第三者委員会報告書 第8章 優勝パレード

第三者委員会報告書 第8章 第三者委員会

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当ページには、告発文書の内容の真偽を確認する「文書問題に関する第三者調査委員会」が2025/3/19に公表した調査報告書の、「第8章 優勝パレード」について文字起こしを掲載しています。

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調査報告書(文字起こし) 第8章

第8章 本件文書に記載された事項6の調査結果

―令和5年11月に実施されたプロ野球球団優勝記念パレードをめぐる問題について―

第1 本件文書の記載

1 記載内容(以下、原文のまま引用)

⑥ 優勝パレードの陰で

令和5年11月23日実施のプロ野球阪神、オリックスの優勝バレードは県費をかけないという方針の下で実施することとなり、必要経費についてクラウドファンディングや企業からの寄附を募ったが、結果は必要額を大きく下回った。

そこで、信用金庫への県補助金を増額し、それを募金としてキックパックさせることで補った。幹事社はw(但陽)信用金庫。具体の司令塔は片山副知事、実行者は産業労働部地域経済課。その他、v(神姫バス)社などからも便宜供与の見返りとして寄附集めをした。パレードを担当した課長はこの一連の不正行為と大阪府との難しい調整に精神が持たず、うつ病を発症し、現在、病気休暇中。しかし、上司のC(井ノ本)は何処吹く風のマイペースで知事の機嫌取りに勤しんでいる。

○公金横領、公費の違法支出

2 趣旨

(1) 本件文書が指摘する主たる問題点は、兵庫県下の信用金庫(以下、「各信用金庫」ということがある。)に対して交付される中小企業経営改善・成長力強化支援事業費補助に係る第3期補助金(以下「本件補助金」という。)を増額し、その増額分を兵庫・大阪連携「阪神タイガース、オリックス・バファローズ優勝記念パレード」(以下「本件パレード」という。)の協賛金として「キックバック」させたことである。

本件文書は、「キックバック」と記載しているが、後述のとおり、本件補助金の予算はいまだ執行されていないから、文言どおりの「キックバック」は有り得ないものの、本件文書の趣旨は、本件補助金の増額と協賛金との間に「見返り」とみられる対価関係があることを指摘するものと解することができる。

この点は、事実であれば、本件補助金を本来の目的外の不当な目的で増額し、協賛金を拠出した信用金庫に交付することになることから、背任罪(刑法247条)が成立する可能性がある。

(2) また、本件文書は、兵庫県がv(神姫バス)社等からも便宜供与の見返りとして本件パレードの協賛金を拠出させたことを指摘している。

(3) さらに、本件文書は、本件パレードを担当した課長が上記(1)、(2)の不正行為と大阪府との難しい調整によって精神状態が悪化したことを指摘している。

第2 事実認定

1 本件パレードについて

(1) 令和5年9月上旬、プロ野球において、セントラル・リーグでは阪神タイガースが、パシフィック・リーグではオリックス・バファローズがそれぞれ優勝する可能性が高まった(両球団は、その後実際に優勝した。)ことから、大阪府、兵庫県、両球団その他関連団体の間で両球団の優勝を祝うパレードを開催することが企画された。

(2) 同月11日、大阪府と兵庫県の間で、本件パレードの開催概要、実施体制、資金調達について打合せが行われ、それ以後、本件パレード開催に向け、両府県、両球団、企画・運営等を受託する株式会社電通ライブ、クラウドファンディングサービス会社、警備会社、兵庫県警察その他関係者との会議や打合せが頻繁に重ねられた。

(3) 大阪府は、上記(2)の打合せの初期において、本件パレードの資金について公金を投入せず、個人からのクラウドファンディングと企業・団体(以下「企業等」という。)からの協賛金をもって調達する方針を示し、兵庫県もその方針に倣うこととなった。

(4) 同月22日、兵庫県において、本件パレードの実務を担うプロジェクトチーム(以下「プロジェクトチーム」という。)が立ち上げられた。プロジェクトチームには、県民生活部、企画部、産業労働部ほか各部署から専従9名、兼務2名の合計11名が配属され、プロジェクトリーダーには県民生活部次長が、副リーダーには同部総務課長がそれぞれ任命された。

副リーダーは、本件パレードの計画について委託事業者や兵庫県警察等と調整を行うパレード開催班と実行委員会の運営、資金調達関係等を行う総合調整班の業務を現場において総括する役割を担ったが、その業務は、本件パレードのコースや誓備等についての兵庫県警察、大阪府、神戸市、委託業者等との調整、球団との連絡調整、兵庫県及び神戸市の職員及びボランティアの動員、協賛金の方法(税処理等)に関する検討や大阪府との調整、クラウドファンディングの周知など多岐にわたった。ただし、協賛金獲得に向けた企業への直接交渉等の調整については、片山元副知事、産業労働部部長のD氏、県民生活部部長であったC(井ノ本)氏及び同部次長が対応した。

(5) 同日、大阪府知事、齋藤知事及び公益社団法人関西経済連合会会長が出席し、本件パレード開催について記者発表が行われた。

(6) 同年10月10日、本件パレードの実行委員会が設立された。同委員会は、大阪府、兵庫県、大阪市、神戸市、公益社団法人関西経済連合会、大阪商工会議所、一般社団法人関西経済同友会、神戸商工会醗所、一般社団法人神戸経済同友会及び公益財団法人関西・大阪二十一世紀協会をもって構成され、会長には関西経済連合会会長が、副会長には関西経済連合会を除く上記各構成団体の代表者がそれぞれ充てられた。

同委員会には大阪府事務局と兵庫県事務局が置かれ、兵庫県事務局の事務局長には齋藤知事が、副事務局長には県民生活部次長が、会計責任者には同部総務課長がそれぞれ充てられた。

同委員会規約において「委員会の運営及び事業に要する経費は、寄附金及び協賛金等をもって充てる。」(12条)と定められ、当初の予算では、支出として事業運営費5億5000万円を、収入としてクラウドファンディング及び協賛金5億4900万円と寄附金等その他100万円合計5億5000万円をそれぞれ見込んでいた。そして、クラウドファンディングの目標額は5億円とされた。

(7) 実行委員会は、令和5年10月18日からクラウドファンディングと企業等からの協賛金の募集を開始したが、クラウドファンディングの集まりが悪かったため、同月下旬以降、企業等に対し、積極的に協賛金の拠出を依頼することになった。

(8) 本件パレードの事業費を管理する預金口座は大阪府事務局において管理していたため、兵庫県事務局において全体の収支状況を詳細に把握することは困難であったが、兵庫県事務局においても、大阪府事務局との打合せや独自の試算によって当初の見込みより増加していく事業費を確認しながら、クラウドファンディングの宜伝広告(ラジオ放送、新聞掲載)や企業等への働き掛け(電話、訪問等)によって必要資金の確保に努めた。協賛金等の状況については、県民生活部次長から同部の部長であったC(井ノ本)氏、片山元副知事及び齋藤知事に適宜報告されていた。

(9) 同年11月に入ると、大阪府事務局と兵庫県事務局との間で本件パレードの事業費について主にメールで頻繁に協議されたが、事業費について受託業者の見積額が当初の予算額より大幅に増大したため、収入面では協賛金等を更に確保する必要に迫られ、支出面では事業費を削減することが求められる事態となった。

同月14日には、大阪府事務局からC(井ノ本)氏と県民生活部次長に対し、警備費の削減(5472万円)と更なる収入確保(2000万円)を要請するメールが送信された。

(10) 兵庫県事務局に対しては、同月7日から協賛金の申込みが始まり、同月10日までに2600万円、同月11日から14日までに250万円の合計2850万円の申込みがあった。また、同月15日から同月17日までに500万円が申し込まれ、同月20日に申込みが予定されていた金額も1350万円あったから、同月15日以降でも1850万円の申込みないしその予定があり、同月17日の時点では、大阪府の要請する上記(9)の不足額2000万円についてもほぼ確保することができる見通しであった。

片山元副知事は、同日午後2時17分、県民生活部次長、同部総務課長及びC(井ノ本)氏に対し、以後は協賛金の額を1件当たり50万円とした上、勧誘行為は同月20日までとする旨のメールを送信した。

なお、同月15日までに100万円以上の協賛金の申込みの意思が伝えられた企業等については本件パレードで使用するバス等に企業等の名称を掲載することができたが、これに間に合わなかった企業等については後日ウエブサイトにリンクされる動画に企業等の名称が掲載されるという扱いとされた。そのため、この時期の勧誘行動に応じた企業等についてはバス等に名称を掲載できない扱いとなるため、片山元副知事らは1件50万円での勧誘行動を行おうとしていたものと考えられる。

(11) ところが、同月17日午後3時53分、大阪府事務局からC(井ノ本)氏と県民生活部次長に対し、事業費が8000万円不足しているので、兵庫県事務局においても、上記(9)の2000万円に更に2000万円を加えた最低4000万円の資金を確保することを要請するメールが送信された。そこで、県民生活部次長は、片山元副知事や齋藤知事に対し、大阪府事務局から上記要請があったことを伝え、協賛金の募集について更なる協力を依頼した。

(12) 齋藤知事は、v(神姫バス)社等十数社の代表者等に電話し、協賛金の拠出を依頼したところ、同社を含む数社がこれに応じた。同社は、同月20日、協賛金100万円の申込みをし、同年12月15日、入金した。

(13) 片山元副知事は、より多額の協賛金の募集を効果的に行うためには、県下に11ある信用金庫を重点依頼先にするのが得策であると考え、各信用金庫に協賛金の拠出を呼び掛けることを依頼するため、同年11月20日、w(但陽)信用金庫の理事長に電話をし、翌日面会する約束を取り付けた。片山元副知事が同金庫の理事長に上記の依頼をすることにしたのは、同理事長が県下11の信用金庫の理事長の中で最も在任期間が長いこと、西播磨県民局長や兵庫県信用保証協会理事長在任中に職務を通じて交流があったことなどから、迅速に協賛金を確保するためには同理事長に依頼するのが最も効果的であると判断したからであった。

(14) 片山元副知事は、同月21日、w(但陽)信用金庫本店を訪問し、理事長と面談した。片山元副知事が、本件パレードの事業費に充てる協賛金が不足しているので、各信用金庫に協賛金を拠出するよう呼び掛けてほしい旨依頼したところ、同金庫の理事長は、これに応じた。各信用金庫が拠出する協賛金の額については、両者間で、全部で11ある信用金庫から100万円あるいは200万円ずつ集めれば、1100万円あるいは2200万円になるなどと話す中で合計2000万円とすることになった。

同理事長が片山元副知事の依頼に応じたのは、兵庫県と各信用金庫とは制度融資等において密接な関係にあり、地域経済を支える上で協力関係にあることから、兵庫県が本件パレードの事業費の調達に困窮しているのであれば、各信用金庫としても本件パレードによって地域を盛り上げるために協力すべきであると考えたからである。

なお、この面談の際、本件補助金に関することが話題に上った事実は認められない。

(15) w(但陽)信用金庫の理事長は、上記(14)の面談後、各信用金庫から集めることにした協賛金合計2000万円を各信用金庫の規模等を考慮して、50万円、100万円、200万円、300万円と割り付けた上、同月22日、それぞれの信用金庫の理事長に電話をし、兵庫県から本件パレードの事業費不足を補うために協賛金を拠出することを依頼されたので、これに応じるよう依頼した。

各信用金庫の理事長は、いずれも上記依頼に応じて協賛金を拠出することを内諾した。その理由は、いずれもw(但陽)信用金庫の理事長と同様であり、また、各信用金庫に割り当てられた協賛金の金額も他の事例(各自治体が行うイベントヘの寄附等)と比較して不相当な額ではないと判断した点でも共通していた。

その後、各信用金庫は、協賛金を拠出することについて必要な内部手続を経て決定した。

(16) 同日、w(但陽)信用金庫から産業労働部地域経済課に対し、各信用金庫の協賛金の金額と担当者が通知され、同日以降、プロジェクトチームから各信用金庫に対し、協賛金の依頼書をファクスで送信し、電話で手続を案内した。

(17) 同月23日、本件パレードが開催された。実行委員会の発表によれば、大阪、兵庫両会場の来場者総数は約100万人、そのうち兵庫会場で午前に開催された阪神タイガースのパレードの来場者数は約30万人、午後に開催されたオリックス・バファローズのパレードの来場者数は約5万人であった。

(18) 同月24日から同月30日にかけて、各信用金庫から上記(16)の通知どおりの協賛金の申込みがあり、後日、申込額が入金された。

(19) 本件パレードの事業費については、本件パレード終了後も実行委員会と受託業者等との間で調整が続けられた。

兵庫県事務局も、受託業者の見積額について疑問点や削減すべき点を指摘するなどし、大阪府等の関連団体とも協議を重ねたが、令和6年1月24日、大阪府事務局からC(井ノ本)氏と県民生活部次長に対し、兵庫県において更に2000万円を追加確保し、同月31日までに入金することを要請するメールが送信された。

そこで、片山元副知事は、同月25日、既に100万円の協賛金の申込みをしていた神戸市所在の財団に更に2000万円を拠出するよう依頼したところ、同財団は、令和6年1月31日に同額を入金した。

結局、本件パレードの決算では、収入は、クラウドファンディングが1億418万8000円、協賛金が5億3101万円(121件)及び公益財団法人関西・大阪二十一世紀協会拠出が1855万5000円の合計6億5375万3000円で、支出は、合計6億4072万1000円であった。残余金は上記協会に寄付された。上記協賛金のうち、兵庫県事務局において集めた分は、合計9300万円(72件)であった。

(20) プロジェクトチームにおいては、かつて例のない大イベントである本件パレードを大阪府等外部と調整しながら開催するという困難な業務を担当し、所属していた各職員の負担は非常に重かった。

副リーダーであった県民生活部総務課長の勤務状況についてみると、同課長が使用していたパソコンに残された記録による時間外勤務は、プロジェクトチームが設置された令和5年9月22日から本件パレードが開催された同年11月23日までの約2か月間で187時間49分、そのうち同年10月23日から同年11月23日までの約1か月間では134時間56分であった。また、同課長は、本件パレード前夜はホテルに宿泊し、当日早朝から兵庫会場を点検した。

同課長は、同月10日以前からリーダーであった県民生活部次長に不眠を訴え、同次長から不調時には無理をせずに休むよう指示されていた。本件パレード終了後もプロジェクトチームの業務は続いていたが、同課長は、同年12月4日、同次長に対し、プロジェクトチームから離脱したい旨を申告し、了承された(辞令は同月8日付けである。)それ以後、同課長は、従前の業務に復帰し、ほとんど本件パレードの業務に関わらなくなったが、同月14日に行われた阪神タイガース球団に対するお礼には同行し、本件パレードの収支関係のメールのやり取りにも一部関わった。その後、同課長は、令和6年1月26日以降、病気休暇となり、同年4月、死亡した。

2 本件補助金について

(1) 兵庫県においては、中小企業の経営の安定と発展を図るため、金融機関及び兵庫県信用保証協会と連携し、中小企業が必要とする資金を原則として低利、固定、長期で融資する兵庫県中小企業等融資制度(いわゆる制度融資。以下、単に「制度融資」ということがある。)が設けられている。これは、兵庫県が金融機関に融資原資の一部を預託し、取扱金融機関が兵庫県の定める融資条件で中小企業に融資するものである。

(2) 特に、令和2年以降、新型コロナウイルス感染症流行の影響によって売上げが減少した個人事業者や中小企業に対し、実質無利子・無担保で融資を行うゼロゼロ融資(新型コロナウイルス感染症対応資金)が開始され、制度激資の実績は増大した。

ゼロゼロ融資の利子は、国が都道府県を通じて3年間負担することになっていたが、兵庫県が定めた金利は、全都道府県中最低の年0.7%であり(例えば、奈良県は年1.9%、大阪府は年1.2%)、金融機関の融資に伴う事務処理上の経費等を考慮すると、採算を取ることが困難な金利であった。

そこで、兵庫県下のゼロゼロ融資を取り扱う銀行、信用金庫等の金融機関は、兵庫県に対し、ゼロゼロ融資の金利が低過ぎるとしてその改善を申し入れていた。

(3) 兵庫県においては、令和4年度から中小企業経営改善・成長力強化支援事業が創設されることになり、同事業によって金融機関に交付される補助金が同年度当初予算に計上された。同事業は、令和5年度からゼロゼロ融資の返済や利子負担が開始することによって返済に窮する事業者が増加することが懸念されるため、事業者の経営状況を熟知した金融機関が事業者に対して行う金融・非金融両面の総合的な伴走支援を補助し、兵庫県と金融機関が協調して事業者の経営改善を促進することを目的とする事業であり、国から都道府県に交付される地方創生臨時交付金を財源とするものである。

同事業を利用する金融機関は、兵庫県に補助金の交付申請をし、交付決定を受けた上、対象事業者の経営改善計画書等の作成を支援し、4半期ごとにフォローアップを実施し、その報告書を兵庫県に提出しなければならず、兵庫県は、提出された報告書を検査し、適合した案件について補助金を交付することになる。

なお、上記(2)のとおり、兵庫県下の金融機関がゼロゼロ融資の低金利の改善を要望していたという背景がある中で同事業が開始された経緯はあるものの、同事業の定める目的は、ゼロゼロ融資の利子の補填ではなく、金融機関が事業者に対して行う伴走支援を補助し、それを通じて事業者の経営改善を促進することである。

(4) 中小企業経営改善・成長力強化支援事業によって金融機関に交付される補助金の第1期(令和4年4月1日から令和5年3月31日まで)の予算は、新規の対象事業者を1万2000者と予定し、1事業者当たり10万円として合計12億円とされた。

次いで、同補助金の第2期(令和5年4月1日から令和6年3月31日まで)の予算は、令和4年12月補正予算において、新規の対象事業者を20002者、第1期から継続する対象事業者を8000者と予定し、新規事業者1者当たり10万円、継続事業者1者当たり7万5000円として合計8億円とされ、第1期と比較すると4億円の減額となった。

(5) 産業労働部は、令和5年度中に、中小企業経営改善・成長力強化支援事業を第3期(令和6年度、令和6年4月1日から令和7年3月31日まで)も継続するか否かを検討した結果、コロナ禍による経営環境への影響の長期化に加え、物価高、原材料高、円安の影響によって経営に苦慮する事業者もあること、継続を希望する金融機関もあることなどを考慮し、継続するのが相当であると判断し、令和5年度の補正予算において、本件補助金の予算として1億円を要求することにした。

産業労働部としては、本件補助金の予算額について、県下の中小企業を取り巻く環境が厳しいことからより大きい金額を確保したいという希望は有していたが、新型コロナウイルスの影響が収束しつつある中では、金額よりも上記事業を第3期も続けることが重要と考え、担当部として最低限確保したい金額として同額を予算要求額とした。

この当初の予算要求額については、片山元副知事も事前に聞いていたが、その際には金額について特段意識せず、異論も述べなかった。

(6) 産業労働部は、令和5年11月9日、財務部財政課(以下「財政課」という。)に対し、本件補助金の予算要求資料を提出した。

同資料には、一般社団法人兵庫県中小企業家同友会のNTレポート(景況調査)の統計によるゼロゼロ融資利用事業者のうち、返済に不安があり、対策ができていないと回答した事業者の割合を参考にして支援が必要な事業者を1000者と推計し、事業費として1者当たり10万円として1億円、事業事務費として別途100万円を計上する旨記載されている。

(7) 同月14日、財政課の課長査定において、本件補助金の予算は1億円と査定された。同日ころ、財政課長は、片山元副知事に対し、本件補助金の予算を含む令和5年度12月補正予算について報告した。その際、片山元副知事は、財政課長に対し、中小企業経営改善・成長強化支援事業を廃止に向けてソフトランディングできるよう、依然として金融機関等のニーズが高いことを踏まえ、地域創生臨時交付金の活用を前提に、前年度の予算額8億円の2分の1の4億円程度で事業設計するよう口頭で指示した。この指示内容は、財政課から産業労働部へ口頭で伝達された。

(8) 産業労働部は、同月16日、財政課に対し、予算要求資料の差替え版を提出した。差し替えられた資料による本件補助金の予算要求額は、4億円(ただし、その根拠となる積算額は3億7500万円)であった。

その積算根拠は、新規支援事業者として、上記(6)のNTレポートの統計によるゼロゼロ融資利用事業者のうち、返済に不安があると回答した事業者の割合(対策ができていない事業者だけでなく、対策を行った事業者も含む。)を参考にして3000者と推計し、継続支援事業者として、株式会社東京商工リサーチの「経営環境に関するアンケート調査(2023.8)」においてコロナ禍の影響が継続しているか今後影響が出る可能性があると回答した事業者の割合を参考にして第2期の新規支援事業者2000者のうち1000者と推計し、新規支援事業者1者当たり10万円、継続支援事業者1者当たり7万5000円として積算した合計額で
ある。

ただし、当初予算要求額1億円から大幅に増額した実質的な理由は、上記(7)の片山元副知事の指示に従おうとしたことによるものであった。

その後、同月17日に行われた部長査定では、本件補助金の予算額は、上記積算額の3億7500円とされた。

(9) 同月21日、知事査定が行われ、齋藤知事は、本件補助金の予算について、全体を丸く4億円として計上するよう指示した。この指示は、財政課から産業労働部に伝達され、令和5年12月補正予算案における本件補助金の予算は4億円となった。

(10) 上記(5)ないし(9)のとおり、令和5年12月補正予算における本件補助金の予算額は、産業労働部の当初要求額1億円から最終的に4億円に増額されたが、この査定の経緯については、各信用金庫を含む金融機関等兵庫県の外部に伝達されてはいなかった。

(11) 本件補助金を含む令和5年12月補正予算案は、同年11月29日、記者発表され、同年12月13日、兵庫県議会において可決、成立した。

(12) 兵庫県は、同月14日、各信用金庫等県下の金融機関に対し、中小企業経営改善・成長力強化支援事業が令和6年度も継続して実施されることについて事前通知を発出した。

(13) 本件補助金については、2回募集が行われた。

1回目は、令和6年1月15日、ゼロゼロ融資の残高のある50金融機関に対して通知したところ、同月26日までに20金融機関が応募し、これらに対して合計3億2325万円が配分された。なお、1回目の募集には、県下の11の信用金庫のうち10の信用金庫が応募した。

2回目は、同年2月16日、1回目に応募した20金融機関に対して通知したところ、同月29日までに7金融機関が応募し、これらに対して合計7670万円が配分された。1回目の募集では、一定額(2000万円)を保留した上で、各金融機関のゼロゼロ融資の実績に応じて上限を示して募集したところ、応募しない金融機関もあったために予算額を下回ったが、保留分と1回目の募集の残額を活用した2回目の募集では、予算の残額を大幅に上回る応募があった。

本件補助金は、令和6年度の中小企業経営改善・成長力強化支援事業による金融機関の対象事業者に対する伴走支援について交付されるものであるから、本件補助金の予算は、未だ執行されていない。

第3 評価

1 本件パレードの協賛金と本件補助金との関係
(1) 問題の所在

前記第2のとおり、片山元副知事が各信用金庫に対して本件パレードの協賛金の拠出を依頼したのは令和5年11月であったが、同じ月に同年12月補正予算の査定過程において本件補助金の予算が片山元副知事の指示によって1億円から4億円に増額されたことから、本件補助金の予算の増額と各信用金庫が本件パレードの協賛金を拠出したこととの間に「見返り」の関係があるとするのが、本件文書の指摘する問題点であると考えられるので、以下検討する。

(2) 本件パレードの協賛金拠出の依頼について

片山元副知事は、同年11月21日、w(但陽)信用金庫の理事長に対し、各信用金庫に本件パレードの協賛金の拠出を呼び掛けてほしい旨依頼し、これに応じた同理事長が各信用金庫の各理事長に働き掛けた結果、各信用金庫が協賛金を拠出した。この過程において本件補助金の予算を増額する旨告知されたことを窺わせる証言等の証拠は得られなかった。

(3) 本件補助金の予算の増額について

本件補助金の予算について、産業労働部の当初の要求額が1億円であったところ、同月14日から同月17日までの間に片山元副知事の指示によって3億7500万円に増額され、同月21日に齋藤知事の指示によって4億円に増額された過程においても、本件補助金の予算の増額を各信用金庫に本件パレードの協賛金を拠出させる見返りとする意図を窺わせる証拠は見当たらなかった。

確かに、本件補助金の予算は、当初要求額1億円の4倍である4億円に増額されたのであるから、著しい増額であるといえる。しかし、中小企業経営改善・成長力強化支援事業の財源は、県税等ではなく、国から交付される地域創生臨時交付金であるから、これを財源とする他の事業との調整等によって同事業に充てる余裕があれば、政策的に一定程度大きな金額を増額することもできる性質のものであるし、同事業に係る補助金の予算が第1期12億円、第2期8億円と推移して来た経緯からみれば、特に不合理、不自然であるとはいえない。また、金融機関から本件補助金の予算額を超える応募があったことからすれば、本件補助金の予算額4億円が需要と乖離した過大なものであったということはできない。

(4) 上記(2)、(3)のいずれにも片山元副知事が関与したことについて

ただ、片山元副知事が各信用金庫に対して本件パレードの協賛金の拠出を依頼した時期と近接した時期に本件補助金の予算の増額を指示したことから、片山元副知事の内心において両者を関連付ける意図があったのではないかとの疑念を抱かれる余地がないとはいえない。そこで、この点について検討する。

片山元副知事は、同月16日以前に、財政課長に対して本件補助金の予算要求額を4億円程度とするよう指示したが、同月17日午後2時ころには本件パレードの協賛金の募集については一定の目途が付き、勧誘行動を同月20日までとする旨の意向をメールで関係者らに送信送付していた。

ところが、上記メールを送信した後に、本件パレードの事業費の不足を補うために更に多額の協賛金を募集しなければならない窮状にあることを知ったため、より多額の協賛金を効率的に募集する方法を模索するなかで、同月21日にw(但陽)信用金庫の理事長に対して各信用金庫に協賛金の拠出を呼び掛けることを依頼した。

以上によれば、片山元副知事が本件補助金の予算の増額を指示した時点においては、各信用金庫に本件パレードの協賛金を2000万円規模で拠出させる意図はなく、それとは無関係に本件補助金の予算の増額を指示したものと推測される。

(5) 各信用金庫が本件パレードの協賛金を拠出した理由

本件パレードにおいては、同月15日時点で協賛金の申込みをする意向が確認できなければ、パレードで使用するバス等に企業等の名称を掲載できず、それ以後に申込みをする意向を兵庫県に伝えても、各信用金庫にとっては広告宣伝効果がほとんどないことから、各信用金庫が本件パレード終了後に協賛金の申込みをしたことについて、他に何らかの見返りがあったのではないかとの疑問の余地がないとはいえない。

しかし、各信用金庫は、従来、自治体等が行うイベントに寄附の援助をしていたが、それは、広告宣伝というよりは地域への貢献という趣旨でしていたことが多く、本件パレードの協賛金も同様の趣旨で拠出したものである。なお、同月15日より後に協賛金の申込みをする意向を兵庫県に伝えた場合には、本件パレード開催時にはバス等に企業等の名称は掲載されず、本件パレード開催後にウェブサイトにリンクされる動画に協賛企業として名称が掲載されることとなったが、各信用金庫は名称が掲載されるか否か、また掲載方法いかんにかかわらず、本件パレードの資金調達に苦労している兵庫県に対し、地域貢献の一環として協力する意図で協賛金を拠出したことが認められた。したがって、各信用金庫において、兵庫県の依頼に応じて協賛金を拠出することによって兵庫県から補助金等の経済的利益やその他の便宜を受けることを期待していたとは認められない。

もっとも、各信用金庫が本件パレードの直前に急遽協賛金の拠出に応じた背景には、兵庫県と各信用金庫とが制度融資等において密接な関係にあること、片山元副知事が県政において強大な権限を有し、各信用金庫とも関わりあったことなどの事情があり、それが疑念を抱かせる要因となり、結果として各信用金庫を本件文書に関わる問題に巻き込むことになったことは否定し難い。

(6) 本件文書が指摘する疑念を抱かせる事態が発生した原因

片山元副知事が、本件パレードの直前、更に終了後まで、各信用金庫や団体に対して協賛金の拠出を依頼せざるを得ない事態に陥った原因としては、本件パレードの事業費を個人からのクラウドファンディングや企業等からの協賛金という確実な予測が困難な方法によって調達することにし、特にクラウドファンディングについては見込みが楽観的に過ぎ、結果的に兵庫県事務局が調達しなければならない協賛金の額が過大となり、無理が生じたことが考えられる。

本件パレードについては、兵庫県だけでなく大阪府や経済団体とともに構成された実行委員会において企画や予算が決定され、資金調達の方法等は大阪府の方針の影響が多分にあったことが窺われるが、そうであったとしても、兵庫県としては、本件パレードの資金調達を含む企画全般について、より無理のない現実的な方針を採るべきであったという点は指摘せざるを得ない。

2 v(神姫バス)社等の企業から便宜供与の見返りとして本件パレードの協贅金を拠出させたとの指摘について

本件パレード実行委員会の兵庫県事務局において取り扱った企業等からの協賛金は、72件、総額9300万円であるが、兵庫県において、協賛金を拠出した企業等に対し、本件パレードの前後において特別な便宜供与をした事実は認められなかった。

なお、本件文書には、v(神姫バス)社の名前が掲記されている。しかし、同社は、兵庫県内の広範な地域に路線を有してバスを運行している公共交通機関である。そのため、兵庫県が同社又はその子会社対して業務を委託して実施している事業があるほか、兵庫県から同社に対して公共交通バリアフリー化促進事業の補助金が交付されているなど、一定の関係はあるが、これらは、同社の公共交通機関としての役割からみて特段の便宜供与といえるものではなく、また、本件パレードの協賛金との関連性を裏付ける事情も認められなかった。

3 本件パレードを担当した課長の問題について

(1) 本件文書の内容や本件パレード当時の役職、プロジェクトチームの構成からすれば、本件文書に記載された本件パレードを担当した課長とは、プロジェクトチームの副リーダーであった当時の県民生活部総務課長を指すものと認められる。

(2) 「不正行為」との記載について

本件文書には、同課長は「この一連の不正行為と大阪府との難しい調整に精神が持たず、」と記載されているところ、「不正行為」とは、本件補助金を増額し、それを本件パレードの協賛金として「キックバック」させたこと、すなわち、本件補助金を増額することを見返りとして協賛金を拠出させたことをいうものである。

なお、文脈からみて、本件文書の記載は同課長が「不正行為」に積極的に関わったとする趣旨ではなく、「不正行為」に巻き込まれ、精神面での健康を害した被害者であるという趣旨であると思料される。

しかし、本件補助金の増額と本件パレードの協賛金の拠出との間に見返り関係が認められないことは、上記1のとおりであるから、同課長の職務が「不正行為Jと関わりがないことは明らかであり、この点についての本件文書の指摘は当たらない。

(3) 同課長の労務状況

しかし、本件パレードに係る業務を担当した職員が精神疾患を発症し、休職するに至ったのであれば、それは兵庫県の労務管理上重大な問題である。

前記第2の1のとおり、プロジェクトチームに配属された職員全員について質、量ともに多大な負担があった。

特に、副リーダーであった同課長は、前記第2の1(20)のとおり、本件パレード開催直前約1か月間の超過勤務時間が134時間56分に及ぶなど、連日、過酷な長時間労働を余儀なくされていた。そのうえ、副リーダーの担当業務は、前記第2の1(4)のとおり、多岐にわたり、本件パレードの協賛金の拠出を企業等に直接依頼することはなかったとしても、本件パレードの資金調達が困難な状況が続く中で精神的にも負担が増大していたことが認められる。加えて、本件パレードに係る上記業務は、同課長がそれまでほとんど経験したことがないものであり、それによる緊張感、負担感も大きかったものと思料される。

地方公務員災害補償基金の「精神疾患等の公務災害の認定について」(第3次改正令和6年3月22日地基補第132号)には、精神疾患等の公務災害の対象となる「その他強度の精神的又は肉体的負荷を与える事象」として、「発症直前の1か月以上の長期間にわたって、質的に過重な業務を行ったこと等により、1月当たりおおむね100時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場合」が挙げられ、「「精神疾患等の公務災害の認定について」」の実施について」(第3次改正令和6年3月22日地基補第133号)の別表「業務負荷の分析表」には、「過重な負荷となる可能性のある業務例」として「新制度の創設、大規模な行事・イベント等の開催準備・運営などのため一定期間昼夜の別なく集中的に携わった場合」、「立場の異なる国の機関、他の地方公共団体及び関係団体等との間に立って一定の方向性を出すための説得、調整の作業に従事した場合」、「これまで経験したことのないような高度な企画、立案業務、又は予算、事業の取りまとめ調整業務に従事することになった場合」などが挙げられている。

プロジェクトチームの副リーダーに就任してから辞任するまでの同課長の業務内容は、上記公務災害の認定基準に照らしても、過重な負荷となる可能性のある業務であったことは明らかである。

使用者である兵庫県は、職員である同課長に対して安全配慮義務を負っていた(民法1条2項、労働契約法5条参照)ところ、その義務を怠って同課長を過重な負荷となる可能性のある業務に従事させたとすれば、同課長の業務に起因する疾病等について責任を負うことになる。
兵庫県において同義務の履行に欠けるところがなかったかどうかについては、労務管理上重要な問題として正しく検証されなければならない。

4 小括

上記のとおり、本件文書が本件パレードについて指摘する最も主要な問題である本件補助金の増額と本件パレードの協賛金との間に「キックバック」や「見返り」の関係があることは認められなかった。その他、本件パレードの協賛金を拠出した企業に対する便宜供与等の事実も認められなかった。

ただし、令和5年11月に、本件補助金の予算額をめぐる庁内での検討過程で産業労働部の当初要求額から大幅な増額があったこと、その増額の指示をした片山元副知事が信用金庫に対して本件パレードの協賛金の拠出を依頼した事実があることから、本件補助金の増額と本件パレードの協賛金の拠出との間に関連性があるとの指摘については、本件文書問題について各種報道がなされて社会の耳目を集め、本件補助金の予算額の推移などが具体的に報じられると、各方面からこの点が疑問視されたように、外形的にみて疑わしい事実の指摘であったと評価できる。

また、プロジェクトチームの副リーダーであった課長の労務環境について、超過勤務時間が増大し、業務内容としても過重な負荷のかかる状況にあった上、本件文書も指摘する大阪府側との難しい調整が多大な負担であったこと、また、本件パレードのクラウドファンディングが低調であり、兵庫県として協賛金を集めることに苦労していた状況も大いに負担であったことは認められるのであり、本件文書には、本件パレード実施に関連して、兵庫県の職員の労務環境において重大な問題があった点の指摘が含まれていたといえる。

以上のとおり、本件文書の当該箇所の記述が指摘しようとする問題については、その最も主要な内容である不正行為については、調査の結果事実とは認められなかったが、当該箇所の記述に関連して、本件パレードの資金計画に無理があったことを原因として兵庫県の行った協賛金の募集について疑念を生じさせかねない点があったこと、また、本件パレードの業務を担当した職員が過重な負担のある労務環境に置かれていたことは事実であり、県政にとって軽視することのできない重要な指摘を含むものであったと評価することができる。

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