕事に熱心で、無理をしてでも上司の要求に応えようと頑張る傾向がある。その際、パワハラ的な言動があっても、「昔はもっとひどかった」、「他にはもっとひどい人もいる」、「これくらいは耐えなければ」と我慢をする傾向も見られた。

イ しかし、高すぎる要求、過剰な要求は、それ自体がパワハラである。高い要求、過剰な要求に応えると、次には更に高い要求がなされる。無理な頑張りはパワハラの連鎖を生む。

ウ パワハラは、自分が我慢して済むことではない。周囲の職員、パワハラを伝え聞いた職員を委縮させ、勤務環境を悪化させる。勤務環境が悪化して職員の士気が低下すれば、県政は停滞する。その被害を受けるのは県民である。

エ 以上に鑑みれば、自分は我慢できても、パワハラは許すべきではない。パワハラに気が付いたときには、自分が当事者でなくとも見過ごすべきではない。

オ しかし、兵庫県の職員には、パワハラについて、なぜ許すべきでないかの意識が高くなかった。そして、自らへのパワハラは我慢する傾向が続いた。

カ 以上のパワハラについての意識の低さと我慢強い職員風士は、パワハラを生んだ、そして、見過ごし続けられた1つの原因であると考えられる。

(3)知事と取り巻くメンパーの集団としての同質性

ア 齋藤知事の県政を中心的に担ったのは、新県政推進室のメンバーである。彼らは、本来、1人1人個性を持ち、意見を有していたはずである。

イ しかし、チャットのやり取りで明らかなように、メンバーは、知事の要望には夜間や休日でも対応した。SDGs選定証授与式の件などでは、相手のあることであり、高すぎる要求、過剰な要求であったのに、その要求に応えようとした、また、叱責や注意に対しては、それが理不尽なものであっても、反論せず、齋藤知事の意向に従う方向で物事を進めた。

ウ その過程で、知事とそれを取り巻く幹部との集団としての同質性が強まる傾向があったことが窺われる。

エ パワハラはあっても、周りの者が指摘することができれば、そして、行為者にそれを真摯に聞く姿勢があれば、改善に向かうことができる。

しかし、知事とこれを支える中心的メンバーの集団としての同質性が強くっていたために、周りの者がこれを指摘することも難しくなっていたと考えられる。この点も、パワハラが指摘されず、いくつも生じた原因の1つであると考えられる。

(4)職員への対応をめぐる問題点

ア 齋藤知事は、考古博物館の例、空飛ぶクルマの例、机を叩いて叱責した例のように、事情を聞く前に怒り出すことがあった。

イ チャットの例にみられるとおり、思いつくと夜間や休日でも業務を指示し、叱責することがあった。

ウ 机を叩いて怒る例など感情を制御できないことがあった。

エ 大事な会議の直前であるのに、大きな声で叱責し、相手に動揺を与えることもあった。

オ 上記アはいずれも、相手の職員は仕事に励んでいることを認め、まずは相手から事情を聞く姿勢を示せば、防げた事案である。イの夜間や休日のチャットによる業務指示、エの重要な会議直前の大声での叱責などは、相手の事情を考えれば、行わずに済んだ、少なくとも方法には配慮できた事案である。ウの机を叩いて怒るなどは、感情をコントロールさえすれば防げた事案である。

組織のトップには、場面に応じて、また相手に応じて適切な対応を取ることが求められる。上記の諸場面では、相手を尊重し、冷静な対応がとられなかった問題があった、それがパワハラを生じさせた原因であると思料する。

(5)ハラスメント防止指針の機能不十分

兵庫県は、ハラスメント防止指針を定めているが、本件文書問題を契機に改善措置が講じられるまで、知事や副知事などの幹部はハラスメントに関して研修を受けていなかった。知事や副知事がパワハラの主体となる場合は想定されておらず、現在もこれに備える規定がない。そのため、相談の受理件数は、令和5年度が8件、令和6年度は6件と、組織の規模に比べて少ない。

客観的に見れば、組織としてパワハラ防止体制が不十分であったと言わざるを得ず、そのこともパワハラ事案が発生した原因となったものと考えられる。

3 公益通報に対して適切な対応を取ることができなかった原因

(1)本件文書問題について県当局が適切な対応を行うことができなかった背景と原因についても、パワハラについて分析したところと重なるところが多い。

(2)コミュニケーション不足を背景とする批判耐性の弱さ、冷静さの欠如

齋藤知事と多くの職員の間には、コミュニケーションが不足していたが、認識のそごは、多くの事象で知事に苛立ちを生じさせた。

苛立ちは、人の批判耐性を弱める。そのため、齋藤知事や幹部職員は、自らに対する批判的な言動を含む本件文書に接した際には、冷静に対応することができず、拙速な反発的対応につながったと考えられる。

(3)組織上の問題

違法又は不当な対応が生じそうになったときも、その他の者がこれに気付き、対応できる体制が築かれていれば、その発生は未然に防ぐことができる。

しかし、兵庫県において、知事と組織の中心メンパーの間には、同質性が醸成されていた。また、中心メンバーとその他の職員との間には分断が進み、その他の者も含めて自由闊達な議論が行われる気風が失われていく傾向がみられた。

組織の分断が進んだ状況の下で、同質性が強くなっていた中心メンバーのみでは、本件文書の作成、配布を自分たちに対する誹謗中傷ではなく、公益通報として取り扱うという発想は生まれようがなかった。そして、本件では、県議会議員から公益通報に該当する可能性の指摘があった後、令和6年4月1日以降も、その中心メンパー内では、他の意見を慎重に検討するという機運は生まれなかった。

特別弁護士への相談はなされたが、本件では組織的な安全装置が働かなかったというべきであり、そのことも、本件文書問題について、違法・不当な取扱いがなされた原因と考えられる。

(4)制度上の問題

兵庫県は、兵庫県職員公益通報制度要綱を定め、公益通報者を保護する体制を整備していた。

しかし、公益通報者保護法が定められた趣旨とその目的、その理念に基づき事業者が守るべきことなどについての啓発活動は不十分であった。そのため、本件文書問題に関わった知事と副知事、その他の幹部は、当初、誰一人本件文書問題を公益通報の問題としては捉えなかった。

また、その規定は、内部公益通報を想定して策定されたもので、本件のように知事や幹部が外部公益通報を独自に把握した揚合についての備えはなかった。制度はどんなに整備しても想定外の事態が生じるもものであるが、その場合にどのような理念に従って行動すべきかについての研修等もなされていない。

令和6年12月までは、外部に通報窓口は設けられておらず、現在も、知事や副知事が法令違反行為等の主体であった場合(通報対象者であった場合)の規定は整備されていない。

そのような制度上の問題も公益通報制度が適切に機能しなかった原因であると考えられる。

(5)情報管理に関する問題

本件では、元西播磨県民局長のパソコン内に存した私的な情報が県職員を通じて他に流出した可能性がある。通報者の私的情報は、通報内容とは無関係であり、県当局とすれば、厳重な情報管理により流出を防止する必要がある。流出が疑われる事態は、本件文書問題が生じた後に生じたものであるが、そうであるだけに問題は深い。兵庫県に対しては、公益通報者保護の意義を改めて確認し、職員の私的な情報を慎重に取り扱い、万一にも情報流出などが生じた場合には、適切に対応されるよう求める。

第12章 まとめに代えて

兵庫県は、北は日本海、南は瀬戸内海に面している。県内には大都市もあれば、自然豊かな農村、漁村もある。山間部もあれば、港湾地城もある。令和7年2月現在、約532万人が暮らすが、住民が県政に望むところは、地城、職業、年齢、性別等によりさまざまである。

県当局の仕事は、住民の多様な願いを受け止め、複雑に絡み合う利害を調整し、光の当たらないところにも目を配り、取り残される者のない社会を実現していくことである。

政治は、少数の優秀なエリートだけで行いうるものではない。現場の職員が献身的に働くことにより初めて実を結ぶものである。そのためには、職員がやりがいをもって職務に励むことのできる、活力ある職場でなければならない。

活力ある職場となるためにパワハラはあってはならない。パワハラは、直接の被害者に精神的、身体的ダメージを与えるにとどまらない。周囲の職員を含め、就業環境を悪化させ、士気の低下を招く。職員の士気が低下したとき、県政は停滞する。その被害を受けるのは県民である。

国は、国民生活が安定し、社会経済が健全に発展するためには法令の規定が遵守されなければならないとして公益通報者保護法を制定した。同法は、犯罪行為や過料の理由となる事実についての通報を保護するものであるが、兵庫県は、一歩を進め、①法令違反の事実、②職務上の義務違反の事実、更には、③前2号に準じ、県政を推進するに当たり県民の信頼を損なうおそれのある事実についての通報も保護の対象とした。

しかし、齋藤知事にはパワハラ行為があった。本件文書問題に関しては、当事者が関与して違法な通報者探索を行い、更には、通報行為それ自体を理由として懲戒処分を科す等、違法・不当な事態を生ぜしめた。

本調査委員会は、パワハラ事案が発生したこと、外部通報に対して違法・不当な対応と取扱いが行われたことの背景と原因には、①知事と職員とのコミュニケーションのギャップないし不足、知事を支える主要メンバーが同質的な集団となり、組織の分断や異論を受け入れない硬直的姿勢が生じたこと、③知事をはじめ主要メンバーには、他の意見をよく聴き、取り入れる姿勢が乏しかったこと、批判耐性の強さも問題なしとしないこと、④ハラスメント防正規定や公益通報制度実施要網は定められていたが、十分には機能していなかったことなど共通の問題があると分析した。

異なる意見は、自身に、また組織に幅をもたらす。本件文書によるパワハラの指摘は、内部通報を通じ、知事を含めた幹部職員を対象とする組織マネジメント力向上特別研修の実施につながった。贈与問題についての指摘は、財務規則の改正とガイドラインの策定等、物品受領ルールの明確化として結実した。本件文書の作成と配布、それに続く内部公益通報は、県の組織体制の改善につながったのである。

本調査委員会は、本件文書で指摘された事実のうち、①令和3年7月に実施された県知事選挙の事前運動と選挙運動、②令和7年に実施予定の県知事選挙の事前運動に関する部分は、事実であると認めなかった。③令和5年7月開催の政治資金パーティーについては、周囲の者が疑念を感じることも無理からぬ状況のあったことは確認したが、その指摘を事実であるとは認めなかった。

しかし、阪神タイガース、オリックス・パファローズ優勝記念パレードの問題については、補助金が大幅に増額された時期と協賛金拠出依頼の時期が近接し、その双方に片山元副知事が決定的な役割を担っていて、その間には「見返り」ではないかと疑念を持たれてもやむを得ない状況が存していたことが確認された。本調査委員会は、その指摘には真実相当性が認められると判断し、公益通報者保護法の制度趣旨に鑑み、不利益取扱いをしてはならないとした。また、パレードをめぐっては、職員の労務環境に問題があったことが確認された。

通報は、そのすべてが真実であるとは限らない。当事者が見れば明らかに誤りとわかる場合もある。しかし、誤りであっても、第三者として見れば疑惑が生じうる客観的な事情が存するときもある。上記優勝パレードの件では、本調査委員会も、詳細な調査を行うまで事実関係を理解することができなかった。そのような場合に指摘を誤りであると一蹴することは適切でない。疑惑を感じることに無理がない客観的な事情があるのであれば、指摘を真摯に受け止め、その上で、誤りであることを丁寧に、かつ誠実に説明をすることが必要であり、重要である。そうすれば、通報者と県民の理解を得ることができ、信頼が深まって、県政は前進する。

本調査委員会は、調査の過程で多くの職員と話をした。調査に応じた職員の中には、知事を支持する者もいれば、批判的な意見を持つ者もいた。しかし、調査に応じた職員は、みな、県民に尽くしたい、県政を発展させたいとの思いを持っていた。批判を持つ職員も、決まったことは誠実に実行しようとしていた。知事や幹部の職員は、異なる意見に直面した場合や自分の知らないことを外部からの情報で知った場合、あるいは、自らの意図しない事態が発生した場合などには、まず、それがなぜかを聞く姿勢を持つベきである。感情をコントロールせず、いきなり叱責したり、注意・指導をしたりすることは適切でない。相手を尊重する姿勢なくして指導は功を奏しないし、相手との関係に発展はない。

齋藤知事は、令和6年3月27日の記者会見において、本件文書問題に触れ、「うそ八百」、「公務員失格」などと述べて、公開の場で元西播磨県民局長を非難した。

本件百条委員会は、本年3月5日、本件文書問題についての調査報告書を定例議会に提出し、事実関係の分析結果を報告するとともに、知事のパワハラや県当局の公益通報に対する対応についての見解を明らかにして、改善提言を述べる等したが、齋藤知事は、これに対しても、「違法の可能性があるということは適法である可能性もある」、「パワハラに該当するか否かは司法の判断することである」等として、報告書を正面から受け止める姿勢を示していない。報告書は、元西播磨県民局長の公用パソコン内に存した私的な情報が漏洩したことを問題視し、現在第三者(弁護士)によって行われている調査の結果を速やかに公開し、刑事告発を含めた厳正な対応を求めるとの意見を示したが、この点についても、情報漏洩をした職員を懲戒処分する可能性があるとの理由を述べて、必ず公開するとの姿勢は示していない。逆に、公用パソコン中の私的情報に触れて、中身は見ていないとしながら、`倫理上極めて問題がある文書だった」、「わいせつな文書を作成していた」などと発言した。

本調査委員会が、調査を通じ、最も述べたいところは、組織のトップと幹部は、自分とは違う見方もありうると複眼的な思考を行う姿勢を持つぺきということである。また、組織の幹部は、感情をコントロールし、特に公式の場では、人を傷つける発言、事態を混乱させるような発言は慎むべきということである。

・最後に。

本件文書の事実関係に関する本調査委員会の結論は、事実と異なる部分もあるが、複数の事実については、真実であるか、真実相当性があると認められたというものである。

21世紀機構の人事については、県に貢献のある有識者に対しては、十分な敬意を払い、丁寧で慎重な対応が求められるというものである。

優勝記念パレードをめぐっては、企画について無理のない方針を取るべきであった、職員の労務管理は適切に行うべきであったということである。

公益通報については、その有益性をよくかみしめ、法の趣旨に沿った対応をする姿勢を持つべきということである。また、内部公益通報の結果としてなされた改善を一歩進め、外部公益通報を覚知した場合の対応、知事や副知事が通報の対象となった場合の対応等についても体制を整備しておくべきということである。

パワハラについては、より相談がしやすい制度設計をし、知事や副知事がパワハラの主体となった場合についても体制を整備すべきということである。

これらについては、さらに第三者の意見を聞いて体制を整備する等の方策も考えられないではない。しかし、県には、自らのカでパワハラをなくし、公益通報者を保護する体制を築く自浄力が求められる。本調査報告書がその一助となれば幸いである。

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