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当ページには、告発文書の内容の真偽を確認する「文書問題に関する第三者調査委員会」が2025/3/19に公表した調査報告書の、「第7章 政治資金パーティー」について文字起こしを掲載しています。
当報告書の全容は、以下リンク先を参照ください。
調査報告書(文字起こし) 第7章
第7章 本件文書に記載された事項5の調査緒果
―令和5年7月に開催された政治資金パーティーをめぐる問題について―
第1 本件文書の記載
1 記載内容(以下、原文のまま引用)
⑤ 政治資金パーティー関係
令和5年7月30日の齋藤知事の政治資金パーティー実施に際して、県下の商工会議所、商工会に対して経営指導員の定数削減(県からの補助金カット)を仄めかせて圧力をかけ、パー券を大量購入させた。実質的な実行者は片山元副知事、実行者はA(産業労働部地域経済課福田靖久課長)。
また、兵庫県信用保証協会Q(古川)理事長、R(岡)専務理事による保証業務を背景とした、企業へのパー券購入依頼も実行された。Q(古川)理事長は片山元副知事から県職員OBによる齋藤知事後援活動の責任者を依頼され、交換条件として厚遇の●●●●●●●●●(信用保証協会理事長)に異例の抜擢をされていた。
この件は準公的な機関である●●●●(保証協会)を舞台にした政治活動なのでさすがに危険を感じたのか、Q(古川)理事長は1年で退任し、t銀行(みなと銀行)の監査役へ行くようである。
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
今後、県からt銀行へなにがしかの利益供与があるものと思われる。
2 趣旨
本件文書の上記記載は、片山元副知事らが、違法または不当な方法により、令和5年7月30日の齋藤知事の政治資金パーティーのパーティー券を販売し、協力者には不当な人事上の利益が供与されたことを指摘し、これらによって県の産業労働部所管の行政や信用保証協会の保証業務がゆがめられ、これに対する県民の信頼が傷つけられることを憂慮し、齋藤知事の側近である片山元副知事を中心とする関係者らの行動を批判しようとするものと理解できる。
第2 判断の前提事項
1 政治資金パーティー
令和5年7月30日午後5時から、齋藤知事の政治資金パーティーが開催された。このパーティーは、政治資金規正法8条の2に規定された政治資金パーティーであり、齋藤知事の政治団体である「ひょうごを前に進める会」が事務局を務め、片山元副知事の依頼により元兵庫県職員で構成される実務世話人組織が準備を行った。チラシによれば、このパーティーは「兵庫県知事さいとう元彦県政報告会2023夏」と銘打ち、会場としては神戸ポートピアホテル大輪田の間が準備され、会費すなわちパーティー券価格は1枚2万円であった。参加希望者は、政治団体名義の銀行口座に会費を振り込み、チラシ裏面に所属団体や役職、氏名を記載した上で、これを政治団体事務局にファクスで送信することにより参加表明をする。このチラシ裏面はパーティー参加券を兼ねており、参加者は当日この用紙を持参することになっていた。式次第によれば、当日は、開会後に発起人の挨拶があり、続いて齋藤知事による県政報告が行われ、その後しばし歓談の時間を設け、閉会するという流れで実施された。政治資金収支報告書によると、同パーティーのパーティー券購入者の数は661名であった。
2 経営指導員の定数削減問題
(1) 商工会議所
商工会議所とは、商工会議所法に基づき設立、運営される団体で、地元の商工業者で構成される地域経済団体である。兵庫県内には、神戸市、姫路市などの比較的規模の大きな市に設立されており、県内に18会議所が存在する。また、県内の全商工会議所相互の緊密な連絡並びに総合調整を行い、県経済の振興、発展に寄与することを目的に、兵庫県商工会議所連合会が組織されている。
商工会議所は、企業が抱える様々な経営課題の解決(経営支援)や、まちづくり・観光振興などの地域振興活動、企業の声を集めて市や都道府県にその声を届ける活動(政策提言)等を行っている。
また、商工会議所は政治的な中立を求められている。団体としての政治活動等は、商工会議所から独立した別組織である日本商工連盟が引き受けており、同連盟の各地区世話人を、各地区における商工会議所の専務理事らが務めていることがある。
(2) 商工会
商工会は、商工会法に基づき設立、運営される団体で、商工会議所と同じく、地域の事業者が業種を問わず加入して、事業の発展や地域の発展を図る地域経済団体である。兵庫県内には28商工会が活動している。また、県内の全商工会の運営指導をはじめ、商工会の健全な発達と商工業の振興に寄与する事業を行うため、兵庫県商工会連合会を組識している。
商工会は、商工会議所に比べると、中小企業施策、特に小規模事業施策に重点を置いて、経営改善普及事業を中心に据えて活動している。
また、商工会は政治的な中立が求められている。団体としての政治活動等は、商工会から独立した別組織である全国商工政治連盟が引き受けおり、兵庫県の各商工会の専務理事らが、商工政治連盟の支部としての活動を行うことがある。
(3) 経営指導員
経営指導員とは、地区内における小規模事業者に対し、経営の改善発達を図るため、金融・経理・経営などについての相談に当たり、経営計画の策定や国や県の小規模企業施策のコーディネート支援を行うほか、地域産業の振興に必要な地域の経済的特色などの条件の把握、分析を行い、地域振興の各種事業契約の立案や事業を推進するための事務処理を行う、小規模事業者支援法4条1項に基づく、商工会、商工会議所の経営改善普及事業の担い手である。
経営指導員は、各商工会、商工会議所が直接雇用している。兵庫県内の商工会議所に雇用されている経営指導員の人数は、令和3年以降現在まで減少していない。
(4) 地域経済活性化支援費補助金
県は、産業労働部補助金交付要綱に基づき、地域経済活性化支援費補助金事業を行っている。この補助金事業は、商工会、商工会議所による経営改善普及事業に対して補助をすることで、地域経済社会の形成に大きな役割を果たしている小規模事業者等の振興と安定に寄与することを目的としている。
この事業で交付される補助金の大半は、経営指導員など補助対象職員等の人件費を賄うものであり、令和6年度予算ベースで20億3627万円余りが計上されている。各商工会、商工会議所に対しては、地域内の小規模事業者の数を基礎として経営指導員の定数が割り振られ、これに応じた補助金が交付される仕組みであり、経営指導員の定数が削減されれば、直ちに人件費補助の金額に影響が出ることになる。
県内の商工会議所や商工会に交付された地域経済活性化支援費補助金は、令和3年以降現在までおおむね同程度の水準で推移しており、経営指導員の人数に応じた金額としては減少していない。
(5) 定数削減問題
前記のとおり、各商工会、商工会議所に交付される地域経済活性化支援費補助金の額は、各商工会議所、商工会に配置される経営指導員の定数に基づいて算定される。経営指導員の定数は、管轄地域内の小規模事業者の数に応じて決められているが、その数は、経済センサス―活動調査で得られたデータに基づき中小企業庁が5年に一度公表しており、その公表の年に見直しが行われることになっている。令和5年には、令和3年に実施された経済センサス―活動調査の結果が公表されており、経営指導員の定数見直しの年に当たっていた。
兵庫県内の商工事業者数は、年々減少しており、小規模事業者数も同様であるから、この点に着目すると、経営指導員の定数もまた減員となり、その人件費補助としての補助金額も減少していくことになる。
他方で、商工会議所や商工会としては、地域経済が低迷している状況で、前記のような役割を負い、伴走しながら中小企業の支援を行う経営指導員までが減員されてしまえば、地域経済の低迷傾向に拍車がかかることを懸念し、経営指導員の人数については少なくとも据置きを求めて、県に対して陳情等を繰り返している状況であった。
このため、この問題を所管する兵庫県産業労働部●●●●●(地域経済課?)と、兵庫県内の各商工会議所、兵庫県商工会連合会は、令和5年度中に経営指導員の定数に関して、何度も協議を行っていた。
3 兵庫県信用保証協会の業務、兵庫県との関係
(1) 信用保証協会
信用保証協会は、信用保証協会法に基づいて設置される公的機関であり、47都道府県と4市に設置されている。信用保証協会は保証業務、すなわち中小企業・小規模事業者が金融機関から事業資金の融資を受ける際に保証人になり、企業が返済できなくなった場合にはその肩代わりを行っている。
(2) 兵庫県信用保証協会
兵庫県には、神戸市中央区に兵庫県信用保証協会が設置されている。同協会の業務執行は、理事会の決議により、代表者である理事長が行う。
(3) 兵庫県と兵庫県信用保証協会の関係
兵庫県は、兵庫県信用保証協会に対して、約78億円の出捐金を支出しており、これが同協会の基本財産に占める割合は約8%である。また、兵庫県信用保証協会が債務者に代わって金融機関に対して代位弁済をした場合、その一部について県が損失補償を行っており、これは、協会による積極的な保証承諾を促すための措置である。人事の面では、兵庫県信用保証協会の理事及び監事は、定款11条の定めにより、学識経験者の中から兵庫県知事が委嘱することとされている。
4 文書に名前の挙げられている兵庫県の職員及び元職員
(1) A(福田)氏
A(福田)氏は、現役の兵庫県職員であり、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●。A氏の担当業務は、県内の中小企業の経営支援と商店街の活性化などである。
(2) Q(古川)理事長
Q(古川)理事長は元兵庫県職員であり、昭和58年4月に兵庫県に入庁し、産業労働部政策労働局長、東京事務所長、但馬県民局長を務め、令和2年3月31日に退職した。その後、県の関係団体の理事長等を務め、令和5年4月から兵庫県信用保証協会理事長、令和6年4月から、兵庫県住宅供給公社監事、同年6月からt銀行(みなと銀行)社外監査役を兼務している。
(3) R(岡)氏
R(岡)氏は、元兵庫県職員であり、令和5年3月に兵庫県を退職後、同年4月から兵庫県信用保証協会の専務理事を務め、現在に至る。
5 政治的行為の規制
一般職地方公務員は、地方公務員法36条により、一定の政治的行為が制限されている。具体的な制限の対象は、政治的目的をもってする政治的行為と規定され、個別の行為が、制限に抵触するか否かについては、行為の態様、状況等を考慮して判断される。
他方、民間では、各団体の内規等により、従業員や理事者らについて、政治的中立性を堅持するなどの行動規範を設ける例はあるが、兵庫県信用保証協会には、職員の政治的行為を制約するルールは特に設けられていないとのことである。
商工会は、商工会法第6条において、営利を目的とせず、特定の個人又は法人その他の団体の利益を目的として事業を行ってはならず、特定の政党のために利用してはならない、としており、政治的中立が求められている。ただし、商工業者が個人の立場で加入する別組織である商工政治連盟は、政治資金規正法に基づく届出を行った上で、一定の政治活動、政治的行為を行っている。
商工会議所は、商工会議所法4条において、営利を目的とせず、特定の個人又は法人その他の団体の利益を目的として事業を行ってはならず、特定の政党のために利用してはならない、としており、政治的中立が求められている。ただし、各商工会議所の会頭らが、商工会議所とは別組織の日本商工連盟の各地区世話人として政治活動、政治的行為を行っている。
第3 事実認定
1 実務世話人組織によるパーティー券販売活動への関与
(1) 令和5年4月頃、片山元副知事は、齋藤知事から依頼され、政治資金パーティーの実施に向けた協力を開始した。齋藤知事は、政治経験が浅いこともあり、パーティーの実施にも手馴れていなかったことから、片山元副知事に相談し、パーティーの参加者集めに関して協力を依頼してもらうことになった。
片山元副知事は、同月頃、元兵庫県職員16名を招集し、その席で、齋藤知事が令和5年7月に開催しようと考えていた政治資金パーティーに参加する企業等を募集するため、チラシの配布先となる個人法人の連絡先を収集するよう、各参加者に依頼した。元県職員の経歴は様々だったため、各参加者がこれまで従事してきた県の業務に応じて、分野ごとに名簿を収集することになっていた。
なお、実務世話人組織が担当したのは、あくまでチラシ等の送付先にしようするための名簿集めであった。パーティー券販売活動自体は、パーティーを主宰する政治団体が行うことになっており、集まった名簿に基づき、チラシが郵送等され、参加意思を有するに至った者は、自ら参加費を振り込み、申込書を政治団体事務局へファクス送信する方法で行われていた。令和5年6月頃以降、パーティー券の売行きが思わしくなく、片山元副知事の指示で、Q(古川)理事長ら実務世話人が、個人的な知り合いに対してパーティー券の購入を依頼した事実はあったが、実務世話人組織としての活動は、側面からの支援ということを中心に行われていた。
(2) Q(古川)理事長とR氏の活動
実務世話人組織は、各世話人が兵庫県職員であった当時に経験してきた分野ごとに縦割りで上記の名簿収集活動を行っていた。Q(古川)理事長とR(岡)氏は、産業労働部のOBとして、同部の所管していた団体等へ連絡訪問することになった。
県下の全商工会議所については、予め片山元副知事が名簿をQ(古川)理事長に渡すよう連絡しておき、その後にQ(古川)理事長が訪問をした。Q(古川)理事長らは、その訪問の際には休暇を取り、自家用車を用いるなどの配慮をしていた。R(岡)氏は、時折Q(古川)理事長の運転手兼付添いとして、一部の商工会議所を訪問した。Q(古川)理事長は、訪問したほぼ全ての商工会議所で、「兵庫県信用保証協会理事長Q(古川)」の肩書のある名刺を渡して挨拶をしており、訪問箇所は少ないもののR氏も「兵庫県信用保証協会専務理事R(岡)」の名刺を交付していた。もっとも、各商工会議所とも、Q(古川)理事長らの訪問で求められたことは名簿提供であったという認識であり、名簿提供を行った会議所もある一方で、情報提供を拒んだ商工会議所もあった。
また、一部の商工会議所には、Q(古川)理事長が、出来上がったチラシを直接持ち込んだこともあった。
なお、Q(古川)理事長が名簿収集のために訪問したのは、商工会議所のみであり、商工会関係を訪問したことはなかった。(商工会関係への本件パーティー券販売については、兵庫県商工政治連盟が、片山元副知事からの依頼を受けて、歴代兵庫県知事の政治資金パーティーと同程度のパーティー券を引き受け、会員企業へあっせんしたとのことである。)
2 県職員のパーティー券販売活動への関与
本件文書では、現役職員であるA(福田)氏がパーティー券販売活動へ関与したとの指摘があるが、当委員会の調査によっても、A(福田)氏をはじめとして、現役の県職員が、パーティー券の販売活動に関与した事実は見当たらなかった。
3 経営指導員の削減に関する県の考え
商工会、商工会議所としての問題意識や要望は、様々な機会に県に伝えられていた。
県の産業労働部としても、商工会議所や商工会らが指摘する懸念も共有しており、単純に、小規模事業者の数だけを基準に形式的に経営指導員の定数を削減していく方針を打ち出すことは難しいと認識し、商工会や、商工会議所と断続的に協議を重ねていた。
そして、最終的に、県の進めるほかの施策であるSDGsや女性活躍企業などへの協力企業を増やすことなどを条件に、経営指導員の定数削減は行わない、という判断がなされた。
4 兵庫県信用保証協会理事長の人事
部長級、課長級等の定年退職後の人事については、人事部局を通じて、再就職先があっせんされることがある。再就職先のあっせんは、人事課によって人選され、兵庫県信用保証協会理事長のポストもその一つである。平成26年10月の信用保証協会法施行規則の改正等により、平成27年2月以降、信用保証協会の常勤理事の選定は、各信用保証協会が有識者会議を設置し、そこで候補者の適格性を審査したうえで、知事が委嘱することになり、さらに、理事長は理事の互選によって決まることになった。
もっとも、上記改正後も、兵庫県信用保証協会理事長は、県の元職員(幹部級)が務めている。平成27年以降の理事長の氏名(敬称略)、任期、県職員として在籍中の主なポストは次のとおりである。
記
T 平成24年4月~28年3月
産業労働部産業政策局長、西播磨県民局長
U(杉本明文) 平成28年4月~令和3年3月
産業労働部参事、北播磨県民局長、防災監
片山安孝 令和3年4月~9月
西播磨県民局長、産業労働部長
V(早金孝) 令和3年10月~5年3月
西播磨県民局長、東京事務所長、防災監
Q(古川直之)理事長 令和5年4月~6年3月
産業労働部政策労働局長、東京事務所長、但馬県民局長
W(遠藤英二) 令和6年4月~現在
西播磨県民局長、環境部長、防災監兼危機管理部長
Q(古川)理事長は、令和5年4月から1年間で信用保証協会理事長を務めて交代している。平成24年以降の前任者や後任者らは全員県民局長経験者であり、Q(古川)理事長の経歴と比べても有意な違いは見当たらない。また、1年という短期間での交代が組織として好ましいことかどうかは別論として、片山元副知事以降の兵庫県信用保証協会理事長はみな1年前後の在任期間で交代しており、短期間での交代はQ(古川)理事長に特有の事情ではない。加えて、前記のとおり、兵庫県信用保証協会の理事長職は、第三者の有識者会議の推薦を経た上で委嘱され、さらに理事の互選によって定まるポストであり、片山元副知事がQ(古川)理事長を厚遇しようとしたとしても、その一存で人事を決定できる仕組みとは言い難い。有識者会議に諮問される候補者の選定に当たって、人事部局に影響力を行使することができるかもしれないが、本調査委員会の調査によっても、そのような意向が働いた事実を確認することはできなかった。
5 t銀行(みなと銀行)への利益供与
兵庫県からt銀行(みなと銀行)に対して補助金等が交付されている事実はあり、令和6年度においては、災害関連融資の原資の一部を県が貸し付けたり、新型コロナウイルス感染症対応資金利子補給事業等による資金交付がなされたり、業務委託費の交付がなされたりしている。もっとも、これらの補助金等の交付は、いずれも実績等に連動したものであり、t銀行(みなと銀行)に対する利益供与的な要素が含まれるものではなかった。また、本調査委員会において、これらの補助金等が経年的に変化していないか確認したが、令和3年以降に有意な変動は見当たらなかった。
なお、t銀行(みなと銀行)の会長と片山元副知事はu(白陵高校)の卒業生同士という関係であるが、このこととQ(古川)理事長の社外監査役就任が結びついている事実も、また、県からt銀行(みなと銀行)への利益供与が行われたと評価できるような事実もいずれも確認できなかった。
6 小括
(1) 令和5年7月30日に実施された齋藤知事の政治資金パーティーに際しては、片山元副知事が呼び掛ける形で、元県職員による世話人組織が構成され、この組織がパーティー券販売活動の一部を担っていた。Q(古川)理事長とR(岡)氏は、産業労働部出身という経歴を有していたため、片山元副知事の指示のもと、県下の各商工会議所を訪問してチラシの配布先名簿等を入手し、若しくは、完成したチラシを持参するなどの活動をした。もっとも、Q(古川)理事長は、世話人組織の一員ではあったが、特に責任者という立場にあったものとは認められなかった。
(2) 当時、県下の商工会議所、商工会では、経営指導員の定数削減、補助金カットが問題となっており、県に対して継続的に陳情するなど、商工会議所、商工会側としての意見表明は継続的になされていた。県は、産業労働部●●●●●(地域経済課?)を窓口として、商工会議所や商工会との接触を持っており、A(福田)氏が商工会議所や商工会の関係者と面談したことも複数回あった。ただ、県のスタンスとしても、小規模商工事業者の減少に伴って直ちに経営指導員も減員していく対応をとると、地域の経済活動がさらに弱まっていくとの懸念を共有しており、協議の中で、商工会議所、商工会の要望を一定程度受け入れる姿勢を見せ、経営指導員の削減を強く求める立場はとられていなかった。このため、県が商工会議所や商工会に対して、経営指導員削減の方向で圧力をかけたという事実自体が認められなかった。
(3) Q(古川)理事長とR(岡)氏が、県下の商工会議所や商工会、企業等に対して、バーティー券の購入依頼を持ちかけた事実は、本調査委員会の調査によっても確認できなかった。現役の県職員であるA(福田)氏がパーティー券の販売活動に関与していた事実も認められなかった。
(4) Q(古川)理事長は、兵庫県を退職後、兵庫県信用保証協会理事長に就任したが、この人事は、パーティー開催のための世話人組織が構成される前に決まっていたものであり、本件文書が言うような報奨・厚遇人事という事情は読み取れない。また、Q(古川)理事長は、兵庫県信用保証協会理事長着任から1年で退任し、その後、住宅供給公社の監事となり、さらに2か月後に、t銀行(みなと銀行)の社外監査役を兼任するようになった。しかし、県からt銀行(みなと銀行)に対し、Q(古川)理事長を監査役として受け入れたことに伴う特段の利益供与があったと認められるような事情は見当たらなかった。
第4 評価
1 本件文書が本項で指摘した点には、上記のとおり、一定の事実が含まれている。特に、Q(古川)理事長とR(岡)氏が、片山元副知事の意を受け、各商工会議所から名簿を収集することで、その会員企業らを対象としたパーティー券販売活動の一部を担ったことは事実であり、これは両名も自認するところである。その際、両名は、県職員OBOGとして個人の立場で活動したと言いながら、各地の商工会議所に、「兵庫県信用保証協会理事長Q(古川)」、「同専務理事R(岡)」の記載がある名刺を持参して、各会頭や専務理事らに交付し、これらは多くの商工会議所において、本調査委員会の調査時点でも保管されていた。
本件文書が言うように、信用保証協会は、いわゆる私企業ではなく、一定の公的な性格をも有するのであって、中小企業の資金繰りに対して強い影響力を持つ、県と密接に関係する法人でもある。また、兵庫県信用保証協会は、保証業務を取り扱うため、金融機関に対する融資の申込みに当たって、同協会の保証が付くかどうかは、中小企業の資金調達にとつて重要な意味がある。
これらのことを踏まえると、Q(古川)理事長らが信用保証協会の理事長等の名刺を各地で配って、パーティー券販売活動の一部を担っていたという事実は、商工会議所及びその会員企業らが見れば、「協力してパーティー券を購入しておいた方がよい」と考える者を一定の割合で生じさせる可能性がある。その意味で、Q(古川)理事長らの活動は、信用保証協会が保つべき公的なイメージや、業務の公平中立性に対する信頼などを傷つけるものであったと評価できる。
2 前記のとおり、経営指導員の定数削減問題について、商工会議所や商工会と県の考えには大きな隔たりがあったわけではなく、むしろ、県下の中小企業の支援という点では両者が協調していたともいえるのであり、問題に対する認識が互いに齟齬していたとも認められない。そうすると、商工会議所や商工会側で、齋藤知事の政治資金パーティーに積極的に参加しなければ、団体及び構成員の利益が損なわれるなどの懸念を持っていたとまでは考えられない。そして、そのような情勢にあって、片山元副知事やA(福田)氏らが、県の施策の方向性とも異なる補助金カットを仄めかすという行動をとること自体が考えにくいというべきであるし、そのような事実は認められなかった。
そもそも、政治団体が、元県職員の協力を得て、政治資金パーティーを開催すること自体に違法性はない。県の現役職員が政治資金パーティーのパーティー券販売に直接関与したとすれば、それは違法ということになるが、そのような事実も認められなかった。
3 以上検討したところによれば、本件文書が事項5の箇所で指摘した事柄については事実関係が認められず、パーティー券購入依頼に関連して違法行為があったとか、不当な利益供与があったとかの批判には根拠がなかったと言わざるを得ない。