- このページについて
- 調査報告書(文字起こし) 第9章
- 第9章 本件文書に記載された事項7の調査結果
- 第1 本件文書の記載
- 第2 事実認定
- 第3章 評価
- 1 基本的な考え方
- 2 関係法律と厚労省指針、人事院規則、兵庫県ハラスメント防止指針
- 3 評価の対象とその基準
- 4 個々の行為がハラスメントに当たるかについて
- (1) 考古博物館の件
- (2) アワイチ報道とその後の淡路県民局長への対応について
- (3) 空飛ぶクルマをめぐる諸問題
- (4) 県立美術館の休館をめぐる件について
- (5) 「SDGs未来都市」等の選定証授与式の広報をめぐる問題について
- (6) 報道がなされることの事前報告等について
- (7) 机を叩いて叱責した行為について
- (8) 付箋を投げた行為について
- (9) 淡路スポーツチャレンジの件
- (10) AIによるマッチングシステムの件
- (11) 介護テクノロジー導入・生産性支援センターの件
- (12) はばたんペイの件
- (13) 知事であることを特に強調する発言について
- (14) チャットについて
- (15) 左遷的な人事について
- (16) ココロンカードについて
- 5 小括
- 第9章 本件文書に記載された事項7の調査結果
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このページについて
当ページには、告発文書の内容の真偽を確認する「文書問題に関する第三者調査委員会」が2025/3/19に公表した調査報告書の、「第9章 パワーハラスメント」について文字起こしを掲載しています。
当報告書の全容は、以下リンク先を参照ください。
調査報告書(文字起こし) 第9章
第9章 本件文書に記載された事項7の調査結果
―職員に対するパワーハラスメント、不適切な言動ないし対応の有無について―
第1 本件文書の記載
1 記載内容(以下、原文のまま引用)
⑦ パワーハラスメント
知事のパワハラは職員の限界を超え、あちこちから悲鳴が聞こえてくる。
執務室、出張先に関係なく、自分の気に入らないことがあれば関係職員を怒鳴りつける。例えば、出張先の施設のエントランスが自動車進入禁止のため、20m程手前で公用車を降りて歩かされただけで、出迎えた職員・関係者を怒鳴り散らし、その後は一言も口を利かなかったという。自分が知らないことがテレビで取り上げられ評判になったら、「聞いていない」と担当者を呼びつけて執拗に責めたてる。知事レクの際に気に入らないことがあると机を叩いて激怒するなど、枚挙にいとまがない。
また、幹部に対するチャットによる夜中、休日などの時間おかまいなしの指示が矢のようにやってくる。日頃から気に入らない職員の場合、対応が遅れると「やる気がないのか」と非難され、一方では、すぐにレスすると「こんなことで僕の貴重な休み時間を邪魔するのか」と文句を言う。人事異動も生意気だとか気に入らないというだけで左遷された職員が大勢いる。
これから、ますます病む職員が出てくると思われる。
○(職員からの訴えがあれば)暴行罪、傷害罪
2 趣旨
元西播磨県民局長は、本件文書において、齋藤知事の職員を威圧する言動全体を問題としたものであり、文書に列挙されているのはその例示であると解される。
実際、本件百条委員会は、上記の問題について、全職員を対象にアンケートを実施したが、これに対しては、本件文書で例示された以外にも齋藤知事の職員に対する言動を問題にする回答が多数寄せられた。本調査委員会は、独自にホットラインを開設し、名前を明らかにして情報提供することを求めたが、そこでも同様の情報が寄せられた。
そこで、本調査委員会は、アンケートとホットラインを通じて寄せられた情報についても、関連する事項若しくは本調査委員会が必要と認めた事項として、広くこれを調査することにした。
以下、調査の結果として認定した事実とこれに対する評価を述べる。
第2 事実認定
1 執務室、出張先に関係なく、関係職員を怒鳴りつけるとの指摘について
(1) 元西播磨県民局長は、上記の例として、齋藤知事は、出張先で約20メートル歩かされたことに激怒したと指摘する。
これは、令和5年1月28日、加古郡播磨町所在の県立考古博物館において開催された「令和5年度東播磨地域づくり懇話会」の開式前に起こった事象である。
(2) 同懇話会には、地域から、明石市、加古川市、高砂市、稲美町、播磨町の首長と議会関係者が、県から、齋藤知事、F(守本)、X(野北)らが参加して、午後1時から午後2時30分まで行われた。
(3) 考古博物館の南東部分には、博物館の玄関に通じる道(添付資料8において青色の点線で表示した部分。以下「歩行者用通路」という。)があるが、博物館とその周辺の地下には遺跡が存していたので、埋蔵物を保護するため、車両等の重量物の通行は禁止されている。考古博物館は、その旨を示すため、歩行者用通路の開始部分に車止めを設け、車両が侵入できないようにしている。
(4) 東播磨県民局は、齋藤知事到着の際のロジ(ロジスティクスの略。兵庫県の職員等においては、会議や出張等の段取りや手配、移動経路等を差して使用されているようである。)について、秘書課から「知事の歩く距離はできるだけ短く」と要請されていたので、応えるようとしたが、埋蔵物の関係はいかんともしがたく、以下の計画を立てた。そこで、当日の会議を担当する企画部の計画課に対し、現場付近の図面を送って、県民局の意向を伝えた。
- ア 公用車は図面で赤色の四角で囲んだ職員用の駐車場に停めてもらう。
- イ X(野北)氏とF(守本)氏は、職員用の駐車場で知事車の到着を待つ。
- ウ 齋藤知事到着後は、X(野北)氏とF(守本)氏が案内し、黄色で示した経路を歩いて来館してもらう。
(5) 秘書課は、企画部計画課から連絡を受けて東播磨県民局の作成したロジを確認してこれを了承し、公用車は職員用駐車場に停め、齋藤知事には黄色の経路を歩いて博物館に向かってもらうこととした。
(6) 当日、X(野北)氏とF(守本)氏は、齋藤知事を迎えるため、12時45分ころ博物館の外に出たが、職員用駐車場には齋藤知事の公用車と同じアルファードが駐車していた。2名は、既に齋藤知事が到着したかと思い、出迎えが遅れたと焦る気持ちになって、職員用駐車場に停まっているアルファードまで齋藤知事を迎えに行くか、このまま玄関前で待つべきかを協議した。そして、齋藤知事が車から出てこないのは何か事情があるからかもしれないと考え、そのまま玄関前で様子を見、齋藤知事が車から出てきた時点でそちらに向かい、知事を案内することにした。
(7) しかるところ、午後1時の2、3分前、別のアルファードが博物館に向かって来るのが見えた。X(野北)氏とF(守本)氏は、職員用の駐車場に停まっていたのは別の車で、今度到着したのが齋藤知事の乗る公用車であると理解した。そして、職員用の駐車場に向かおうとした。
(8) ところが、到着した公用車は、職員用駐車場ではなく、歩行者用通路の方向に向かい、車止めの前で停車した。X(野北)氏とF(守本)氏は、あわてて公用車に向かったが、齋藤知事は、車から降りてきて車止めを持ち上げる仕草をし、「なんでこんなところに車止めを置いたままにしているのか」と激しく叱責した。X(野北)氏は、語勢の強さに驚き、あわてて車止めを外し、通路の端にこれをよけた。しかし、齋藤知事は、更に、「それで車が通れると思っているのか」と述べて、X(野北)氏を叱責した。X氏は、その言葉を受け、車止めを通路の外に移動させた。齋藤知事は、その間に、F(守本)氏とともに、歩行者用通路を通って博物館玄関に向かった。X(野北)氏も車止めを外してからその後に従った。
(9) F(守本)氏は、齋藤知事がロジに厳しい見解を持っていること、怒ることはあるが、多くの場合、後に引かないことを知っていたので、冷静に対応することができた。
一方、X(野北)氏は、齋藤知事が突然怒り出すことがあるとの噂は聞いていたが、自身が直接叱責を受けるのは初めてであった。最初は、なぜ齋藤知事が怒っているか理解できずに驚き、次には、興奮した齋藤知事が冷静さを取り戻して会議に臨めるか、自分は上手に場を取り持つことができるかと不安になった。
(10) 会議は、参加者が冒頭で場を和ませる発言をしたこともあり、順調に進み、有益な意見交換をすることもできた。
(11) 会議終了時、運転手と随行の秘書課職員は、車止めが横にのけられたので、歩行者用通路に車を乗り入れ、玄関前に公用車のアルファードを横付けした。齋藤知事は、玄関を出てすぐに公用車に乗り、歩行者用通路を通って帰途についた。
(12) 上記の事案は、東播磨県民局内では、当日の会議に出席していた一般職員も知るところとなった。他の県民局の多くも、その後間もなく当該事案を伝え聞いた。また、その後行われた県民局長、県民センター長会議においても、ロジ対応の注意点として、全員のいる場でその話が話題となったので、県民局長全員がその事実を知ることとなった。そして、同じような事案が起こらないようロジに気を付けなければならないとの認識が共有された。この出来事は、考古博物館で現場を見た職員や、県民局長からロジに気を付ける必要があると訓戒を受けた一般職員らを通じ、多くの職員がその事実を知ることとなった。
(13) 齋藤知事は、上記の事案について、おおむねの事実を認めた上、「博物館の入り口まで道が続いていたし、出迎えの職員は、入り口で待っていたのだから、歩行者用通路が車両通行禁止であると知らされていない当時の認識の下では、東播磨県民局長らの対応をロジとして不適切であると考えたことは誤っていない。自分は、その認識のもとにロジのあり方を注意し、指導したものであるから、その行為は適切である。大きな声を出したのは、屋外で、かつ、会議の始まる前であったからである。口調は強いものであったが、注意、指導の範囲内である。」と述べている。
2 広報関係をめぐる事象について
(1) アワイチ報道をめぐる後の淡路県民局長への対応
ア 淡路島は、周囲約150kmで、自転車であれば1日で一周することができる。そのため、淡路島を自転車で一周するコースは、アワイチと呼ばれてサイクリング愛好者に人気がある。
イ 淡路島一周のサイクリングをするサイクリストは、岩屋港を起終点とすることが多い。そこで、兵庫県では、土木事務所が中心となり、岩屋港にスタートとゴールの様子を撮影するためのモニュメントを建築した。そして、その除幕式を令和5年3月3日の金曜日に行うこととした。
ウ NHKは、数日前に除幕式が行われることを知り、インタビューを行うので淡路県民局長からのコメントがほしいと申し入れた。局長は、自分が出るより担当した若手職員が対応した方が職員のモチベーションアップにつながる等と考え、インタビューには若手職員に答えてもらうことにした。そして、土木事務所に上記の対応方針を齋藤知事に伝えてもらうよう依頼した。
エ 3月3日、NHKは、若手職員へのインタビューを交え、除幕式の模様を報道した。齋藤知事は、これを視聴し、自分が聞いていない出来事がテレビで報道されたと問題視した。
オ 翌3月4日(土曜日)、齋藤知事は所用で淡路を訪れた。しかし、県民局長とは出迎えと見送りの際に挨拶を交わしたほか、会話をしなかった。県民局長は、何があったのかと不安になったが、翌週になり、自分の聞いていないことについて報道があったと齋藤知事が立腹している旨が伝わり、その理由を理解した。
カ 淡路県民局長は、自分の判断ミスであるとして、別の行事で齋藤知事が淡路を来訪した際に謝罪した。これに対し、齋藤知事は、「サイクリングは知事マターだから」とのみ答えた。局長は、サイクリングが知事マターであると聞いたことはなかったが、齋藤知事がサイクリングに関心があるとは聞いていたので、更に深く自分の判断ミスとして当該事案を受け止めた。
キ 淡路島では、毎年秋に自転車で島を一周するロングライド150というイベントが開かれる。淡路県民局長は、令和5年4月11日、知事協議を行った際、前年の除幕式のことがあり、「サイクリングは知事マターである」とも言われていたので、イベントの準備状況を報告した。しかし、齋藤知事は、説明に対し、多忙な中、この時期に齋藤知事がその問題について報告を聞く必要があるのかと、突き放した対応をした。
ク なお、齋藤知事は、除幕式の報道の件も、ロングライド150の説明の件も記憶にないと述べる。しかし、多くの職員が供述し、その内容が一致していること等に鑑み、本調査委員会は、その事実があったと認定する。
ケ 当時の淡路県民局長をめぐっては、その他として、複数の職員(幹部職員や知事の近くで仕事をする職員の一部を含む。)が、周りから見ていて、当時の淡路県民局長は齋藤知事からは遠ざけられている、知事は県民局長との協議の際不機嫌な態度で対応することが多いと感じたと語っている。
ただし、齋藤知事は、当時の淡路県民局長に冷淡に接したことはないと述べている。
(2) 空飛ぶクルマをめぐる諸問題
ア 大阪府は、空飛ぶクルマを令和7年開催の万博の目玉にしたいと力を入れていた。兵庫県は、従前からドローンの社会実装に取り組んできたが、齋藤知事就任後は、これを更に発展させることとし、空飛ぶクルマを活用したビジネス展開を目指す事業者に補助金を交付する等の政策を検討した。そして、令和4年秋から、大阪府と連携会議を持ち、議論を続けた。
イ 兵庫県では、産業労働部が中心となって検討を進め、令和5年初頭、①空飛ぶクルマの社会実装に向け、企業と連携しながらその社会受容性を向上させ、②離着陸場の整備の促進を支援するとともに、③事業者に補助金を交付する等の内容の政策をまとめ、事業開発を支援することとした。そして、x(SkyDrive)社と公民連携協定を締結することとし、令和5年1月24日に、マスコミの取材のもと、その締結式を行うこととした。
ウ 産業労働部は、秘書課と協議の上、令和5年1月16日、同月24日に行われるx(SkyDrive)社との締結式の段取り等を齋藤知事に説明すべく、担当職員(2名)が知事協議に入ることとなった。
エ しかるところ、読売新聞が1月16日の朝刊で空飛ぶクルマについて報道をした。齋藤知事は、その記事を読み、連携協定の締結式前に報道がなされたことを問題視した。そして、職員らが知事室に入るやいなや、この記事は何なのかと問い詰めるとともに、「空クルは知事直轄」「勝手にやるな」等と厳しい口調で議論した。
オ 産業労働部では、空飛ぶクルマについて、前年の令和4年秋から何度も知事協議をさせてほしいと依頼していたが、齋藤知事は時間がない等として応じず、その希望がかなわずにいた。しかし、服部副知事とF(守本)氏(当時の役職は企画部総合企画局長)が齋藤知事に説明をしているとのことであったので、経過は斎藤知事も知っているとの認識でいた。また、記事の内容は、県議会で議論されていたことが中心で、産業労働部が新しく伝えたものではなかった。
カ 産業労働部の担当職員は、いきなり叱責されたことにつきショックを受けた。また、F(守本)氏と服部副知事を通じて事情と経過は聞いてもらっているはずなのにと理不尽にも感じた。しかし、それまでに、齋藤知事は協議の際に反論すると機嫌が悪くなるという噂を聞いていたので、反論しなかった。そして、これまでの状況と1月24日の連携協定式の段取りだけは説明しようとしたが、齋藤知事は、「やり直し」と述べて聞く耳を持たず、協議は短時間で打ち切られた。
キ その後、産業労働部では、秘書課から、本件は重要案件であるからきちんと協議をする必要がある、再度協議の日を設定するよう連絡があった。そして、翌々日の1月18日、F(守本)氏と土木部長等が同席し、再度の知事協議が行われた。齋藤知事は、このときは職員の話を聞き、 ×社 との連携協定の内容と締結式の段取りについて、これを了承した。
ク 産業労働部でこの件を担当した課長は、令和4年4月にその役職に就いたばかりであったが、上記の知事協議の約3か月後の令和5年4月、他部の課長へと転出した。
ケ 齋藤知事は、本調査委員会が行ったヒアリングにおいて、令和5年1月16日に読売新聞が空飛ぶクルマについて報道を行ったことについて、記事を読んだ記憶はない、同日、×(SkyDrive)社との連携協定について産業労働部の職員と知事協議を行ったことについても記憶はない、空飛ぶクルマをめぐって、新聞報道がなされたことについて職員を叱責したことはないとするが、複数職員の供述を総合すれば、その事実はあったと認定できる。なお、齋藤知事は、その他として、空飛ぶクルマは、企画部が主導して検討を行ってきたが、知事協議は適切に行われていると述べている。
(3) 県立美術館休館問題
ア 兵庫県立美術館は、平成14年に開館した施設で、その所管は教育委員会である。
イ 教育委員会は、令和4年、県立美術館は築後20年を経過し、施設が老朽化したことから、令和5年5月から大規模な修繕を行うことを検討した。
しかし、兵庫県は、令和7年に開催される大阪万博のフィールドパビリオンとして美術館を利用することとしていた。
そのため、教育委員会は、大規模な修繕は万博終了後に延期し、令和5年度は約1か月の臨時休館期間を設け、機械設備システムを更新し、エレベーター部品を修繕する等、最小限のメンテナンスを行うにとどめることとした。上記の修繕については、令和4年度の補正予算で繰越しを前提として予算化され、議会の承認を受けた。
ウ 教育委員会は、令和5年度末(令和5年3月)ころには、休館期間を令和5年7月24日から同年9月8日までとすることを決定した。そして、「展覧会のご案内」と題したリーフレットのカレンダーに、上記の間は休館することを明記した。リーフレットは、令和5年4月27日ころ、秘書課を通じて、齋藤知事と2名の副知事、秘書広報室長及び秘書課長にも各5部配布された。夏の休館については、美術館のホームページに掲載され、一般にも告知された。
エ 県立美術館は、上記の準備の下、令和5年7月20日、同月24日から同年9月8日まで休館することをプレスリリースした。
オ 齋藤知事は、7月20日の夜、県立美術館が夏休み期間中に休館するとの新聞の電子版報道に接し、聞いていないと激怒した。そして、その深夜(翌21日午前0時46分)、E(有田)氏、B(小橋)氏、C(井ノ本)氏、D(原田)氏及びF(守本)氏にチャットを送り、「県立美術館が、今月から異例の長期休暇するなんて一言も聞いていない。」、「なぜ一言も知事に報告がないのか。知事が報道で初めて知るのはおかしいではないか。」と述べた上、「明日朝イチで数育長とC(井ノ本)に知事室に入るように調整してください。」と指示をした。また、0時47分には、同じ者らに対して、「こんなことでは県立美術館への予算措置はできません。」と強い措置を取ることを示唆する内容の指摘をした。
カ さらに、午前0時49分には、やはり同じメンバーに対し、「E(有田)さんには、あれほど、ネット記事などを秘書室でチェックして、報告もれがないかを確認する体制を整備しろといったのに、全くなにもできていない。なにをやっているのか。」と激しく叱責した。
E(有田)氏は、3分後の午前0時52分、「申し訳ありませんでした。」と返信して謝罪し、「明日、朝イチで報告するよう調整いたします。」と翌日の段取りについての考えを伝えた。
キ (藤原俊平)教育長は、翌7月21日、秘書室長のE(有田)氏から、齋藤知事がメンテナンス休館のことは聞いていないと非常に怒っているとして、説明に来るように連絡を受けた。
ク 教育長は、同日午前10時10分ころ、芸術文化事業を所管する県民生活部長のC(井ノ本)氏とともに知事室に入った。すると、齋藤知事は、教育長から事情を聞くことなく、入室直後から、「聞いていない。どうして夏休みに休館するのか。発表が急すぎる。」等と述べて教育長を叱責した。
ケ 教育長は、「万博で美術館が活用されるので、これを踏まえても令和5年度は最低限のメンテナンスを行うことが必要です。」、「その費用は、令和4年度の補正予算において予算化されています。」、「年間の展示計画で7月23日までと9月9日からは特別展が予定されていますから、メンテナンスを行えるのはその間しかありません。」等と述べて事情を説明したが、齋藤知事は、「休館することは聞いていない。」と強弁するばかりで、納得を得ることはできなかった。教育長は、やむをえず、「すみません。」と謝罪の言葉を繰り返し述べた。
コ 齋藤知事は、そのほか、「美術館は何を考えているのか。」等と述べ、休館中は代替事業を行うべきであるとして、その内容を至急検討するよう指示した。
サ 美術館では、急遽、代替事業として、盆踊りの展示のほか、他の施設への出前事業、地域のイベント等を企画した。そして、7月31日、知事協議においてその了承を得た。
シ 齋藤知事は、本調査委員会のヒアリングに対し、チャットで発した文言については否定しなかったが、休館については、聞いていない、メンテナンス事業は前年の補正予算に組み込まれていたかもしれないが、予算の細目までは熟知できないし、覚えてもいない、休館を示したカレンダーをもらった覚えはないし、カレンダーに書いてあったとしても、そのような小さい記事で周知されたとはいえない、休館の発表は直前に過ぎるとの考えは変わらない旨を述べた。
(4) 令和5年度「SDGs未来都市」等の選定証授与式の広報をめぐる問題
ア 内閣府は、我が国の「SDGsモデル」の構築に向け、平成30年度から、SDGsの達成に向けた優れた取組みを提案する都市を「SDGs未来都市」に選定するとともに、特に先導的な取組みを「自治体SDGsモデル事業」に選定し、補助金による支援等を行ってきた。
イ 同事業によっては、令和4年度までに「SDGs未来都市」が154都市、「自治体SDGsモデル事業」が50事業選定されたが、令和5年度は、兵庫県がSDGs未来都市の1つに、その提唱する万博関連の事業(フィールドパビリオン事業)が自治体SDGsモデル事業の1つに選定された。その選定証の授与式は、令和5年5月22日(月曜日)に東京で行われることとなった。
ウ 齋藤知事は、同月19日(金曜日)の午後10時09分、D(原田)氏、F(守本)氏、E(有田)氏、C(井ノ本)氏及びB(小橋)氏にチャットを送り、「22日のSDGs未来都市等の認定について、メディアの東京現地の取材のあつまりがいまいちだと思います。特にNHKやサンがこない。」、「①選定都市代表スピーチを兵庫県知事がすること、②県内で、モデル事業選定は初、③ひょうごフィールドパビリオンの取り組みが高い評価を得ていることをきちんと記者配布資料で伝えているのか。」、「もし、できていないのであれば、明日追加対応を検討してください。それと、個別に記者に売り込みをすること。」、「努力や働きをせずに、漫然と内閣府リリースを転送しているだけであれば、絶対に許されません。」と発信した。
エ E(有田)氏は、同日午後10時28分、F(守本)氏は、午後10時53分、マスコミへの対応は行っていたが、至らなかった点がある、翌日再度対応する旨を返信した。チャットのやり取りは、その後も午後11時51分まで続いた。
オ F(守本)氏とE(有田)氏は、翌5月20日の土曜日、報道機関に対し、同月22日の選定証授与式の状況を現地で取材し、これを報道するよう申し入れた。しかし、マスコミから好意的な返事を得ることはできなかった。そこで、F(守本)氏は、同月20日(土曜日)の午後6時21分、齋藤知事にチャットを送り、「SDGs未来都市の取材について、個々にあたりましたが、難しい状況です。…なかなか上手くいかず、申し訳ございません。」と述べて謝罪した。E(有田)氏も、同日午後7時00分、齋藤知事にチャットを送り、「22日は、広報課でビデオを回す段取りをしております。」、「メディアに提供するように考えております。」、「いろいろと後手に回っており申し訳ありません。」と述べて謝罪した。
カ 齋藤知事はD(原田)氏、F(守本)氏、E(有田)氏、C(井ノ本)氏及びB(小橋)氏の間では、翌21日の日曜日も、他の件を交え、午後3時22分から午後11時06分まで10回にわたり、チャットのやり取りが行われた。
キ 齋藤知事は、同月22日(月曜日)の午後8時04分、D(原田)氏、F(守本)氏、E(有田)氏、C(井ノ本)氏及びB(小橋)氏にチャットを送り、兵庫県が内閣府SDGs未来都市に選定され、フィールドパビリオン事業が自治体モデル事業に選定されたことを再度告げた上、このことを万博協議会メンバーや県議会に周知しているか尋ねた。
また、午後8時27分、チャットで、同じメンバーに対して、「今日の内閣府ですが、結局、神戸新聞や時事は来ていなかったようです。」、「どこが取材に来たのか確認しておいてください。」、「結果的に、どこもきていないのは仕方がないですが、どうも、みなさんの報告が、とりあえず楽観的な報告をして、その場をしのいでいるだけ、に感じます。」と発信した。
ク E(有田)氏は、同日午後8時53分、齋藤知事にチャットを送り、時事通信が授与式の模様を報道したと報告した。
ケ 齋藤知事は、同日午後8時57分、「承知しました。」とした上で、「ただ、まあ、こんだけ知事が騒いでいるんだから、東京事務所や現場の随行課長あたりに、その場で知事に報告するくらいさせていただければよかったのでは、と思います。」と返信した。
E(有田)氏は、同日午後9時01分、「失礼いたしました。…中途半端になってしまい申し訳ございませんでした。」、「今後の取材対応について、十分留意させていただきます。」と返信し、謝罪と反省の言葉を述べた。
コ E(有田)氏は、同日午後9時16分、齋藤知事にチャットを送り、「確認したところ、サンテレビは9:22からのニュースで放映予定とのことです。神戸新聞も明日の記事にしてくれる方向で検討いただいているとのことでした。」と報告し、さらに、午後9時24分のチャットで、「続報については明日報告させていただきます。」とした。
サ F(守本)氏は、同日午後10時15分、齋藤知事に対し、午後8時04分に発信された齋藤知事からのお尋ねのチャットに対し、「県議会、市長には連絡済ですが、万博関係者にはまだ連絡できていません。」、「明日すぐに対応します。申し訳ございません。」と回答と謝罪の返事を送信した。
齋藤知事は、同日午後10時22分、上記に対し、「万博関係者に連絡できていないのはありえない。明日すぐに対応すること」とF(守本)氏を叱責するチャットを返信した。
F(守本)氏は、1分後の午後10時23分、「申し訳ありません。明朝一番に対応します。」として、再度謝罪した。
シ 齋藤知事と職員らとのチャットのやり取りは、その後も他の件について、午後11時13分まで続いた。
ス 齋藤知事は、上記の件について、チャットの記録に残っているやり取りがなされたことを否定していない。
(5) 報道がなされることの事前報告等について
齋藤知事は、報道について、事前に知事が知っておくことを重視し、知らない報道に接したときに、なぜ事前に報告がないのかと問題にすることがあった。また、定例会見におけるマスコミからの質問に関して、該当の部署から事前に適切なレクチャーがないことを問題にすることがあった。
以下、いくつかの事案を掲記する。
ア マイナンバーに関する案件
(ア)令和5年6月21日、齋藤知事は、定例の記者会見を行ったが、その際、マスコミから、マイナンバーカードのチェック体制に関する質問がなされた。
(イ)その問題については、事前にNHKから担当課が取材を受けていた。
(ウ)齋藤知事は、取材を受けたこととその内容を会見前に齋藤知事にレクチャーしなかったことを問題にし、同日午後8時05分、D(原田)氏、F(守本)氏、E(有田)氏、C(井ノ本)氏及びB(小橋)氏にチャットを送り、「場合によっては部次長も同席し、報告すべきものでした。」とした上、「部局間の情報共有・知事伝達を徹底すようお願いしていたところですが、肝心の総務部内でさえ、徹底できていないようでは、この先が思いやられます。」と述べて叱責した。
(エ)B(小橋)氏は、同日午後8時09分、「申し訳ございませんでした。まず部内体制を徹底いたします。」とし、続いて、同日午後9時33分、再度、「今後しっかりやっていきます。申し訳ございませんでした。」と返信して謝罪した。
イ 豊岡演劇祭の件
(ア)齋藤知事は、令和5年7月22日(土曜日)、豊岡演劇祭が同年9月14日から開催されるとの報道に接し、午後9時21分、D(原田)氏、F(守本)氏、E(有田)氏、C(井ノ本)氏及びB(小橋)氏に対し、「豊岡演劇祭ですが、9月14日から開催とあります。昨年、なにも予定いれず、直前までスルーしていたので、私は激怒していますので、ちゃんと留意しておいてください。」とチャットを送った。
(イ)E(有田)氏は、2分後の午後9時23分、「承知しました。日程調整に留意いたします。」と返信した。
(ウ)これに対し、齋藤知事は、同日午後9時39分、上記と同じメンバーにチャットを送り、「というか、豊岡演劇祭の日程が決まる前に、知事レクをなぜしないかですよね。」とした上、3分後、同じメンバーに再度メールを送り、「県民局に任せきりだからダメなんでは。知事が報道で日程きまったと知るなんてそもそもありえない。」、「但馬県民局、県民生活や観光が連携できていない。」、「月曜に、レクしてください。(多田?)但馬県民局長はWeb参加させること。局長にあらかじめ釘刺しといてください。『まったくわかっていない』と。」と強く叱責した。
(エ)これに対し、E(有田)氏は、7分後の午後9時46分、「申し訳ございません。関係者と調整いたします。」と返信して謝罪した。また、C(井ノ本)氏も、同日午後10時03分、「申し訳ございません。対応します。」と返信して謝罪した。
ウ 大阪府から兵庫県の私立高校に通う生徒の授業料無償化問題について
(ア)令和5年11月7日、大阪府から兵庫県内の私立高校に通う生徒の授業料無償化に関して、兵庫県内の高校関係者から大阪府に要望がなされたとの報道があった。
(イ)齋藤知事は、E(有田)氏とB(小橋)氏に対し、同日午後8時34分、チャットを送り、「報告がないのはなぜですか。報道でみましたが、本来、B(小橋)さんから事後であっても至急報告があってしかるべきではないですか。」と叱責した。そして、E(有田)氏とB(小橋)氏がすぐに対応できないでいると、7分後の午後8時41分、「今日は…、吉村知事はじめ各県知事と会う場面なのに、一報がないのはありえないですね。午前中に要望が報道されているのだから、午後一の昼食会には間に合ったはず。なぜ、秘書室も報道をチェックしていないのですか?」と追い打ちをかけた。
(ウ)B(小橋)氏は、同日午後9時16分、「申し訳ございません。申し入れ文書をお送りします。」と返信して謝罪した。
(エ)齋藤知事は、その後も、午後11時05分まで、B(小橋)氏とE(有田)氏に対し、チャットでメールを送り、上記について自身が考えるところを述べ続けた。
(オ)B(小橋)氏は、翌11月8日午前7時39分、「ご指摘の点整理いたします。本当に申し訳ございませんでした。」と返信して謝罪した。
3 机を叩いて叱責する等、職員に対する威圧的な言動について
(1) 机を叩いた行為について
ア 兵庫県は、かねてから大阪湾フェニックス計画に参加し、廃棄物を海中に埋め立てて処分する事業を行ってきた。
イ 齋藤知事が兵庫県知事に就任して約1か月を経過した令和3年9月7日、新聞に、尼崎西宮芦屋港湾計画として、尼崎沖のフェニックス用地に万博建材の運撤処点を設けるとの内容の記事が掲載された。
ウ 齋藤知事は、その記事を読み、自分の知らないこと、ないし自分が関与していないことが報道されていると立腹した。そして、秘書室を通じ、当該事業を所管する県土整備部の(杉浦)局長と課長を知事室に呼んだ。
エ 齋藤知事は、2名が入室すると、いきなり、「県として意思決定していないことを先に出すのはよくない。許せない。」等と述べ、机を叩いて2名を叱責した。ドンという机を叩く音は、隣の秘書課の部屋にまで届いた。
オ 報道された内容は、前任の井戸前知事の時代から協議され、パブリックコメントも経ている事案であったから、県として意思決定をしていない事実が報道されたものではない。(杉浦)局長らは、事情を説明したが、それ以上反論することはせず、知事室を退出した。
カ (杉浦)局長は、知事協議の場で机を叩いて叱責されたのは、入庁後初めての経験であった。その旨は、(服部)県土整備部長に報告された。
キ 就任間もない齋藤知事が自分の知らないことが報道に出たと立腹し、机を叩いて怒ったことは、事案発生後ほどなく、多数の県庁職員の知るところとなった。
ク 齋藤知事は、令和3年9月、知事協議の際、机を叩いて叱責したことを認め、就任直後の不安感の強い状態の中での行為であるが、適切な行為ではなかったとして、反省の意を表している。
(2) 付箋を投げた行為について
ア 齋藤知事は、県立大学無償化を同知事の重要政策と位置づけ、重視していた。
イ その政策を実現するためには、国会議員(自民党兵庫県連盟会長など)にも意義を理解し、協力してもらう必要があると思われた。
しかし、県連会長に既に話をしてあるか等をめぐっては、齋藤知事と片山元副知事の間に認識の齟齬があった。
エ 片山元副知事は、令和6年3月、齋藤知事に対し、国会議員への根回しがどうなっているかを尋ねた。しかし、齋藤知事は、既に(末松信介)県連会長には話をしてあると認識しており、片山元副知事はそのことを失念している、それを前提に対応することをしていないと立腹した。そして、机の上にあった付箋を1枚、齋藤知事の前にあったアクリル板に向けて投げた。付箋は、アクリル板に当たって齋藤知事側の手前に落ちた。
オ 片山元副知事は、齋藤知事に付箋を投げられたのは1回ではない、時期を特定することはできないが、それ以前にも、指示された業務の進捗状況を尋ねられときに、「できていません」と答えると、なぜなのか、言ったではないか等と叱責され、付箋を投げられたことがあると述べている。そして、このときの付箋は、1枚ではなく、もう少し厚みがあったとする。
カ この点について、齋藤知事は、県立大学無償化をめぐって議論となった際に付箋を投げたことは認めるが、もう一度については、記憶がないとする。その上で、付箋を投げた行為は、事情があったとしても適切ではなかったとし、片山元副知事が不快に感じたのであれば謝罪をしたいと述べている。
なお、本調査委員会は、片山元副知事の供述は具体的であり、状況とも合致しているし、齋藤知事の側近として齋藤知事の言動を擁護している立場の片山元副知事が、このような出来事について虚偽の供述をすることが齋藤知事を不利にする合理的理由がないこと、付箋を投げた側はささいなことと思って気にとめていなかったとしても、投げられた側は相手が知事という県のトップの立場であり、その意味で印象に残る出来事と受け止め、記憶に残っていたと考えるのが自然であることから、付箋を投げた行為は2回あったと認定する。
4 その他、齋藤知事の振る舞いとして問題となりうる言動
(1) 淡路スポーツチャレンジの件
ア 令和4年10月30日、オリンピックのメダリストら有名なアスリートを招いて子どもたちとの交流を図るイベントが淡路島の県立淡路佐野運動公園で行われた。
イ 齋藤知事もその行事に参加したが、準備に携わった職員は、スペースの関係上、齋藤知事が着替えをする個室を用意することができなかった。
ウ 事務スタッフは、齋藤知事が着替えをする部屋の前に職員を1名常駐させ、一般の来場者がその部屋に入らないよう体制を組んだ。
しかし、齋藤知事が着替えに入ろうとすると、その部屋には、どのような事情か定かではないが、一般の来場者が既に入室していた。
エ 事務スタッフは、このイベントの一部として、ご飯とみそ汁等を調理し、齋藤知事とアスリートに提供した。スタッフは、できれば温かい状態で提供したかったが、施設の関係上、最適の温度で出すことはできなかった。
オ 担当者は、その翌日、秘書広報室長であったC(井ノ本)氏から、「知事が怒っている。なぜ冷えた料理を出したのか。個室を用意しなかったのか。」と叱責された。
カ その後、多くの部課では、齋藤知事が庁舎外で仕事をすること等には、迎える側は必ず個室を用意するようになった。
(2) AIによるマッチングシステムの件
ア 兵庫県は、平成18年度から、結婚を希望する男女を応援するため、出会いサポートセンターを設立して出会い支援事業を展開していた。
イ 令和5年度には、新規事業としてAIによる男女のマッチングシステムを導入して事業を推進することとした。
ウ 担当者らは、令和5年4月12日の定例記者会見で齋藤知事から発表してもらうべく、同月11日に、知事協議を行った。その際、担当者らは、同事業は行政改革の目玉であり、予算化されていたので、齋藤知事には周知の事案である。また、齋藤知事側近の幹部からも十分な説明がなされているとの認識で協議に臨んだ。
エ しかし、齋藤知事は、担当者が説明を始める前に、内容を知らないのに会見で発表するのか判断はできないと一蹴した。担当者らは、「内容を説明します。」と述べたが、「なぜ今聞かないといけないのか。今聞いて判断できるわけがない。部長(C(井ノ本氏)を指す。)を呼んで来るように。」と述べて、中身の説明に入らせなかった。C(井ノ本)氏が不在であったので、この日は協議に入ることができなかった。
オ AIによるマッチングシステムは、その後5月に入り、知事協議が行われた。
カ 同事業は、令和5年5月10日、予定より約1か月遅れて運用が開始された。
キ 齋藤知事は、上記について、AIによるマッチングは、これをどのように行っていくかを協議すべきであったのに、いきなり、定例記者会見の項目に入れていたので、それをおかしいと指摘し、注意したものであると述べている。
(3) 介護テクノロジー導入・生産性支援センターの件
ア 兵庫県は、令和5年3月、介護現場の諸々の課題を解消するため、最先端の介護テクノロジーの導入をはじめとした総合的な支援を行い、介護労働者が安心して長く働くことができる環境づくりをサポートすることを目指して、神戸市内西区に支援センターを設立し、介護ロボットの導入支援事業等を行うことを計画した。
イ 同事業は、令和5年度予算に計上され、議会の承認を受けた。センターは、ひょうご介護テクノロジー導入・生産性支援センターと命名され、令和5年5月に事業を開始することが計画された。
ウ 担当者は、その発足に向け、令和5年5月11日、知事協議を行った。
エ しかし、齋藤知事は、中身に入ることなく、「こんな話聞いていない。」、「なんでこんな支援センターを勝手に作っているのか。」等と述べて担当者らを叱責した。
オ 担当者らは、既に予算化されている等として、資料を見せて説明しようとしたが、齋藤知事は、「こんな資料については知らない。資料に入っていたら知事が全部知っているとは思わないように。」と述べて、それ以上の協議を行わなかった。
カ 最終的に支援センターは、開設の運びに至ったが、事業が開始されたのは、当初の予定より約5か月遅い令和5年10月であった。
キ 齋藤知事は、上記について、支援センター事業については、事業そのものについてあまり記憶がない、令和5年5月にその件について知事協議を行った記憶はないとした上で、少なくとも、「なんで支援センターを勝手に作っているのか」と発言したことはないと述べている。
しかし、担当者らが資料を準備して協議に臨んだことは、関係者の供述から明らかである。「なんで支援センターを勝手に作っているのか」との言葉は、一生懸命準備をした担当者らにとって衝撃的な言葉であり、印象深いものであったと考えられる。齋藤知事がこの発言をしたことは、関係者が一致して供述するところであり、実際、支援センターの開設は当初の予定より5か月遅れたのであるから、以上を勘案し、本調査委員会は、上記の言葉が齋藤知事から発せられたのは事実であると認定する。
(4) はばたんペイの件
ア はばたんペイは、兵庫県が住民の家計を応援するために創出した、県内の参加店舗で利用可能なプレミアム付きデジタル券である。その第1回目の申込は、令和5年8月1日から開始されることとなっていた。
イ この件を司る担当職員とE(有田)氏(当時の役職は広報室長)らは、同年7月下旬、齋藤知事と協議を行うため、知事室に赴いた。
ウ すると、齋藤知事は、キャンペーン用のうちわを見ながら舌打ちをし、大きなため息をついた。担当課長らは、何が起こったのか、何が問題であるのか理解できず、齋藤知事の次の言葉を待った。
エ その後、齋藤知事が問題にしたのは、はばたんペイは齋藤知事の肝煎事業であるのに、うちわに知事のメッセージがなく、齋藤知事の顔写真がないことであると判明した。
オ 担当課長は、うちわの差替えを検討したが、かなわず、従前のものに加え、齋藤知事のメッセージと顔写真を入れた新しいうちわを追加発注した。
カ この知事後の模様は、庁内の多くの部署に広まった。そして、事業のポスター等を作成するときには、担当課は、齋藤知事の名前や写真を入れるよう気遣うようになった。
キ 齋藤知事は、この点につき、はばたんペイについての知事協議の際、写真やメッセージの有無が問題になったこと自体は認めている。
(5) 知事であることを強調する発言の有無
ア その他、職員に対する言動としては、ホットラインに、令和3年度、職員が齋藤知事から、資料の誤りを口頭で修正して説明した際、「誤りのある資料を知事に見せるとはどういうことか。」、「誰やと思っているんや。オレは知事やぞ。」、「知事は忙しい中時間を取っているんや。ちゃんとしろ。」等と強い口調で叱責した、その出来事は、広く職員の知るところとなったとの情報提供が寄せられた。
イ 上記のやり取りがなされた詳しい日時は明らかでない。
しかし、本調査委員会のヒアリングに応じた職員のうちには、自身の経験したエピソードとして、齋藤知事から自身が知事であることをことさらに明言、強調する発言とともに注意ないし叱責されたと供述する者が複数いる。
ウ 加えて、齋藤知事は、県庁の職員相手ではないが、県の関連施設において、自らが知事であることを示す発言をしたことは認めている。齋藤知事は、「オレは知事やぞ」ないしそれに類する言葉を用いて職員を注意ないし叱責したことはないとするが、本調査委員会は、複数の関係者の供述と上記の職員外への発言を総合し、上記のような自分が知事であることを特に強調する発言は職員相手でも複数の場面であったと認定する。
5 チャット問題
(1) チャット制度の導入
ア 齋藤知事就任後に発足した新県政推進室は、令和5年3月31日、その役割を終えたとして、廃止された。
イ 兵庫県では、その後、齋藤知事からは、自らの思いや考えたこと、気づいたことを伝え、職員の側からは、報告をし、あるいは齋藤知事の求めに応答する手段として、マイクロソフトのチームズを利用することとし、事象ごとにメンバーを決め、チャットで情報のやり取りをすることとした。
(2) 夜間、休日に行われたチャットのやり取り
ア チャットは、令和5年4月4日から利用が開始されたが、同年12月末日までの間に、平日の午後8時以降に齋藤知事が関与して行われたチャットのやり取りは38回を数える。その内には、日付が変わる翌日までやり取りされたものもあり、一番遅い終了時刻は午前3時40分である。また、夜のうちに返事ができなかった場合には、午前5時台を含め、翌日早朝に返信がなされている。
イ この間、土日祝日にチャットがやり取りされたのは16回である。その内の7回は、午後8時以降に行われたものである。
ウ チャットは、上記のほかにも、台風や災害、豚熱などが発生したときには、夜間、休日を問わず、交信された。そのやり取りは、夜間、休日であっても連絡が必要と解されるので、上記の回数に含めていない。アとイの回数は、緊急の必要性に疑問があるもののみである。
エ 令和6年1月1日、能登半島地震が発生した。兵庫県も日本海地域を抱えているので、地震発生当初は防災体制が組まれた。また、その後も、能登への応援、支援体制がとられた。そのため、令和6年1月1日以降は、ほぼすべての休日に、チャットでの情報提供と指示が行われている。
(3) やり取りされたチャットの内容と齋藤知事からの返信のスピード
ア やり取りされたチャットの文言のいくつかは、上記2「広報関係をめぐる事象について」の項においてこれを引用した。
イ 上記の該当箇所に記載したとおり、齋藤知事からのチャットは、その多くが指示又は叱責、ないしは注意・指導である。職員からは、指示に従ってすぐに行動する旨の返信と謝罪を内容とするものが多い。
ウ 職員は、おおむね、チャットが届いて数分後には齋藤知事に返信をしている。これは、チャットが始まった直後の令和5年4月12日に、齋藤知事から、「私からお願いした案件に関する作業については、とにかくスピード感を重視すること、こまめに相談することに留意を」と発せられたことと齋藤知事の普段の職務に対する姿勢を見ての対応であると解される。
6 齋藤知事の気に入らない者に対して左遷人事がなされたとの件について
兵庫県から提出を受けた資料と関係者の供述によれば、齋藤知事の就任直後に一定数の人事異動が行われたことが認められる。
また、知事協議がスムーズに進まなかった職員について、その数か月後に人事異動が行われたケースも見られる。
しかし、課長級以上になると、当該人物の専門性や技量、客観的な仕事の必要性に応じ、あるいは、部局内での人間関係などに鑑み、着任後1年ないしそれより短い期間で部署が異動になることも見られないことではない。
本調査委員会は、齋藤知事就任後に行われた具体的な人事について、これが行われたすべての背景事情を知りうるものではない。
したがって、その人事が本件文書の指摘するような左遷的なものであったか否かについては、本調査によってこれを認定することはできない。
7 ココロンカードをめぐる問題
(1) ココロンカード
兵庫県では、青少年の学校外活動の促進を図るため、小・中学生を対象に協力施設(県立施設及び市町私立施設)を無料で利用できるカードとして「ひょうごっ子ココロンカード」(以下「ココロンカード」という。)を作成している。
ココロンカードは、兵庫県内に住所がある、又は兵庫県内の学校に在学する小・中学生とこれに準ずる学校の児童・生徒を対象者とする。
ココロンカードは、兵庫県内の学校に通学する小・中学生には、小学校入学の新1年生時に学校を通じて配布され、同じカードを9年間使用する運用となっている。
(2) きっかけ
齋藤知事は、自分の家族が持っていたココロンカードの裏面に記載された兵庫県知事の名前が齋藤元彦ではなく、「井戸敏三」であることに気が付いた(添付資料9の①)。
そして、令和5年秋頃、複数の職員がいる中、ココロンカードに井戸前知事の名前が入ったままになっていることを問題視する発言をし、職員を通じて(藤原俊平)教育長にもそのことが伝えられた。
(3) 職員からの説明
職員からは、齋藤知事に対して、ココロンカードの仕組みとして、小学1年生に配布され、その後中学卒業まで同じカードを使用し続けるものであるところ、齋藤知事の家族には他府県から転入してきた際、令和3年度発行のものが交付されたと思われるが、齋藤知事就任後の令和4年4月に小学1年生となる新入生には井戸前知事の名前が入っていないココロンカード(添付資料9の②)が、令和5年4月の新小学1年生には齋藤知事の名前の入ったカード(添付資料9の③)が配布されていると説明された。
(4) 齋藤知事の要望、意向
しかし、齋藤知事は、令和3年4月以前に小学1年生を迎えた生徒が持つカードには、自分の名前が入っておらず、井戸前知事の名前が入ったココロンカードが配布されたままの状況となっていることを問題視し、今後の新小学1年生のものだけでなく、小・中学生の持つ既発行のココロンカード全てについて、裏面に齋藤知事の名前が入ったものを配布し直すことを求めた。
これをチャットのやりとりでみると、(藤原俊平)教育長は、令和5年11月28日、齋藤知事からの口頭で指示があったことを受け、知事に対し、「以前ご指示のあった『ココロンカード』の改訂について、E(有田)広報プロデューサー制作による新デザイン(案)を作成しました。・・・・なお、予算については今年度2月補正対応ということで財政課と相談しています。(主な改定内容【報告資料】)1.齋藤知事名の入ったココロンカードを来年4月に県内の全小中学校の児童生徒に配布。2.カードの素材をストーンペーパーとすることでSDGsに配慮。カード入れに入るサイズに変更。3.新デザインは爽やかな草原の緑をモチーフ。裏面に齋藤知事名を記載」と伝えた。そして、同日中には、E(有田広報室長)(当時)が、(藤原)教育長に対し、齋藤知事に確認して了承を受けた、裏面のデザインの若干の加筆意見が齋藤知事から出たと返信している。
そもそも、令和5年度分のココロンカード(添付資料9の③)は既に齋藤知事の名前も入っており、令和4年度発行分にも井戸前知事の名前は入っていなかった(添付資料9の②)のであるから、齋藤知事が新小学1年生分で随時の差替えでよいと考えていたのであれば、事業内容を変更する必要も、指摘する必要性もなかった。
そのため、齋藤知事が、ココロンカードの裏面の知事名の修正について、新小学1年生から随時差し替えるように指示したのではなく、既発行分も含めて小学生1年から中学3年生まで全学年の差替えを求めていたことは明らかといえる。
(5) 齋藤知事の名前入りのココロンカードの配布と一斉差替え
しかし、令和6年度のココロンカードに関する予算案増額を申請する兵庫県の書面上は、齋藤知事の上記意向や経緯は明記されず、より耐久性があり、SDGsの観点を取り入れた素材を採用するためといった、全てを差し替えるための公式用の形式的で表面的な理由のみが記載され、前述の齋藤知事の意向に沿った主眼となる発行理由は審査の対象とならず、事業実施が進められた。
そして、令和6年度、デザインを変更したココロンカード(添付資料9の④)が発行され、当該年度だけ、新小学1年生だけでなく、兵庫県内の小学2年生から中学3年生まで全員に対し、齋藤知事の名前が入った新デザインのココロンカードが配布された。
(6) 大幅な支出の増大
本調査委員会は、この問題を検討するため、ココロンカード発行事業に関し、令和3年度から令和6年度までの各年度の費用、明細を兵庫県に問い合わせたところ、以下の表のとおり、例年に比較し、令和6年度は約140万円の費用が多額に支出されていることが判明した。
令和 3年度 | 令和 4年度 | 令和 5年度 | 令和 6年度 | |
---|---|---|---|---|
費用(円) | 217,553 | 200,521 | 213,702 | 1,635,150 |
カード発行枚数 | 62,300 | 59,700 | 59,700 | 430,000 |
ポスター発行枚数 | 1,320 | 1,310 | 1,300 | 1,500 |
(7) 齋藤知事の供述、意見
齋藤知事は、本件百条委員会では、ココロンカード発行事業に関し、
「ココロンカードは、たしか井戸さんの名前でつくられたやつが使われていたので、そこは随時、差し替えをしていくべきなんじゃないかという指摘はしました」、(「令和6年デザイン変更で一斉に替えられたんではないですか」という質問に対し、)「ちょっとそこは覚えてないですけど、たしか教育委員会のほうに、このままの名前では、やっぱり私が知事になった後なので、ちゃんと替えるときに差し替えていったらいいんじゃないですかということを指摘しました」
と証言している。
また、本調査委員会のヒアリングにおいては、齋藤知事が指示した内容等に関し、
「ココロンカードの名前の裏が井戸知事のままになっているというふうに認識して、これはやっぱり今の知事は齋藤元彦なんだから、適切に差替えで名前を変えるということを対応したほうがいいんじゃないかということを指摘した。(中学3年生まで)全部か、対象範囲は私は指導はしていない。予算の範囲でできることを対応してもらっただけ。」、「問題はない。」、「裁量の範囲内である。」、「余分な経費であるとはまったく考えていない。」
と供述している。
しかし、既述したチャットという客観的証拠に加え、令和5年度に既に齋藤知事名が記載されたココロンカードが発行されており、随時差替えであれば齋藤知事が改めて差替えを指示する必要がなかったことからすると、齋藤知事が新小学1年生分についてのみの随時の差替えでなく、中学3年生まで全学年分の一斉差替えを求めていたことは明らかであるし、複数職員の証言および同チャットの内容に沿うものであった。
そのため、前述のとおり、齋藤知事が、ココロンカードの随時差替えではなく、既発行分を含めた全学年分の一斉差替えを求めていた事実は明らかである。齋藤知事の上記証言や供述は事実と認めることはできない。
(8) 小括
以上のとおり、齋藤知事は、教育長に対し、ココロンカード発行事業に関し、既発行分も含めて小学1年生から中学3年生まで全学年分の差替えを求めた結果、令和6年度は、例年に比し約140万円高額の費用をかけてココロンカードの差替えが行われた。
第3章 評価
1 基本的な考え方
- (1) ハラスメントは、個人としての尊厳や人格を不当に傷つける行為である。被害者は、持てる能力を発揮して自己を実現することが困難となるし、深刻な場合には、心身に影響を受け、生命の危険につながることもある。
- (2) 事業者側(本件では兵庫県側)から見ても、職員が能力を発揮できないことは、公務能率の低下を招く。場合によっては、人材の流失にもつながる。
- (3) ハラスメントは、直接被害を受けた本人にのみ影響を及ぼすものではない。ハラスメントがあると、職場の雰囲気は悪化する。周囲の者の意欲や士気の低下を招くこともある。事業者の社会的評価に悪影響を与える可能性もある。
- (4) 以上、ハラスメントは、被害者の個人の尊厳を侵害し、周囲の者を含めてその就業環境を悪化させ、公務能率の低下を招くとともに、その結果として、県政を停滞させ、事業の発展を阻害するものである。事業者(兵庫県)は、極力その防止に努め、適切な措置を講じなければならない。
2 関係法律と厚労省指針、人事院規則、兵庫県ハラスメント防止指針
(1) 労働施策総合推進法
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「労働施策総合推進法」という。)は、令和元年に改正され、パワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)に関する規定が設けられた。その第9章は、パワハラを、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものというと定義づけた。
そして、事業主に対し、パワハラの発生の防止と解決のために、雇用管理上適切な措置を講じるべきことを定めた。(同法30条の2第1項)
(2) 厚生労働省指針
厚生労働省は、労働施策総合推進法の改正を受け、令和2年6月、パワハラに関して事業主が雇用管理上講ずべき措置等について、指針(令和2年度厚生労働省告示第5号。以下「厚労省指針」という。)を公表し、事業者にパワハラの防止と発生した場合の適切な解決に尽力を求めた。
(3) 人事院規則
人事院は、労働施策総合推進法の改正を受け、人事院規則10-16(令和2年4月1日職職-142。以下「人事院規則」という。)を策定し、国家公務員職場におけるパワハラを、「①職務に関する優越的関係を背景として行われる、②業務上必要かつ相当な範囲を超える言動であって、③職員に精神的苦痛若しくは身体的な苦痛を与え、職員の人格若しくは尊厳を害し、又は職員の勤務環境を害することとなるようなものをいうと定義づけた(同規則第2条)。
そして、各省各庁の長は、職員がその能率を十分に発揮できるような勤務環境を確保するため、パワハラの防止に関し、必要な措置を講ずるとともに、パワハラが行われた場合においては、必要な措置を迅速かつ適切に講じなければならないとされた(同規則第4条第1項)。
また、人事院は、同規則に基づき、パワハラを防止し、パワハラに関する問題を解決するために職員が認識すべき事項について、指針を定めることとした(同規則第9条1項)。これに基づき、人事院事務総長は、厚労省指針に上乗せする内容の「(パワーハラスメントの防止等)の運用について」と題する指針を策定し、各省庁に通知した(令和2年4月1日職職―141。添付資料10。以下「人事院指針」という。)。
(4) 兵庫県ハラスメント防止指針
兵庫県は、労働施策総合推進法と厚労省指針を受け、人事院指針を参考に、「兵庫県ハラスメント防止指針」(添付資料11。以下「兵庫県指針」という。)を策定し、パワハラを含めて、ハラスメント全般の防止、排除を目指すとともに、ハラスメントが生じた場合に適切に対応するための措置を講じた。
兵庫県指針の内容は、下記のとおりであるが、令和6年3月当時、苦情相談手続として、相談先は所属長、人事管理員、職員相談員、人事課とされ、調査実施も人事課が予定されており、外部の相談窓口は設置されていなかった。
以下、兵庫県指針の概要を掲記する。
ア パワハラの定義
パワハラとは、職務に関する優越的な関係を背景として行われる、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動であって、職員に精神的若しくは身体的な苦痛を与え、職員の人格若しくは尊厳を害し、又は職員の勤務環境を害することとなるようなものをいう。
イ 基本的な心構え
職員は、パワハラを生じさせないために、次の事項について十分認識しなければならない。
- (ア)パワハラは、職員に精神的若しくは身体的な苦痛を与え、職員の人格若しくは尊厳を害し、又は職員の勤務環境を害するものであることを理解し、互いの人格を尊重し、パワハラを行ってはならない。
- (イ)業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示、指導、調整等はパワハラに該当しない。一方、業務指示等の内容が適切であっても、その手段や態度等が適切でないものは、パワハラになり得る。
- (ウ)部下の指導・育成は、上司の役割である。指導に当たっては、相手の性格や能力を充分見極めた上で行うことが求められるとともに、言動の受け止め方は世代や個人によって異なる可能性があることに留意する必要がある。
- (エ)自らの仕事への取組や日頃の振る舞いを顧みながら、他の職員と能動的にコミュニケーションをとることが求められる。
- (オ)同一所属の職員間におけるパワハラにだけ留意するのでは不十分である。例えば、職員がその職務に従事する際に接することとなる他所属の職員との関係にも十分留意しなければならない。
- (カ)職員以外の者に対しても、パワハラに類する言動を行ってはならない。
ウ パワハラになり得る言動(例示)
パワハラになり得る言動として、例えば、次のようなものがある。
- (ア)暴力・傷害
- ① 書類で頭を叩く。
- ② 部下を殴ったり、蹴ったりする。
- ③ 相手に物を投げつける。
- (イ)暴言・名誉棄損・侮辱
- ① 人格を否定するような罵詈雑言を浴びせる。
- ② 他の職員の前で無能なやつだと言ったり、土下座をさせたりする。
- ③ 相手を罵倒・侮辱するような内容の電子メール等を複数の職員宛てに送信する。
(注)「性的指向又は性自認に関する偏見に基づく言動」は、セクシュアル・ハラスメントに該当するが、職務に関する優越的な関係を背景として行われるこうした言動は、パワハラにも該当する。
- (ウ)執拗な非難
- ① 改善点を具体的に指示することなく、何日間にもわたって繰り返し文書の書き直しを命じる。
- ② 長時間厳しく叱責し続ける。
- (エ)威圧的な行為
- ① 部下達の前で、書類を何度も激しく机に叩き付ける。
- ② 自分の意に沿った発言をするまで怒鳴り続けたり、自分のミスを有無を言わさず部下に責任転嫁したりする。
- (オ)実現不可能・無駄な業務の強要
- ① これまで分担して行ってきた大量の業務を未経験の部下に全部押しつけ、期限内に全て処理するよう厳命する。
- ② 緊急性がないにもかかわらず、毎週のように土曜日や日曜日に出勤することを命じる。
- ③ 部下に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる。
- (カ)仕事を与えない・隔離・仲間外し・無視
- ① 気に入らない部下に仕事をさせない。
- ② 気に入らない部下を無視し、会議にも参加させない。
- ③ 課員全員に送付する業務連絡のメールを特定の職員にだけ送付しない。
- ④ 意に沿わない職員を他の職員から隔離する。
- (キ)個の侵害
- ① 個人に委ねられるべき私生活に関する事情について、仕事上の不利益を示唆して干渉する。
- ② 他人に知られたくない職員本人や家族の個人情報を言いふらす。
(注)(ア)から(キ)までの言動に該当しなくともパワハラとなる場合がある。
3 評価の対象とその基準
(1) 兵庫県は、事業主であるから、労働施策総合推進法の適用を受ける。したがってパワハラに関しては、その発生の防止と適切な解決のために、厚労省指針に準拠して、雇用管理上適切な措置を講じるべき義務がある。
(2) しかし、兵庫県は、官公庁であり、公務職場に特有の問題がある。また、地域のリーダーとして、パワハラの分野においても、一般企業や諸団体に範を示すべき立場にある。
(3) そこで、齋藤知事の言動をパワハラの観点から評価するにあたっては、人事院規則と人事院指針及び兵庫県指針を参考に、その基準に従って判断をすることとした。
(4) なお、人事院規則と人事院指針並びに兵庫県指針は、職員間でのパワハラを念頭に置いており、前者においては各省庁の長、後者においては首長たる兵庫県知事がパワハラの主体となる場合を想定していない。
しかし、知事は、組織のトップであり、任命権者として絶大な権力を持つ。また、その言動は、公選された政治家として民意を背景としているので、強い重みを持つ。
そこで、本調査委員会は、齋藤知事の言動は、知事協議の場や外出先での一過性の出会いの場におけるものであっても、パワハラを構成する場合がある。むしろ、知事が職員よりも圧倒的に強い立場にあること、知事の意用する中心メンバーを除き関係性が構築されておらず、知事と協議やコミュニケーションをとる機会が数少ない状況にある一般職員にとっては、齋藤知事の言動、注意、叱責が非常に重い言葉、精神的負荷を与えると解されるから、その関係性も考慮してパワハラ該当性の評価を行うこととした。
(5) なお、人事院指針及び兵庫県指針が述べるとおり、ある程度厳しい言動であったとしても、業務上必要性があり、かつ、相当な範囲内の行為であれば、パワハラを構成することはない。
以下、第2で認定した各行為について、これがパワハラに当たるか、当たらないとしても、適切な言動であったか、就業環境(勤務環境)を害することはなかったかを検討する。
4 個々の行為がハラスメントに当たるかについて
(1) 考古博物館の件
ア 指導の必要性があったかについて
(ア)齋藤知事は、考古博物館に到着した際、なぜ車止めが設置されているか、X(野北)氏らが車止めの設置場所ではなく、博物館の入り口で待機していた理由は何か、事情を聞くことなく、会議開始直前に、その進行を司る者に対し、大きな声で、かつ、強い語勢で、ロジが不適切であると叱責した。
(イ)しかし、車止めが設置されていたのは、埋蔵物を保護するため、車両の通行を禁止する必要があったからで、客観的かつ合理的な理由があった。職員用駐車場をお迎え場所とし、そこから博物館入り口に案内しようとした計画は、ロジとして適正である。
X(野北)氏らが博物館の入り口で待機したのは、偶々、本来のお迎え場所である職員用駐車場に齋藤知事の公用車と同じアルファードが駐車していたからで、やはり合理的な理由があった。
したがって、この件に関して齋藤知事がX(野北)氏らに指導を行う必要性はそもそも存在しない。
(ウ)齋藤知事は、歩行者用通路が歩車道通行禁止であるとは知らされていなかったから、その認識のもとでは、ロジが不適切であると考えた判断は誤っていない、注意・指導は、その判断に基づいて行ったものであるから必要性があると述べる。
(エ)しかし、注意・指導が必要なのは、事情を聞いて初めて判断しうるものである。しかるに、齋藤知事は、公用車が車止めの前で止まると、事情を聞くことなく、X(野北)氏らを叱責した。知事が誤った認識に陥ったのは、事情を聞かずに叱責を始めたためである。叱責する前に事情を聞きさえすれば、前提事実にいて認識を誤ることはなかったのであるから、知事の当時の認識に関わりなく、本件については、叱責する、あるいは注意・指導を行うべき客観的な必要はない。齋藤知事の主張は失当である。
イ 相当性の有無
齋藤知事がX(野北)氏らを叱責したのは、首長や議会関係者や東播磨地域の諸問題について意見交換する重要な会議の始まる2、3分前である。X(野北)氏は、会議全体を司る立場にあり、会議には心を落ち着け、集中して臨む必要があった。その状況を考えれば、会議直前に、大声で、かつ、強い口調で叱責することは、たとえそれが指導の目的であり、本人の認識としては注意をしただけであったとしても、相当性を欠く。
ウ X(野北)氏の認識
X(野北)氏は、本件百条委員会において、これまでそのような強い叱責を受けたことはない、部下に対してそのように叱責したこともないとした上で、齋藤知事の言動が社会通念上業務上に必要な範囲内の指導であるとは思わないと述べている。
一方で、X(野北)氏は、自分自身としては、パワハラとは思っていないという供述も行っている。
しかし、客観的にみれば、齋藤知事とX(野北)氏では齋藤知事の立場が圧倒的に強い。両者はそれまでやりとりする機会がほとんどなく、関係性の構築されていない中での出来事であるから、本件百条委員会での証言と本調査委員会における供述のとおり、X(野北)氏が齋藤知事の言動に動揺し、精神的に不安や衝撃を受け、業務効率が生じたことは明らかである。業務上必要な指導ではなかったこと、後述するように他の職員の勤務環境を害した面もあることから、X(野北)氏が、主観としては、自身にはパワハラに耐性があり、我慢できるものと感じてその旨供述しているとしても、その供述により齋藤知事の当該言動についてのパワハラ認定が否定されるものではない。
エ 本事象が他の職員に与えた影響
この出来事は、幹部職員のみならず、一般職員にも広く伝わった。そして、齋藤知事が庁舎外で行動する際には、不必要な怒りを買わないよう、ロジに気を付けなければならないと職員を委縮させた。なお、相当数の職員は、本来の職務以外にロジに多大な労力を割かねばならないと感じ、仕事への意欲が低下したと述べている。
オ 判断
本調査委員会は、以上を総合勘案し、考古博物館における叱責は、そもそも指導の必要性がない上に、相当性を欠く方法で行われたものであり、齋藤知事の言動は、直接の対象であるX(野北)氏の精神面に悪影響を与えたばかりでなく、その事実を広く聞いた職員を委縮させるものであって、X(野北)氏及び他の職員の勤務環境を悪化させたものであるから、パワハラに当たると判断する。
(2) アワイチ報道とその後の淡路県民局長への対応について
ア 齋藤知事は、アワイチのモニュメント除幕式について、当時の淡路県民局長を直接に叱責したものではない。他の職員を通じてその旨を伝えさせたという資料も存していない。局長に対して冷淡であったとか、協議の場で不機嫌な態度で臨むというのは、周囲の者や会議に同席した者の感想であるが、局長本人はそのうした意識は有していなかった。
イ その意味で、本調査委員会は、淡路県民局長への対応そのものをパワハラと認定することはしない。
ウ しかし、この件をきっかけとして、自分の知らない出来事が報道されると齋藤知事の怒りの対象になるという噂は庁内の一定範囲に広まった。その噂は、知事の了解なしに報道に出るべきでないとの雰囲気を醸成する一助となったことは事実である。
エ 組織が活性化するためには、職員の積極的な行動が求められる。トップである齋藤知事は、できるだけ寛大な態度で職員の行動を受け止め、積極性を阻害せず、むしろ後押しするべき立場にある。本件は齋藤知事の言動が職員の積極性を阻害する方向に働いた点で残念な出来事である。
(3) 空飛ぶクルマをめぐる諸問題
ア 齋藤知事は、空飛ぶクルマは企画部が主導して事業を進めたと述べる。しかし、関係する複数の職員の供述によれば、令和4年度当時、これは産業労働部所管の事業であったことは明らかである。しかるに、産業労働部の(竹村)部長や担当課長は、令和4年12月ころ、知事協議に入れず、事業の内容や進捗状況の説明は、企画部のF(守本)氏と服部副知事が行った。産業労働部では、事業について、齋藤知事にどこまで話が通じているか、齋藤知事が了解しているかは、F(守本)氏らを通じて知るしかなく、齋藤知事との間で十分なコミュニケーションを取ることができなかった。これが本件の大きな背景である。
イ 産業労働部は、F(守本)氏経由で齋藤知事は1月24日に連携協定の締結を行うことで了承していると聞いていた。そこで、その約1週間前に知事協議を行うことを申し入れ、秘書課は、その必要を認めて、同月16日に知事協議を行う日程を組んだ。
ウ 読売新聞は、1月16日、空飛ぶクルマの件を報道したが、これは、産業労働部の要請で行われたものではない。読売新聞は、独自の判断で報道を行ったにすぎない。
エ しかるに、齋藤知事は、協議に入るや否や、担当職員に対し、事情や説明を聞くことなく、この記載は何なのかと問い詰め、「空クルは知事直轄」、「勝手にやるな」等と厳しい口調で叱責した。そして、24日の締結式の段取りの説明をさせずに、短時間で協議を終了させた。
オ 知事協議は、秘書課の調整により2日後に再度実施されているから、協議を行う必要のあったことは明らかである。実際、齋藤知事は、その2日後の協議では担当職員の説明を聞き、24日の締結式の段取り等を了承した。
カ 以上からすれば、16日の知事協議でのやり取りは、齋藤知事が怒りに任せて職員を論難したものと言わざるを得ない。感情的に怒りをぶつけることは指導ではない。相手がいかんでは無用の反発を招き、その後の事業の進捗にも影響を与えかねない。本調査委員会は、1月16日の産業労働部の職員に対する齋藤知事の言動は、職員が齋藤知事を無視して勝手に事業を進めようとした事実は認められないことから、そもそも叱責、指導する業務上の必要性はなかったのに行われた叱責であり、理不尽と言うべきものであって、パワハラに当たると判断する。
(4) 県立美術館の休館をめぐる件について
ア 県立美術館は、令和7年度開催の万博においてフィールドパビリオンとして利用される予定であったから、令和5年度に最低限のメンテナンスを行う必要があった。上記は、予算として承認され、休館期間が令和5年7月24日から同年9月8日であることは、美術館のホームページやリーフレットにも記されていた。リーフレットは、同年4月下旬に齋藤知事と兵庫県の幹部に届けられてもいた。
イ しかるに、齋藤知事は、美術館が同年7月20日に上記の期間休館することをプレスリリースしたところ、新聞の電子版でその事実を知り、深夜であるにもかかわらず、同月21日午前0時46分、E氏らにチャットを送り、県立美術館が今月から長期休暇することは聞いていない、知事が報道で初めて知るのはおかしいとして、翌朝一番に(藤原俊平)教育長と(井ノ本)県民生活部長を知事執務室に呼ぶように指示した。そして、1分後の0時47分には、「こんなことで県立美術館への予算措置はできません。」とした。
ウ 齋藤知事は、翌7月21日の知事協議において、(藤原)教育長に対し、休館の理由やその時期に休館することになった事情を聞くことなく、いきなり、「聞いていない。どうして夏休みに休館するのか。発表が急すぎる。」等と述べて(藤原)教育長を叱責した。
(藤原)教育長は、休館が必要な理由と工事が夏休み期間となった理由、予算として計上され、議論済みであることなどを説明しようとしたが、齋藤知事は、「聞いていない」の一点張りで、聞く耳を持たなかった。そのため、(藤原)教育長は、「申し訳ございません」と謝罪してその場を逃れることしかできなかった。
エ 県立美術館は、教育委員会の所管である。教育委員会は県から独立した行政委員会であるから、齋藤知事には美術館の休館について指導する権限はない。休館日について、あるいは、休館日のプレスリリースの時期について(藤原)教育長に指示するのは越権行為である。
オ その点を踏まえても、県立美術館の休館は合理的な理由に基づく。その期間が夏休みと重なったことには、他の展示等の関係でやむを得ない事情があった。したがって、美術館が休館期間を夏休みに設定したことと、リーフレットその他で周知の上、直前の7月20日に報道機関に告知したことは、何ら不適切なものではない。そこに指導の必要性は認められない。
カ 齋藤知事は、同月21日、事情を聞くことなく、最初から(藤原)教育長を叱責し、(藤原)教育長が事情を説明しようとしても、その説明を聞こうとしなかった。また、直接ではないが、チャット上で他の職員にも知らしめる形で「こんなことでは県立美術館への予算措置はできません。」と述べて、怒りの程度が強いことを表現し、圧力をかけた。その言動は、極めて不適切である。
キ 本調査委員会は、上記を総合勘案し、(藤原)教育長に対する齋藤知事の言動は、パワハラに当たると判断する。
ク なお、齋藤知事は、本件について、深夜、E(有田)氏らに対してチャットを送り、業務を指示するとともに、ネット記事などへの注意が足りない等と述べて叱責した。本調査委員会は、その行為は、E(有田)氏らとの関係でパワハラに当たると思料するが、この点については、チャットの項で述べる。
(5) 「SDGs未来都市」等の選定証授与式の広報をめぐる問題について
ア 兵庫県は、令和5年度、SDGs未来都市の1つに選定され、万博関連の事業がSDGsモデル事業の1つに選定された。
イ その選定証の授与式は、令和5年5月22日(月曜日)、東京で行われたが、NHKやサンテレビ、神戸新聞や時事通信などは、現地取材を行わなかった。
ウ 齋藤知事は、同月19日(金曜日)の夜10時09分、E(有田)氏やF(守本)氏らにチャットを送り、個別に売込みをする等して報道各社が現地取材に来るよう交渉することを求めた。E(有田)氏やF(守本)氏は、指示を受け、翌20日、土曜日にもかかわらず、報道各社に当たったが、よい返事を得ることができなかった。E(有田)氏は、仕方なく、授与式の模様は広報課の職員が東京に出張してビデオに収録し、報道各社等に持ち込むことにした。そして、職員に連絡してその段取りを組んだ。
エ マスコミは、それぞれの社においてニュースバリューの有無とその重要度を判断し、報道するか否かを決める。報道する時期も、他のニュースの状況を見ながら、独自に判断する。
オ しかし、齋藤知事は、SDGs未来都市とモデル事業の選定証授与式について、現地に取材に来てその状況を報道するようマスコミ各社と交渉することを、深夜、休日にもかかわらず、強く求めた。これは、マスコミ側の考えるニュースとしての価値、評価の問題を考慮せず、執拗に成果を求めるものであって、実現困難な業務についてする過剰な要求である。したがって、本調査委員会は、本事案を、パワハラに当たると判断する。
カ なお、齋藤知事は、深夜から土曜日にかけて、E(有田)氏らに対してチャットを送り、業務を指示するとともに、売込みの努力が足りない等と叱責した。本調査委員会は、その行為は、職員の日常生活の侵害という意味でもハラスメントに当たると思料するが、その点については、チャットの項で述べる。
(6) 報道がなされることの事前報告等について
ア 齋藤知事は、第2の2(5)において認定したとおり、チャットの相手方の職員に対して、
- (ア)マイナンバーに関する件において、取材を受けたのにその事実を報告せず、会見前にレクチャーしなかったことは問題である、事前の報告とレクチャーをすべきであったと叱責し、
- (イ)豊岡演劇祭について、職員からの報告でなく、報道で日程を知ったこと、日程が決まる前に知事協議を行わなかったことは問題である、連携が取れていない等と叱責し、翌日に知事協議を行うこと、その協議には但馬県民局長も出席させること、局長には事前に、「まったくわかっていない」と伝えて釘を刺しておくことを求め、
- (ウ)大阪府から兵庫県内の私立高校に通う生徒の授業料無償化をめぐる問題について、午前中になされた報道を昼食会までに報告しなかったことは問題であると叱責した。
イ しかし、職員は、すべての報道を即時にチェックできるものではない。チェックできても、そのうちのどれを報告し、どれを報告しないかは、事案の重要度と知事の繫忙度、齋藤知事がその時点で行っている仕事の重要度等によって変わってくる。また、どの情報に緊急性が高いかについては、齋藤知事と職員の判断が一致するとは限らない。判断が一致した場合でも、他の案件に割り込んで知事協議を行えるかは、時と場合による。
ウ 以上を勘案し、本調査委員会は、上記の各案件についての齋藤知事の言動は、いずれも、職員に過大な要求を求め、それができないことへの叱責であり、パワハラに当たると判断する。
なお、付言すると、本調査委員会は、齋藤知事が達成困難な内容も含む水準の高い要求を行ったからといって、それだけでパワハラに当たると認定するものではない。また、要求することを否定するものでもない。ただ、職員が注意や努力をしても結果として齋藤知事の要求どおりにできなかったことについて職員を強く叱責するならば、それは過大な要求と言わざるを得ないことから、パワハラに該当すると認定するものである。さらに言えば、齋藤知事と普段接することのない職員にとっては、知事の叱責は極めて重いものである。齋藤知事との間に一定の関係が構築されている職員であっても、叱責が執拗であったり、短期間に何回も繰り返されたりしたときには、その被る精神的苦痛や負担は大きく、その叱責は、職員の勤務環境を害することは否定できない。よって、上記のとおり認定した次第である。
(7) 机を叩いて叱責した行為について
ア 齋藤知事は、令和3年9月7日、尼崎西宮芦屋港湾計画事業に関して報道がされたことについて、県土整備部の(杉浦)局長と課長を知事室に呼んだ。そして、事情を聞くことなく、いきなり、「県として意思決定していないことを先に出すのはよくない。許さない。」と述べ、机を叩いて叱責した。
イ しかし、報道は、県が意思決定していないことについてなされたのではない。そこに指導の必要性を認めることはできない。
ウ また、机を叩く行為は、相手を威圧するものであり、方法として適切を欠く。
エ 当該(杉浦)局長は、本件百条委員会において、机を叩いて叱責されたのは初めてである、指導する必要があったとしても口頭の注意で十分で、机を叩くのは行き過ぎであると感想を述べている。
オ 齋藤知事赴任後約1カ月に生じた本事案は、多くの職員の間で、齋藤知事は気に入らないと机を叩いて怒ると評判になり、伝え聞いた職員の相当数に畏怖と委縮を生んだ。
カ 以上から明らかなとおり、本件は、本来指導の必要のない事案について、机を叩くという相当性を欠く方法で相手を威圧しようとしたものである。その行為は、知事と相手方との間ではいまだ信頼関係が築かれていない時期に行われたという意味でも、相手の職員体に精神的衝撃を与えたことは否定できない。また、その出来事を伝え聞いた職員の相当数は、畏怖し、その勤務環境は悪化した。本調査委員会は、上記の事情を勘案し、本事案はパワハラに当たると判断する。
(8) 付箋を投げた行為について
ア 齋藤知事は、片山元副知事と協議した際、2回、付箋を投げた。
イ 片山元副知事は、齋藤知事から見て斜めの場所に座っており、齋藤知事の前にアクリル板が設置されていた。齋藤知事は、アクリル板の方向に付箋を投げたのであり、片山元副知事に向かって投げたものではない。
ウ 投げた付箋は、1回は1枚であり、もう1回は複数枚重なっていたが、分厚いというほどのものではない。
エ しかし、付箋に厚みがなく、片山元副知事に向けて投げられたものではないとしても、会話中に物を投げる動作をすることは、それ自体が相手を威圧する意味を持つ。
オ 本件について、相手方の片山元副知事は、威圧を受けたとまでは感じていない旨を述べる。確かに、他の職員とは異なり、片山元副知事と齋藤知事とは密接で信頼し合った関係にあり、両者の間ではコミュニケーションの機会が多かったこと等を考えれば、片山元副知事との関係では、その行為をパワハラとまで断定し難い面がある。
カ しかし、その話を伝え聞いた一般職員との関係は別である。齋藤知事の言動は重みがある。齋藤知事による威圧的な行為は、周囲の職員を委縮させ、就業環境を悪化させる面を少なからず有している。本調査委員会は、片山元副知事との関係で付箋を投げた行為は、パワハラに当たるとは断定しないが、パワハラの疑いが残ることは指摘しておく。
(9) 淡路スポーツチャレンジの件
ア 齋藤知事が庁舎外で着替えをする上で個室を用意することは、セキュリティの観点から有用である。したがって、可能な限り個室を用意するよう求めることは、指導として必要性がある。
イ 齋藤知事は、このとき、個室が用意されていなかったことについて、担当者を直接叱責したものではない。提供された食品の温度についても、その場で感想を述べたものではない。したがって、注意の仕方も、相当性を欠くとは認められない。
ウ 以上から、本調査委員会は、令和4年10月30日の淡路スポーツチャレンジの件について、齋藤知事にパワハラがあったとは認定しない。
エ ただし、本件に関わった職員の立場からすれば、問題点についての具体的、明確な指摘を受けたわけではなく、C氏経由で、個室の用意や食品の温度について齋藤知事が怒っているということを伝えられたのみである。このイベントの業務について改善点があるとしても、齋藤知事側からのあるべき指導は、具体的な改善点の明確な指示や職員が反省点を出し合う機会を持つ等して自主的に改善の方向を打ち出すように指導することである。単に齋藤知事が怒っていることだけを伝えるのでは、職員側からすれば形式的、強迫的に、以後齋藤知事が外出するときは個室を用意することが必ず必要であると認識するにとどまり、創意工夫して次の機会を良いものにしようとする意欲が高まることはなく、むしろ、準備に当たった職員やその噂を聞いた職員が、齋藤知事は事情を聞いてくれないとか、頑張っても理解してもらえない等の感想を持つことになりかねない面がある。
以上のように、本件については、斎藤知事による感想の伝え方、C氏からの職員への伝達の仕方に配慮が欠けていた点があることは否めない。
(10) AIによるマッチングシステムの件
ア AIによるマッチングシステムは、それまで手作業で行っていた事業をAIに行わせることとしたもので、行財政改革の点でも意義のある事業であった。
イ 同事業は、令和5年度の事業として予算化されていた。担当者らは、側近の幹部から齋藤知事に事情が伝わっていると考えていた。
ウ しかし、齋藤知事は、令和5年4月11日、知事協議に入った担当者を、内容を知らないのに会見で発表すべきか判断できないと一蹴した。そして、説明しようとする担当者らに対し、「なぜ今聞かないといけないのか。今聞いて判断できるわけがない。部長(C(井ノ本氏)を指す。)を呼んで来るように。」として、担当者を相手にしなかった。
エ 齋藤知事としては、この案件についてはまだ理解が進んでおらず、どのように進めて行くかを協議してから記者発表をすべきである、齋藤知事との協議が進んでいないのに定例会見の項目に入れるのはおかしいと指摘し、指導したかったものと思われる。
オ そうだとすると、本件は、空飛ぶクルマの案件と同様、齋藤知事と担当者のコミュニケーションの不足が背景にある問題といえる。
カ しかし、齋藤知事の言動は、事情を聞き、相手の認識を確認せずに指導が必要と判断し、強い口調で叱責したものであって、適切を欠くと言わざるを得ない。叱責する前に事情を聞いておけば、互いの認識の違いを確認し、齟齬を埋めることができたはずで、そうすればそもそも齋藤知事が行ったような指導をする必要はなかったと考えられる。
さらに言えば、仮に指導の必要を齋藤知事が感じたとしても、予算化されている事案について、説明を聞くことなく、知らない、なぜ今聞かないといけないのかと述べたり、部長を呼ぶようにして担当者をないがしろにしたことは、方法としても相当性を欠く。
キ この事案も、職員間では噂として広まり、齋藤知事は話を聞いてくれないとして士気の低下を生んだ。また、事業の開始は、本来の予定より1か月遅れた。
ク 本調査委員会は、本案件を、指導の必要性がないのに相当性を欠く方法で行われたもので、職員の士気を低下させ、勤務環境を悪化させたから、パワハラに当たると判断する。
(11) 介護テクノロジー導入・生産性支援センターの件
ア 兵庫県は、介護現場の課題を解消するため、介護テクノロジー導入・生産性支援センターを設立し、令和5年5月から事業を開始することを計画した。同事業については、令和5年度予算に計上され、議会の承認を受けてもいた。
イ しかるに、齋藤知事は、令和5年5月11日の知事協議において、「こんな話は聞いてない。」、「なんで支援センターなんか作っているのか。」と述べ、担当者が予算化されているとして資料を見せても、「こんな資料は知らない。資料に入っていたら知事は全部知っているとは思わないように。」などと述べて、説明を聞くこと自体を拒否した。
ウ 本件も、空飛ぶクルマや、AIマッチングシステムの件と同様、齋藤知事と担当者らとの間にコミュニケーションの不足があり、そのことが背景となって生じた事案である。
エ しかし、わからないことがあれば、担当者に聞けばよいのであって、事情を聞かずに説明を受けることを拒否するのは適切でない。本件は、事情を聞けば、前提事実を正しく認識できたから、指導を行う必要もなかった案件である。また、仮に指導の必要性があったとしても、事情を聞かずに強い口調で叱責することは方法としても相当性を欠く。
オ 本件も、一部の職員に、齋藤知事は事情を聞いてくれないとの気分を生み、センター開設が5か月遅れたことも相まって、士気の低下を招いた。
カ 本調査委員会は、本案件を、指導の必要性を欠く案件について、相当性を欠く方法で対応がなされたものであり、職員の士気を低下させ、勤務環境を悪化させたものであることから、パワハラに当たると判断する。
(12) はばたんペイの件
ア 本件は、職員が準備し、既に発注を終えていたキャンペーン用のうちわについて、齋藤知事が注文を付けたので、知事の顔写真とメッセージを登載した新しいデザインのうちわを追加発注することとなった事案である。齋藤知事は、注文を付ける際に、担当職員の前で舌打ちをし、大きなため息をついた。その影響で、職員の多くは、以後、齋藤知事が関与するポスターなどには齋藤知事の顔写真を入れることが必須であると考えるようになり、そのように対処した。
イ しかし、追加注文までして齋藤知事のメッセージと顔写真を入れたうちわが必要であったかは、疑問なしとしない。
齋藤知事から明確にこれらを入れるよう指示があった場合は格別、そうでない場合、齋藤知事のメッセージと顔写真を入れることは当然に必要な業務とは言えないのであるから、その指示のなかった本件においては、これを入れていなかったことは、業務上のミスや懈怠ではない。顔写真とメッセージを入れたいのであれば、齋藤知事からの追加提案、追加要請として協議すればよい話であって、担当者のミスであるかのような指導を行うことは必要ない。
ウ 指導の方法としても、舌打ちをし、ため息をついて相手に考えさせようとすることは、無用に相手を威圧し、萎縮効果を生じさせるものであって、相当でない。
エ 本件は、事案発生後短期間で多くの職員の知るところとなった。この事実を伝え聞いた多くの職員は、広報物を作成するときには、齋藤知事の顔写真を入れるか検討が必要になったと感じた。そして、その業務を担当する職員の中には、顔写真を入れなければ叱責される、ないしは機嫌を損ねる可能性があると畏怖する者が現れるようになった。その結果、本来の仕事以外への気遣いをさせ、担当職員を疲弊させた。また、それらの職員の不満と士気の低下を招いた。
オ 本調査委員会は、本件は、業務としての対応にその必要性が必ずしも明らかとは言えない案件について、相当でない方法で問題点を指摘し、職員の不満と士気の低下、末来の業務以外への気遣いを必要ならしめて勤務環境を悪化させたものであり、パワハラに当たると判断する。
(13) 知事であることを特に強調する発言について
ア 令和3年度、知事協議の際に「オレは知事だぞ」とかそれに類する発言があったかについては、ホットラインを通じて情報はあるが、どのような場面で、どのような事態が生じたので、何を改善するために齋藤知事がその発言をしたかを明確にする的確な資料はない。したがって、本調査委員会は、そのときの言動が必要性のないものであったとは認定しない。
イ しかし、その趣旨の発言を受けたという職員は複数存在する。知事は県民から選挙で選ばれた公人である。職員にとって、自身が知事であることをことさらに強調する発言は、知事は県民の意思を背景にその意思を述べている、ないし行動をしているということを意味する。そのため、「オレは知事だぞ」等の言葉を発せられると、それ以上反論できなくなるし、意見も述べられなくなる。実際、その旨を述べた職員もいた。
ウ 以上から、齋藤知事の自身が知事であることをことさらに強調する発言は、その言動がなされる場面や、言葉を発するときの声の大きさ、トーンによっては、議論や反論を封じる意味を持つものであって、適切を欠く場合があると判断する。具体的な事案が明らかでないので、その発言をパワハラであるとはいえないが、上記イの職員らからの情報に鑑みれば、実際に適切を欠く場面が存在した可能性もあったと判断したことを指摘しておく。
(14) チャットについて
ア 職員は、心身が健康であって初めて良好な仕事ができる。そのためにはプライベートな時間を持ち、休息することが必要不可欠である。
イ チャットは、連絡、コミュニケーションツールとして有用である。しかし、いつでも連絡可能なことから、夜間などに連絡が続くと、本来働くべき時間とプライベートな時間の境界が曖昧になり、生活時間の確保に支障が生じる。その結果、働き過ぎが生じたり、そこまで至らなくても、デジタルでつながっていること自体による負荷やストレスで心身への影響が生じたりする懸念がある。チャットは、通知機能があるため、端末の設定でオフにしない限り、メールのように積極的に見ないことにより情報を遮断することができず、その点でも業務で使用するに当たっては、場面や時間帯に応じて一定の配慮が必要となる。
ウ 齋藤知事は、令和5年4月、幹部職員との関係でチャット制度を導入し、その運用を始めた。そして、夜間や休日にも職員にチャットを送り、業務の指示をし、報告を求めた。令和5年4月から同年12月までの間でみると、その回数は、平日の午後8時以降に行われたやり取りが38回、土日祝日に行われたやり取りが16回で、うち7回は、土日祝日にもかかわらず、夜間に行われている。加えて、齋藤知事を含む兵庫県の幹部職員は、台風や豪雨災害、豚熱が発生したときには、上記以外でも夜間、土日祝日に情報の交換を行った。
チャットによる業務指示は、その頻度だけをとっても、対象職員を疲弊させるものであったというべきである。
また、緊急性がない齋藤知事発信の夜間や土日のチャットの内容については、一例を挙げると、
- ①人材不足対策の検討について、メンバーとスケジュール、検討内容についての打合せの調整、次の議会(*チャットの発信が令和5年4月であることから1か月以上先の同年5月16日以降の議会と思われる。なお、*以下は本調査委員会による注釈であり、齋藤知事のチャットに記載された文章ではない。以下同じ。)までに立上げの方向感を出しておく必要があることを指示するもの(令和5年4月7日金曜日午後10時40分のチャット)、
- ②音楽フェスについて齋藤県政の主要テーマにしていきたいと決定していることを前提に、音楽フェスの所管部局をどうするか、県有施設や敷地での音楽フェスの開催予定や誘致の方向性等を整理して打合せを入れること、チャット発信の1か月以上先である令和5年5月20日の兵庫県内の某音楽フェスの開催に至った経緯や概要について至急レクを入れることと公務として齋藤知事が参加できるかどうかの調整を至急まち部と企画、県民生活部と秘書室で調整するよう指示するもの(令和5年4月9日日曜午前11時54分のチャット)、
- ③クオリティーを確認するため広報の専属写真撮影者がこれまでとった写真をパソコンですベて一覧できるようにしておくこと、チャット当日に撮影した写真(*プロスポ―ツクラブと県との連携協定時に撮影した写真のようである)の撮り直しを示唆するもの(令和5年4月22日土曜日午後10時37分のチャット)、
- ④「昨日のウクライナの会議での席次レイアウトですが、0点でしたね。広報課を一度よんで、まずは昨日の反省会をしましょう」と職員の仕事の評価を伝え、反省会を指示するもの(令和5年4月22日土曜日午後10時41分のチャット)、
- ⑤前日に説明を受けた令和5年6月以降の生田庁舎でのモデルオフィスのレイアウトについて、「単なる既存の室に机を置いただけのレイアウトは絶対にダメ」、 「オフィスデザインのコンサルなどを入れて、ワクワクする新しい空間をつくることが必須」、「私が納得する空間デザインでないとゴーサインは出せません。私がワクワクする空間でないと、職員はワクワクしないし、仕事をしたいと思わない空間では、フリーアドレス化は、かならず失敗します」、「そのうえで、モデルオフィススタートについては、メディア発信が大切だということを肝に銘じておいてください(そのためにも、ワクワクする、世間があっと驚くようなコンセプトやデザインが必須)」と指示するもの(令和5年4月22日土曜日午後11時27分のチャット)、
- ⑥生成AIを業務上で活用するにあたっての検討として、パソコンのマイクロソフトBingの検索機能では既にチャットで回答生成機能が実装されていることから、どの程度の高機能なのか整理が必要として整理を指示するもの(令和5年5月13日土曜日午後4時7分のチャット)、
- ⑦「新酒品評会で、福島が10連覇したニュースがでてきますが、兵庫は2位のようです。ここ数年の兵庫の順位を確認してもらってよいですか?」と公開されているであろう情報のリサーチを指示するもの(令和5年5月24日水曜日午後9時35分のチャット)(なお、同チャットの約1時間後に秘書広報室長からリサーチ結果を齋藤知事にチャットで報告したところ、同日午後11時28分に齋藤知事から「承知しました。昨年も2位だったようですね。日本酒もそうですが、今回のような品評会で、日本酒以外も含めて主要なものがどのようなものがあるのか、兵庫が高順位の常連のようなものはなにかを整理して、なにかの機会に数えてもらえるようにいっておいてください。ちなみに急いでいません」とチャットが発信されており、その前のチャットも急ぎではなかったことは明らかと思われる)
など、必ずしも休日や夜間に連絡をしなければならない内容のものではなく、翌日以降の平日日中の時間帯に連絡、指示すれば足りると思われる、緊急性の乏しいものが多かった。
エ 齋藤知事は、チャットの運用が始まった直後の令和5年4月12日、元新県政推進室の側近職員を中心とする職員らに向け、「私からお願いした案件に関する作業については、とにかくスピード感を重視すること、こまめに相談することに留意を。」と発信した。
オ 齋藤知事は、「休暇中ですので、返信はご不要です。」(令和5年4月23日の日曜夜7時05分のチャット)、「ちなみに急いでいません」(5月24日午後11時28分のチャット)として返信が不要である旨を注記したこともある。
しかし、4月23日のチャットは、急を要する事案について送られたものでなく、月曜以降にゆっくり対応すればよい性質のものであった。
一方、5月24日のチャットは、「午後8時55分から始まり、チャットが発信されるまでに、齋藤知事と職員の間では6回チャットのやりとりが交わされている。齋藤知事は、7回目のチャットで翌日の業務指示をした上で、最後に、「ちなみに急いでいません」と付け加えただけである。しかも、秘書広報室長は、そのチャットに対しても、翌日の午前0時11分に「承知しました。整理します。」と返信している。
「返信不要」、「急いでいない」といったこれらの気遣いの一文がごく一部の夜間や休日に発信されたチャットに記載されていたことについては、裏を返せば、こういった注意書きがない限り、齋藤知事からチャットが発信されれば、「スピード感を重視する」という齋藤知事の令和5年4月12日のチャットどおり、夜間や休日であっても速やかな返事や対応をしなければならないと職員側が受け止める可能性がある状況、チャットのやり取りであった。
カ 先にいくつかのチャットを紹介したが、齋藤知事がチャットを送るのは、報道で自分の知らないことを知ったとき(県立美術館の休館の件、豊岡演劇祭の件、大阪府から兵庫県内の私立高校に通う高校生の授業料無償化の件など)、行ってほしい業務を思い付いたとき(上記各件のほか、SDGs関係の選定証授与式の報道をめぐる問題など)が多い。
そのチャットが業務指示であった場合、職員は、「すぐに行います」と返信した。叱責の場合には、「申し訳ありません」としてもっぱら謝罪の言葉を述べた。
職員によっては、チャットを受け取った数分後に返信をしているケースも多く見られた。これは、齋藤知事が4月12日のチャットで「スピード感を重視すること」と述べたこと、幹部職員は、普段の齋藤知事の姿勢がスピード重視、効率重視であるのを知っていたことの反映であると思料される。
キ チャットには通知機能があり、これをオフにしない限り、齋藤知事が発信したときは、相手に即時に通知される。幹部職員は、齋藤知事から通知があったときにはすぐに対応できるよう、夜間、休日を問わず常にデバイスを身辺に置いていたから、即時に返信できたものである。深夜や休日にまで齋藤知事ないし仕事とつながっており、安心してプライベートな時間を過ごすことができなかった幹部職員(特に、返信や指示された業務を実際に行う立場の職員)の精神的負荷が相当なものであったことは、明白である。
ク 次に、チャットの内容を見ると、第2の2の広報関係をめぐる事象の事実認定で述べたもの以外にも職員を叱責するものがかなりある。その中には、SDGsの選定証授与式の報道体制整備強要など客観的に見て理不尽なものもあるが、確認できたチャットを見ても、職員が齋藤知事に反論したものやできないと回答した者は乏しく、職員は、齋藤知事の叱責に対し、ただ、申し訳ありませんと反省の弁を述べるばかりである。そして、業務指示に対しては、承知しました、直ちに行いますと指示に従うことを述べるばかりである。
叱責される側からすれば、チャットでの叱責は、話す相手の表情も見えない中、限られた文字数の文字だけのメッセージで伝えられることから、その字面のみから伝わる叱責の印象は強くなるし、データとして残ること(口頭でのやり取りのように忘れられない。)チャットの送り先が複数の場合は羞恥心をより強く与え、精神的なダメージが強くなるものである。
ケ 本調査委員会は、齋藤知事の夜間や休日のチャットによる叱責や業務指示は、その対象となる内容が必ずしも緊急性のあるものでなく、夜間や休日ではなく翌登庁時に協議すればよいものが多く、職員の生活時間を無用に侵害している(業務上必要かつ相当な範囲を超える)ばかりでなく、内容的にも過剰の要求、過度の精神的負担を与えるものも相当数あること、齋藤知事という職務上の優位性を背景に行われ、しかも長期間にわたって継続的に繰り返されてきたものであること、チャットの相手方である幹部職員を精神的に疲弊させた(勤務環境を害するものであった)から、一連の行為全体からみてパワハラに当たる点があったと判断する。
(15) 左遷的な人事について
ア 人事は、任命権者の裁量行為である。
イ 本調査委員会は、兵庫県の業務の全てを知りうるものではなく、個々の人事がどのような必要に基づき、どのような配慮の下に行われたか背景事情にまで遡って評価することはできない。
したがって、個々の人事が左遷的なものであったかについては、これを判断しない。
ウ しかし、不公平に見える人事は職員の不満を招く。それは、士気の低下につながり、県政の発展を阻害する。その意味で、多数の者が不公平と感じる人事は、パワハラに当たるか否かは別として、なるべく避けるべきである。
(16) ココロンカードについて
齋藤知事は、教育長に対し、ココロンカード発行事業に関し、既発行分も含めて小学1年生から中学3年生まで全学年分の差替えを求めたが、その結果、令和6年度は例年に比して約 140万円もの高額の費用をかけてココロンカードの差替えが行われた。
本調査委員会は、ココロンカード発行事業をめぐる齋藤知事の職員への言動、対応は、パワハラには該当しないと考える。しかし、その言動と職員への指示は不適切である。
本調査委員会は、必要性がなく、県民の利益と関わりのない(そのまま使用でき、使用者である小中学生にとって特に支障もない中で、これまでと運用を異にし、小中学生全員のココロンカードを一斉に差し替えることは、齋藤知事の名前をアピールする、あるいは齋藤知事の個人的感情を満足させるためのものと考えざるを得ない)ココロンカードの全面差替えのために、本来、県民のために使用されるべき兵庫県の予算から、例年に比し約140万円もの高額の費用が支出されたことは、県民にとっても不利益な、必要性のない支出であり、問題であると思料する。
5 小括
以上のとおり、元西播磨県民局長が本件文書中でパワハラとして指摘した事象のうち、
- ①出張先の施設のエントランスが自動車進入禁止のため、20メートルほど手前で公用車を降り、歩いたことについて、関係職員を大声で叱責した、
- ②自身の知らないことが報道されると、「聞いていない」として担当者を叱責することがある、
- ③知事協議の際、机を叩いて怒った、
- ④幹部職員に対しては、夜間や休日にも、時間にかかわりなくチャットで業務指示を行った
との諸点については、これをパワハラに当たる事実であると認める。また、本件文書に列挙されていない事実についても、齋藤知事にはパワハラに該当する言動があったこと、ハラスメントとは別の問題であるが、職員に対するその言動によって県民にとって不利益な結果が生じた例(ココロンカードの件)があることが確認された。