- このページについて
- 調査報告書(文字起こし) 第6章
- 第6章 本件文書に記載された事項4の調査結果
- 第1 本件文書の記載
- 第2 判断の前提事項
- 第3 事実認定
- 1 h(千石)社によるコーヒーメーカー等贈与の有無とその経緯
- 2 j(トレック・ジャパン)社による自転車贈与の有無とその経緯
- 3 s(市川町)(役場)によるゴルフのアイアンセット贈与の有無とその経緯
- 4 k社によるスポーツウェア等の贈与、特定企業との癒着の有無及び経緯
- 5 視察先企業リストに役得が列記されていることの有無
- 6 農産物や食品関係の贈答品の独り占めの有無とその経緯
- 7 出張先での飲食のタカリ体質、お土産必須の有無及び経緯
- 8 その他、本件文書には記載されていないが、齋藤知事が受領した贈答品の有無とその経緯
- 9 齋藤知事のおねだり体質が県庁内でも有名で、齋藤知事の自宅に贈答品が山のように積まれていることの有無
- 第4 評価
- 第6章 本件文書に記載された事項4の調査結果
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このページについて
当ページには、告発文書の内容の真偽を確認する「文書問題に関する第三者調査委員会」が2025/3/19に公表した調査報告書の、「第6章 贈答品に係る問題」について文字起こしを掲載しています。
当報告書の全容は、以下リンク先を参照ください。
調査報告書(文字起こし) 第6章
第6章 本件文書に記載された事項4の調査結果
―贈答品に係る問題について―
第1 本件文書の記載
1 記載内容(以下、原文のまま引用)
④贈答品の山
齋藤知事のおねだり体質は県庁内でも有名。知事の自宅には贈答品が山のように積まれている。
(例1)
令和5年8月8日、兵庫型奨学金返済支援制度利用企業の視察として訪れたh(株式会社千石)社(i(アラジン)のトースターで有名)における出来事。周囲にマスコミがいるため、h(千石)社の幹部から贈呈された高級コーヒーメーカーをその場では「そんな品物は頂けません」と辞退。一方、随行者のD(原田剛治産業労働部長)に向かって「みんなが見ている場所で受け取れるはずないやろ。失礼な。ちゃんと秘書課に送るように言っておけ!」と指示。後日、無事にコーヒーメーカーをゲットしている。●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
(例2)
令和5年7月にj(トレック・ジャパン株式会社)社と兵庫県はスポーツ連携協定を結んだ。そして、ヘルメット着用のキャンペーンを展開している。そのPR用の写真はj(トレック・ジャパン株式会社)社のロードバイク(約50万円)に跨る知事。そのバイクは撮影の後、知事へ贈呈された模様(偽装的に無償貸与の形をとる、ほとぽりが冷めるまで県庁で保管するなどの小細工がなされているかも知れません)。特定の営利企業との包括協定は、企業にとっては絶好のPRとなり、その見返りとしてのロードバイクの贈呈となると完全な贈収賄である。
これらは全てC(井ノ本県民生活部長)のアレンジ。
(例3)
s(神崎郡市川町)からは、特産品のゴルフのアイアンセット(約20万円)が贈呈されている。しかも、使いにくいからと再度、別モデルをおねだりしたという情報もある。特別交付税(市町振興課所管)の算定などに見返りを行った可能性がある。
P(現市町振興課細川敬太課長)は知事と同じ総務省からの出向にも関わらず、知事から考えられないくらい冷遇されているが、その辺りを付度しなかったことへの面当てかも知れない。
(例4)
知事は驚異の衣装持ち。特にスポーツウェア。メーカーにすれば知事は動く広告塔。これも貸与だと言えるのかどうか。特定企業(例えばk(アシックス)社)との癒着には呆れるばかりである。
そもそも、視察先やカウンターパートの企業を選定する際には、“何が貰えるか”が判断材料だとか。企業リストには備考欄があって、“役得”が列記されているとか。そして、とにかく貰い物は全て独り占め。特産品の農産物や食品関係も全て。あまりの強欲、周囲への気配りのなさに、秘書課員ですら呆れているという噂。もちろん、出張先での飲食は原則ゴチのタカリ体質、お土産必須。そのため、出張先では地元の首長や利害関係人を陪席させて支払いをつけ回す。出張大好きな理由はこれ。現場主義が聞いて呆れる。
2 趣旨
本件文書がこの問題について指摘する趣旨は、齋藤知事が要望し、県としてではなく齋藤知事個人が贈答品を各団体から大量に受領していること、贈収賄の疑惑があること、齋藤知事による祖察基準が贈答品の有無であること、齋藤知事が視察時等の食品関係等の贈答品を独占していること、出張先で齋藤知事自らの飲食代を同席者に支払わせていることで、例1~4はあくまで例示である。
したがって、例1~4に記載された事実の有無だけでなく、齋藤知事がやりとりしている贈答品全般について、情報提供等で寄せられた範囲であるものの、本件文書に記載された例示に限定せず、広く調査を行った。
また、視察や贈答等の話に至った経緯についても、上記の趣旨を踏まえ、可能な範囲で細かな事実関係を含めた調査を行った。
第2 判断の前提事項
1 刑法
本件文書に記載された「贈収賄」とは、刑法に規定された、以下の収賄罪と贈賄罪(以下、併せて「賄賂罪」という。」を併せた呼称である。
(1) 197条1項(収賄)
刑法197条1項は、「公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の拘禁刑に処する。」と規定している。
(2) 198条(贈賄)
刑法198条は、「197条から197条の4までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する。」と規定している。
(3) 判例等による解釈
ア 「職務に関し」
賄賂罪にいう「職務」とは、公務員がその地位に伴い公務として取り扱うべき一切の執務を指称する(最高裁判所昭和28年10月27日判決)。
イ 「賄賂」
賄賂罪にいう「賄賂」とは、職務行為と対価関係にある利益をいうが、一定の職務に対するものであればよく、個々の職務行為との間に対価的関係のあることを要しない(最高裁判所昭和33年9月30日決定)。
社交儀礼の範囲内であれば賄賂に当たらないが、実際の認定、解釈に当たって、その範囲に関する認定は微妙な要素を含む問題であると考えられている。
中元、歳暮等の社交儀礼の範囲内であれば、職務との対価性がないとか、価値が比較的軽微であることを理由に賄賂に当たらないものと考えられているが、中元の形式をとろうと、公務員の職務に関し授受された場合には賄賂性を生じる。
ネクタイやポロシャツなどを多数回贈った事案が社交儀礼の度を超えたものとされた裁判例(東京地方裁判所平成10年12月24日判決)がある一方、中学の担任教員に対し父兄が5000円ないし1万円のギフトチェックを贈った行為に関し、私的な学習上、生活上の指導に対する感謝の趣旨と被告人に対する敬慕の念に発する儀礼の趣旨に出た余地があるとして、賄賂罪の成立を否定している判例もある(最高裁判所昭和50年4月24日判決)。
職務に関するなら、利益交付の時期や利益の多寡には関係なく賄賂となる(大審院昭和4年12月4日判決)。
ウ 「要求」
賄賂罪にいう「要求」とは、賄賂の供与を求めることで、相手方が実際に認識せず、又は誤認しても要求罪が成立する(大審院昭和11年10月9日判決)。相手方が応じなくても成立する(大審院昭和9年11月26日判決)。
2 兵庫県庁における贈答品に関するルール
本調査委員会が調査を開始した令和6年9月当時における、贈答品の受領に関する兵庫県庁内部の指針、規則、要綱、要領、ルール等を提出するよう兵庫県に照会したところ、「綱紀粛正通知」と「不祥事防止読本」のみと回答があった。
いずれも、規則、要綱、要領等といったものではなく、職員向けの通知文と基本書のようなものである。
(l) 綱紀粛正通知
令和5年4月17日付けで当時副知事であった片山氏が「県民の信頼確保と厳正な規律の保持について」と題する書面を作成した。これを県は「綱紀粛正通知」と呼称しているようである。
同書面は、令和4年度に懲戒免職事案を含めて多くの不祥事が発生しており、関係職員に対し厳しい処分を行ったことを踏まえ、一人の職員の非行が県政への信用・信頼を著しく損ねるだけでなく、誠実に職務に励んでいる多くの職員に悪影響を与えることから、職員一人ひとりが原点に立ち返って県職員としての自覚を持って職務に精励することを期待するもので、職員に対する注意喚起的な内容、位置づけの書面のようである。
贈答品の受領の関係では、「事業者等との関係においては、公務員としての立場を踏まえた行動をとり、県民から批判や誤解を受けるような行為は決して行わないこと」、「民間においては慣例的な取扱とされていても、業務に関連する贈答品は、受け取らないこと。また、やむを得ず受け取ったものについては、所属に届け出ること。」が記載されている。
(2) 不祥事防止読本
令和2年8月改訂版「不祥事防止読本」は、「信頼され続けるあなたであるために~職員一人ひとりへのメッセージ~」という副題で総務部職員局人事課が作成したものである。
贈答品の受領の関係では、「IV 汚職の防止」の中で、贈収賄の罪に関する説明や注意喚起が記載され、「汚職防止のための『10の心掛け』」として「①特権意識や役得意識は持たない、②業者との対応は複数で行う、③『一杯のコーヒー程度なら許される』という安易な気持ちは持たない、⑥業者からの中元・歳暮等の贈り物は受け取らない」等が記載されている。
また、Q&Aで「Q.いつでも返せるように、開封せずそのまま置いておいたとき」も「A.直ちに返さなければ、受け取る意思があったものとして判断されます。」と記載されている。
そのほか、汚職を防ぐための具体的な対応例として「贈答品が送られてきた場合」、「業者等が直接持参しても⇒公務員としての立場を説明し、絶対に受け取らない」、「デパート等から配送されてきても⇒受取拒否(配送者に事情を説明し、受領印を押印しない)」、「うっかり受け取ってしまっても⇒速やかに職場に持参し、上司に報告のうえ、文書を添えて返送する」ことが記載されている。
第3 事実認定
1 h(千石)社によるコーヒーメーカー等贈与の有無とその経緯
(1) 意見交換会の実施
令和5年8月8日、齋藤知事は、県内企業人材確保支援事業(兵庫型奨学金返済支援制度:中小企業の人材確保や若年者の県内就職・定着を図るため、若手社員の奨学金返済を支援する中小企業及び当該企業に勤務する従業員への兵庫県の補助金事業)の視察として、同制度を利用しているh(千石)社を訪問し、同社の役員等と実際に制度を利用している同社の職員2名、齋藤知事ら県関係者との間で、意見交換会が行われた(県の職員数名だけでなくマスコミも同席)。意見交換会は、奨学金の負担感や支援制度の効果について、利用者と利用企業の意見を聞くもので、同制度の支援要件の緩和を検討していきたいという齋藤知事の発言もある中、20分程度で終わった(兵庫県のホームベージによると、その後、実際に、令和6年4月から、対象年齢の緩和、補助期間の延長という同制度の拡充が行われているようである)。
同制度の意見交換先として同企業が選定された理由は、他にも数社候補企業がある中、同社が平成29年度から兵庫型奨学金返済支援制度の利用を開始しており、当時で同社内の利用者数は延べ37名(実数16名)であったこと、兵庫県が行うひょうごフィールドパビリオン(地域の活動の現場そのもの(フィールド)を地域が主体となって発信し、多くの人に来て、見て、学び、体験してもらう取組)認定プログラムである加西市内の「北条鉄道 気動車運転体験」と鶉野飛行場跡で行われる「鶉野フィールドミュージアムガイドツアー」の視察等に行く際、地理的にその前後の時間に訪問可能であったことが理由で、産業労働部が選定を行ったようである。
なお、h(千石)社は、「i(アラジン)」プランドで販売したトースターがヒット商品となったことで有名な、兵庫県の地場企業であり、意見交換会後、齋藤知事は同社工場の視察も行っている。
(2) 意見交換会当日のコーヒーメーカーに関するやりとり
意見交換会終了後、同社玄関に至る通路の途中に同社の商品が展示してあるオープンな(仕切りがない)状態でのショールームがあったことから、同社社長が齋藤知事を玄関まで見送るため同行する際、同ショールームで立ち止まり、社長が齋藤知事に対して、ショールームに展示している商品を説明した。
その際、展示されている商品の中に、同社のコーヒーメーカーもあり、齋藤知事が「僕、コーヒー好きなんですよね。」と述べた際、社長からは「(ちょうど)今日用意しているので、持って帰ってもらおうと思っています。」と、お土産にコーヒーメーカーを渡す予定であったことを告げる発言があった。それに対して、齋藤知事は「いいんですか。」と反応し、受領する意思があることを前提とするかのようなやりとり、反応であった。
しかし、周囲で両者の会話を聞いていた記者の1人が、「(コーヒーメーカーを)本当に受け取るんですか。」と疑問を投げかける質問をしたところ、齋藤知事は、回答に詰まった様子であった(少なくとも回答しなかった)。
そして、齋藤知事が同社玄関まで出たところで、社長がコーヒーメーカー(小売価格約3万円)の入った段ボールを手渡そうとしたところ、知事は受領を辞退した。同社としても、あくまで来社のお土産として県に渡す意図、会社案内程度の意図で用意したものであり、無理に渡す目的はなかったので、齋藤知事との間でのコーヒーメーカー贈与に関する直接のやりとりはこれだけで終わった。
齋藤知事はそのまま公用車に乗ったが、公用車のドア前まで付き添ったD(原田)氏に対し、(コーヒーメーカーの贈答に関して)「上手に断る」、あるいは「上手に対応」しておくよう伝えた(D(原田)氏は齋藤知事から「上手に断る」よう言われたと供述している)。
しかし、後述のとおり、その直後、齋藤知事が断ったものについてD(原田)氏が受け取る前提での対応をしていること、翌日以降、齋藤知事がD(原田)氏から直接相談を受ける前にあらためて秘書広報室長を通じてD氏に対し、コーヒーメーカーが届いても受領しないよう指示を出したことに照らすと、同社を訪問した時点で「断る」ようはっきりした指示を当日に出していたのであれば、D(原田)氏からあらためて相談を受ける前にこのような指示を出す理由がなく、経緯として違和感がある。そして、齋藤知事は、当日、対応に迷っていた様子がうかがえることからすると、当日の指示は「上手に対応」といった、より曖昧な言葉、指示であった可能性も考えられる。
齋藤知事が公用車に乗り、見送った後、同社の役員とD(原田)氏が会話する中、D(原田)氏としては、ショールームでの立ち話では同社が齋藤知事個人ヘコーヒーメーカーを贈与する意味かと思っていたが、そうではなく県への贈与の意図であったと認識するに至り、県への贈与であれば来客時に使用すれば兵庫県の地場産業の良いPRになるので、県として受領することに支障はないのではないかと考え、「せっかくのお申出なので、いったん産業労働部宛に送っていただけますか。」と伝えたところ、同社としても、齋藤知事個人への贈与ではなく県への贈与の意図であったことから、産業労働部へ送ることを了解した。
(3) 齋藤知事がコーヒーメーカーの受領を断った理由
本調査委員会でのヒアリングにおいて、齋藤知事は、記者から疑問視されたためコーヒーメーカーの受領を断ったのではなく、高価であるし、家電製品でもあるので受領を断った等と理由を述べているが、別件で、齋藤知事は、豊岡の鞄や竜山石の湯呑等といったこれ以上の高価品を知事室等で使用するために県として受領していること、家電製品であるものの地場産品であり、h(千石)社の製品はふるさと納税返礼品の対象商品になっており、地場産品という意味では変わらないことから受領を断った理由として整合していないため、本調査委員会としては、齋藤知事の上記弁解が当時に受領を断った理由であると認定することはできないものである。
また、同ヒアリングにおいて、齋藤知事は、当初の社長とのやり取りはあくまで社交辞令としての会話にすぎず、その場ですぐに断ることが失礼になるので断る発言をしなかっただけであるとも述べているが、齋藤知事が述べるような受領できない理由が当初から齋藤知事の頭にあったのであれば、社長の心遣いに感謝の気持ちを述べた上で受領できない理由を説明することが失礼のない誠実な対応であり、受け取る反応を示しながらその直後に言葉と裏腹に断る方がかえって失礼で贈与者側を困惑させるものといえる。そして、当時の状況に照らすと、齋藤知事が述べるような理由に基づく真意ではない発言、会話であったとは首肯し難いし、受領を肯定する齋藤知事の発言という外形的事実からは、発言どおりに齋藤知事が当初はコーヒーメーカーを受領する意思があったものと推認できる。そうすると、齋藤知事がコーヒーメーカーの受領を断った理由は、記者から受領を疑問視する質問が出たからであると言わざるを得ない。
なお、齋藤知事は、本件百条委員会での証言において、コーヒーメーカーを受領しなかった理由について、「直感的なとこになりますけど、受け取らないほうがいいというふうに判断しました」と述べているように、当時、贈答品を受領するかしないかの基準を明確に理由として整理していたわけではなく、ある意味場あたり的にその場の感覚で受領の有無を判断していたことからも、当初の社長との会話の時点で贈答品を受領するか否かについて齋藤知事が理論的な整理のもとに受領を断るつもりだったとは考え難いものである。
(4) 齋藤知事が受領をいったん辞退したものをD氏が郵送で受領する意思を示した理由
本調査委員会は、齋藤知事が受領を断ったものを、部下である産業労働部長が受領すると回答したという対応に疑問、違和感を覚えた。そこで、その旨質問したところ、D(原田)氏からは、「知事は遠慮していた様子だったので」、「知事がコーヒー好きなんでと言っていたので、個人として自宅に持ち帰るということだと当初は思っていた」、「しかし、h(千石)社との話で、県全体でということなので、贈与対象が違うと思った」、「h(千石)社のコーヒーメーカーは昔の県の幹部が個人的にもらっていたという話も聞いていたので、いいのかなと思っていた」という認識が回答された。そのため、本調査委員会は、D(原田)氏に対し、少なくとも齋藤知事の態度とは整合しないが、そのような勝手な行動をして後で怒られる、あるいは問題視されると思わなかったのか、とさらに質問したところ、同氏からは「メイドイン兵庫のPRになるので」、「マスコミを意識して体裁が悪かったから知事としては受領を断ったのだと思った」、「知事はマスメディアをかなり気にされる方で、マスコミ意識は相当強い」という認識が回答された。
そして、既述したとおり、齋藤知事の指示が曖昧な表現であった可能性があること、マスコミからの指摘があるまでは受領するような態度を齋藤知事がとっていたこと、第9章で述べるように齋藤知事がマスメディアを気にしていたことは幹部職員も周知の事実であったこと、齋藤知事が知事応接室を県の特産品PRのためのショールームにしたいと公言していることは周囲の職員にとって公知であったこと等を総合すると、D(原田)氏のヒアリングにおける上記回答は、外形的な経緯や状況から同氏がそのように認識することに違和感はないから、齋藤知事の真意はともかく、D(原田)氏としては当時の率直な認識をそのまま供述しているものとして信用できると考えられる。
なお、齋藤知事が、その後、実際にコーヒーメーカーが県庁に届いた後、コーヒーメーカーを受領しないことをあらためて指示したこと、コーヒーメーカーを秘書室や知事応接室で使用しなかったことからすると、仮に当日の齋藤知事の発言が「上手に断る」よう伝えるのではなく「上手に対応」という曖昧なものだったとしても、齋藤知事の意図としては、上手に辞退しておくように、という最終的な判断、指示であったとは推測される。ただ、その発言、応対は、コミュニケーションとして曖味で、いかなる理由で贈与を辞退するのか、当初に受け取るそぶりを見せたのは何故であったかなどを考えると、D(原田)氏が既述のとおりに認識し、推測していたことも十分首肯できる状況であった。
(5) トースターに関するやりとり
同社としては、新商品のコーヒーメーカーを令和5年4月に発売したところであったことから、お土産を手渡しする際、この新商品のコーヒーメーカーを用意していたが、配送であれば、かさばっても問題はないし、同社の有名なヒット商品はトースターであったことから、役員間の協議でコーヒーメーカーだけでなくトースター(小売価格約3万円)も送ることにした。
そのため、翌日の令和5年8月9日、D(原田)氏が同社に対し電話で意見交換会のお礼を述ぺた際、同社から、コーヒーメーカーだけでなくトースターも送るという話が伝えられた。
(6) コーヒーメーカー、トースターの配送による受領
配達票コピーと運送料の請求明細書によると、コーヒーメーカーは令和5年8月9日付けで同社から県庁内のD(原田)氏宛に発送され、トースターは同月10日付けで同じく同社から県庁内のD(原田)氏宛てに発送され、秘書課に送られた事実はないことが客観的に確認できた。
なお、コーヒーメーカーとトースターの発送日が異なるのは、コーヒーメーカーはお土産として用意していたので8月9日に発送できたが、トースターは本社事務所に商品が保管されておらず、倉庫から取り寄せたために1日分の発送のタイムラグが生じたものであった。
D(原田)氏は、コーヒーメーカーとトースターを県庁内で受領したが、段ボールの封は開けておらず、届いたままの状態で県庁内の産業労働部に置かれたままになっていた。
(7) 意見交換会翌日以降の贈答品受領に関する齋藤知事との協議、指示
意見交換会の翌日以降、D(原田)氏は、コーヒーメーカー等の受領について、あらためて齋藤知事の真意や判断等を確認すべく、秘書広報室長に対し、齋藤知事と協議する予定であることを示唆していた様子であるが、齋藤知事の多忙、連休(令和5年8月11日は祝日で、12、13日は土日)によりすぐに協議は行われなかった。結局、齋藤知事は、意見交換会から約1週間経った頃、D(原田)氏からあらためて相談を受ける前に、(有田)秘書広報室長に対し、コーヒーメーカーは受領しないようD(原田)氏に伝えるよう述べ、秘書広報室長は、D(原田)氏にその旨を伝えた。
なお、その後、D(原田)氏がコーヒーメーカーとトースターを返却していなかったことや、齋藤知事の指示が意見交換会から約1週間も経ってから出されたことからすると、齋藤知事から上記のような指示が本当に出されたのか疑念が残る面もある。しかし、同指示が出ていたことには、複数の関係者の供述がおおむね一致していること、秘書課や知事応接室でコーヒーメーカーが使用された事実がないことからすると、齋藤知事から受領しないようにとの指示があったという上記事実を認定することが妨げられるものではない。
(8) コーヒーメーカー、トースターの返却
D(原田)氏は、秘書広報室長を通じて齋藤知事から令和5年8月中旬には商品を受け取らないよう明確な指示を受けた。しかし、h(千石)社に対しては、コーヒーメーカーを受け取ることを前提に産業労働部宛てに送るよう話をした手前、いきなり送り返すわけにもいかず、礼儀として同社に直接持って行って返却の説明をしようと考えた。
そのため、齋藤知事による明確な指示があった後もすぐに返却せず、当初は部長室の応接に置いていたが、その部屋は、週1回産業労働部の幹部会をしていた場所でもあり、邪魔になったことから、同部の総務課で保管するようになり、そのまま返却することを失念していたようである。
D(原田)氏は、令和6年3月21日、本件文書を見た際、コーヒーメーカーとトースターを返却していなかったことを思い出した。そして、同月27日、部下の職員とともにh(千石)社を訪問し、配送時と同じ段ボール箱に入れたまま、送付状が箱に貼られたままの状態でこれらを返却した。
(9) 懲戒処分
令和6年5月7日、D(原田)氏は、「コーヒーメーカー等について、返却するよう指示を受けたにも関わらず、半年以上にわたって返却を怠り、県民の疑念を招いた」ことを理由に、懲戒処分として訓告処分を受けた。
D(原田)氏としては、初めて受けた懲戒処分で、経歴に傷がつくことになったが、自分がミスをしたのが事実であったことから異論は出さず、処分を受け入れた。
(10) 小括
以上のとおり、本件文書「④贈答品の山」に例1と記載されている内容については、令和5年8月8日、兵庫型奨学金返済支援制度利用企業の視察として齋藤知事がh(千石)社を訪れたこと、周囲にマスコミがおり、高級コーヒーメーカーの受領について疑問を投げかける質問が出たことから、齋藤知事が贈与を辞退したこと、後日、兵庫県庁にコーヒーメーカーが届いたという多くの記載が事実である。
しかし、本件文書の趣旨、重要事項である、齋藤知事個人による受領については、事実ではなく、齋藤知事が随行者のD(原田)氏に対して、コーヒーメーカー等を秘書課に送る旨同社に伝えるよう指示したことも、齋藤知事個人がコーヒーメーカ—等を受領した事実も認められない。
また、社長との会話の中、コーヒーを好む齋藤知事の発言はあったが、商品の説明を受ける際の世間話であるし、h(千石)社はその会話以前にコーヒーメーカーをお土産として用意していたのであるから、齋藤知事がコーヒーメーカーをおねだりした事実も認められない。
2 j(トレック・ジャパン)社による自転車贈与の有無とその経緯
(1) 兵庫県のスポーツ行政
スポーツ振興課は、齋藤知事の就任前は教育委員会の所管であった(体育保健課からの分課)が、議会は、同知事の就任後、教育としてだけでなく、スポーツを通じて地域活性化を行うべきという意見を表明した。また、齋藤知事は、スポーツに関心が高かった。これらの事情を背景に、令和5年4月、齋藤知事の肝煎りでスポーツ振興課は教育委員会の所管から知事部局となる県民生活部の所管に移管された(添付資料6:兵庫県機構図参照)。
その流れで、県として、従前は、道路、公園、観光の各担当部署でばらばらに対応していた自転車関係の施策をスポーツ振興課で統括することにし、サイクル事業を推進していくことになった。
(2) 連携協定の締結
令和5年4月1日に新たな組織形態で始まることになったスポーツ振興課の課長は、以前に公民連携部署に所属していたこともあり、官民連携でスポーツ振興、サイクル事業を推進していくに当たり、自転車のメーカーを調ぺたところ、スポーツタイプの自転車の世界的なメーカーであるj(トレック)社日本法人の本社が兵庫県にあることがわかり、同社にアプローチし、協識が進められることになった。
そして、令和5年7月27日、「相互の緊密な連携と協力により、スポーツの振興に関する取組を推進し、地域活性化や県民サービスの向上を図ることを目的」とし、①サイクルイベントの情報発信、②ヘルメット着用の推進、③自転車の安全利用の促進、④サイクリストの拡大、⑤サイクルツーリズムの推進、⑥その他、双方が必要と認める事項について連携し、協力していくこと等を記したスポーツの振興における連携及び協力に関する協定書が兵庫県と j(トレック・ジャパン)社の間で締結された。
(3) 兵庫県によるヘルメット着用キャンペーン
令和5年4月1日施行の改正道路交通法により、自転車を利用する全ての人はヘルメット着用が努力義務となった。
しかし、兵庫県は、警察庁発表のデークによると、ヘルメット着用率が6.2%と、全国平均13.5%を大きく下回っていた。そこで、県は、令和5年10月3日以降に購入した安全基準を満たした自転車乗車用ヘルメットを対象に、ヘルメット1個につき上限4000円相当の還元を行う自転車ヘルメット購入応援事業を企画し、そのキャンペーンを行うこととした。
(4) PR写真
兵庫県は、自転車ヘルメットの着用促進キャンペーンに使うPR写真として、齋藤知事がj(トレック)社 のロードバイクに跨る写真を使用することを検討した。
(5) ロードバイクの提供
令和5年7月27日、連携協定締結時において、締結式が行われてマスコミ発表がされるとともに、同日、協定に基づき、j(トレック・ジャパン)社から齋藤知事のサイクル関連事業のPR用に、電動アシスト付きのロードバイク(約50万円)が提供された(まずは、令和5年9月に実施される淡路島ロングライドというサイクルイベントで使用される予定だったようである)。
このとき、兵庫県とj(トレック・ジャパン)社の担当者レベルの協議としては、ロードバイクは貸与とすることで口頭合意し、そのことをマスコミにも連携協定締結式の質疑応答で説明していたことから、連携協定後すぐの令和5年7月29日の神戸新聞の朝刊でも、「貸与」という形であることが掲載された。
そして、無償貸与であることから使用貸借であったことは明らかであるものの、貸与期間や貸与にあたっての条件等について協鏃はされておらず、これらを記載した書面も作成されていなかった(ただし、使用貸借は、期間を定めなかった場合でも、民法597条2項により、借主が使用目的を終えることによって終了するし、民法598条1項により目的に従い借主が使用するのに足りる期間を経過したときには貸主からの契約解除ができるので、後日の返還を求めることができない贈与とは異なるものである)。
(6) 提供されたロードバイクの使用
齋藤知事がj(トレック・ジャパン)社から提供されたロードバイクを実際に運転して走行したことはない。ロードバイクが使用されたのは、PR用の写真撮影のため齋藤知事がロードバイクに跨ったことがあるのみである。
(7) ロードバイクの返却
本件文書問題が表面化した後の令和6年4月ころ、j(トレック・ジャパン)社とスポーツ振興課職員が協議し、令和6年6月3日、ロードバイクの貸与に関する契約書を作成、締結した。
そして、本件文書問題の渦中で様々な声や意見があり、齋藤知事がロードバイクに乗ることもできないという状況も踏まえ、同契約書上、連携協定からちょうど1年後となる令和6年7月26日を一区切りとして、貸与期間の終期と定め、実際にスポーツ振興課の担当職員が借りていたロードバイクをj(トレック・ジャパン)社に持参し、返却した。
(8) C氏の関与
スポーツ振興課は、令和5年4月、教育委員会から県民生活部の所管へと移り、C(井ノ本)氏が部長としてこれを統括する立場となった。しかし、C(井ノ本)氏が兵庫県とj(トレック・ジャパン)社との間の連携協定締結交渉やロードバイクの貸与に当たって具体的な協議を行ったり、指示をしたりした事実は確認できなかった。j(トレック・ジャパン)社との関係は、もっぱらスポーツ振興課の担当職員が進めた事業であり、C(井ノ本)氏による贈与を偽装するアレンジ、工作があったとは認められない。
(9) 小括
以上のとおり、本件文書の「④贈答品の山」に例2と記載されている内容については、令和5年7月、j(トレック・ジャパン)社と兵庫県が連携協定を結んだこと、ヘルメット着用のキャンペーンを展開したこと、PR用の写真はj(トレック・ジャパン)社 のロードバイク(約50万円)に跨る齋藤知事であったという多くの記載が事実である。
しかし、本件文書の趣旨の中で、重要事項である、齋藤知事個人への贈与は事実ではなく、贈与の偽装として無償貸与の形をとったという経緯も認められない。連携協定の見返りとして齋藤知事個人にロードバイクが贈与された事実はないし、C(井ノ本)氏がロードバイクの贈与等を偽装するアレンジ、工作をした事実も認められない。
3 s(市川町)(役場)によるゴルフのアイアンセット贈与の有無とその経緯
(1) s(市川町)の管内視察・意見交換会
令和4年10月14日の午後、齋藤知事は、中播磨地域の地場産業・地域資源等を視察し、s(市川町)長と意見交換を行った(午前中は近くの別の地域の視察等を行った)。
s(市川町)での視察先は5つあり、そのうち1つがl(共栄ゴルフ工業)社であった。l(共栄ゴルフ工業)社が視察先に選定された理由は、s(市川町)は国産アイアンヘッド発祥の地とされており、60余年の歴史を誇るクラプメーカーであったからで、s(市川町)の地場産業として町役場から推薦があり、その手配、調整で視察先となったものである。
(2) l社の視察
齋藤知事は、l(共栄ゴルフ工業)社において、アイアンヘッド製造工程や設備等の説明を受け、工場内を見学した後、アイアンヘッド製造業に関する課題等についての意見交換を行った。
(3) アイアンヘッドの贈与
同社の事務所には、製造品であるアイアンヘッドや、製造工程がわかる部品、半製品等が数多くパネルのように展示されており、それを見た齋藤知事が、知事応接室で地場産業のPRとして飾ることを考え、随行職員に対し、「これを(知事応接室で)飾れないか聞いてきて。」と伝えたことから、職員が同社に対し、展示するために県へ提供してもらうことは可能か打診し、同社は快諾した。
その後、同月24日、同社から兵庫県庁の知事室宛で、「ゴルフヘッド 見本用」の品名で、製造工程ごとの金物一式と試作品のアイアンクラプ1本が配送された(配送会社の出荷伝票一覧でも確認)。
なお、試作品のアイアンクラプは、カスタムオーダーで、その価格は1本約10~15万円前後のようであるが、商品の名称が入っていない等、売り物としては不十分な試作品であった。
(4) アイアンヘッドの展示
上記の贈答品は、実際に知事応接室で展示され、本件文書問題が作成される前の時点で、知事応接室での面談や表敬訪問時に撮影された写真にも展示されている様子が写っている。

(5) 令和5年10月23日の西播磨市町長会知事要望の会場での会話
元西播磨県民局長が作成し、遣族が本件百条委員会へ令和6年7月12日付けで提出した陳述書には、「令和5年10月23日、県庁2号館5階庁議室で行われた西播磨市町長会知事要望の会場において、会議終了後、知事と●●●●が立ち話。●●『アイアンの調子はどうですか』、『ちょっとシャンクが出てきて・・』、『じやあ、別のものでも・・』という会話を●●(渡瀬)が直接聞いた。平成の初期、地方課で勤務していたが、その頃、自治省から出向されてきた●●●●等に●●●はアイアンをプレゼントしていた。その当時の記憶があり、今回も同様の贈呈があったと思った。」と記載されている。
しかし、s(市川町)長は、令和5年4月、新しい町長に代わっており、新町長は、令和5年10月23日の会合では齋藤知事に初めて会ったものであった。そのため、この会合では挨拶と名刺交換が行われただけで、s(市川町)の関係者が上記陳述書に記載されたやり取りを齋藤知事と行った事実は認められなかった。
(6) 特別交付税の算定
特別交付税とは、地方交付税の種類の1つであり、国から各地方公共団体に配分されるものである。
地方交付税法に基づき、特別交付税に関する省令が定められており、同省令7条により、都道府県知事は同省令と総務大臣の定めるところにより、市町村ごとの額を算定しなければならないとされている。
特別交付税の算定、決裁権限は知事にあるが、兵庫県においては、市町振興課長が特別交付税の算定案を作り、総務部長、知事が決裁する流れとなっている。
P(細川市町振興課長)は、令和5年4月、総務省から兵庫県に出向し、令和5年度の特別交付税の算定案を作成したが、算定案作成に当たってP(細川市町振興課長)と齋藤知事が協議を行ったことも、齋藤知事から何らかの指示や要望が伝えられたこともなかった。
また、s(市川町)への特別交付税の現実の交付額の推移として、令和3年度から令和5年度にかけて、交付額に大幅な変動はない。市町に交付する税の額は、国が決定する場合と県が決定する場合があるが、兵庫県が決める県内12市町の合計額にs(市川町)への交付額が占める割合も、その間は、いずれも約5%で大きな変動はない。
そのため、s(市川町)への特別交付税の算定について、齋藤知事が便宜を図った事実は認められないし、担当課長が齋藤知事へ何らかの付度をした事実も、付度をしなかった事実も認められない。
(7) 市町振興課課長への対応
齋藤知事とP(細川市町振興課長)は、総務省の先輩、後輩関係となる。
そのこともあり、他の幹部より、P(細川市町振興課長)は齋藤知事から厳しい指導を受けているという見方をされていた場合もあるようで、他の職員がいる中で齋藤知事から叱責されている場面を目撃されていたこともあるようである。
もっとも、齋藤知事がP(細川市町振興課長)を冷遇したといえるような具体的な出来事は確認できなかった。
(8) 小括
以上のとおり、本件文書「④贈答品の山」に例3と記載されている内容については、市町振興課課長が齋藤知事と同じ総務省からの出向であるということのみ事実であるものの、それ以外の大部分、他の記載はいずれも事実とは認められない。
4 k社によるスポーツウェア等の贈与、特定企業との癒着の有無及び経緯
(1) k社からのスポーツウェア等の提供(初回)
令和3年9月頃、神戸マラソン実行委員会において、兵庫県とk(株式会社アシックス)社(以下「k(アシックス)社」という。)がともに参加する中での関わりで、兵庫県からk(アシックス)社に対し、齋藤知事が公務で着用するウェア提供の打診があった。齋藤知事としては兵庫県を代表する企業であるk(アシックス)社のPR、兵庫県のスポーツ振興になると考え、県は齋藤知事の要望、意見をもとに打診したようである。
k(アシックス)社はこれを快諾し、その時点で想定していた神戸マラソンの関連イベントには間に合わなかったものの(なお、この年の神戸マラソン自体はコロナ感染症対策のため延期となり、令和4年11月に開催されることになった)、製造を進めていたことから、令和4年1月、齋藤知事用(兵庫県のロゴ入りの別注品という意味)の春夏用ジャージ2点と秋冬用ジャージ3点、中綿コートを兵庫県に提供した。
なお、上記提供の際、貸与か贈与かという法形式に関しては兵庫県とk(アシックス)社との間で詰めた協議は行われておらず、書面の締結もなかったようである。
(2) 連携の覚書締結とスポーツウェア等の提供(2回目)
令和4年5月10日、兵庫県の公民連携によるSDGs普及に向けたプロギング(ジョギングをしながらゴミを拾う活動の造語)イベントが行われることになり、その際に齋藤知事に上記のジャージを着用してもらうことになったことから、それに合わせ、令和4年4月25日、兵庫県とk(アシックス)社との間で「スポーツを通じた地域創生の取組における連携及び協力に関する覚書」が締結された。
同覚書には、「相互の緊密な連携と協力により、スポーツを通じた地域創生の取組を推進し、地域活性化や県民サービスの向上を図ることを目的とする」こと、具体的には、①スポーツによる県民の健康づくり活動に関すること、②スポーツを通じた地域振興・まちづくりに関すること、③スポーツを基軸とした産業の活性化に関すること、④その他双方が必要と認めるものについて、連携し協力すること、これらの事項を効果的に実施するため、定期的に協議を行うこと等が記されていた。
また、上記のプロギングイベントで齋藤知事が履くために、k(アシックス)社から、兵庫県に対し、令和4年5月10日、ランニングシューズ(銀色)が提供された。
そして、齋藤知事は、k(アシックス)社から提供されたジャージとランニングシューズを実際に着用して、同イベントに参加した。
(3) スポーツウェア等の提供(3回目)
上記覚書に基づき、兵庫県とk社は月1回程度の頻度で定期的にミーティングを行うようになり、スポーツに関わる公務だけでなく、いろんなところでk(アシックス)社のウェアを齋藤知事に着用してもらおうという話が出たため、令和4年6月、k(アシックス)社は、兵庫県に夏用ウェアとしてTシャツ3点、ポロシャツ3点(いずれも兵庫県のロゴ入りの別注品)を提供した。
(4) 連携協定の締結とスポーツウェア等の提供(4回目)
令和4年12月20日、「緊密な相互連携と、共同による活動を推進し、地域の様々な課題に迅速かつ適切に対応し、県民サービスの向上、地域の活性化を図ることを目的」として、①スポーツ振興に関すること、②健康増進に関すること、③環境保全に関すること、④キャリア教育に関すること、⑤部活動の地域移行に関すること、⑥安全安心な暮らしに関すること、⑦県政PRに関すること、⑧その他地域社会の活性化及び県民サービスの向上に関することについて連携し協力すること、これらの事項を効果的に実施するため、双方は定期的に協議を行うこと等が記載された「連携と協力に関する協定書」が兵庫県とk社の間で締結された。
上記連携協定の締結に合わせて、k(アシックス)社は、兵庫県に対し、令和4年12月、ランニングシューズ(黒色)を提供した。
(5) スポーツウェア等の提供(5回目)
令和5年10月27日、運動不足の解消や社内コミュニケーションの活性化を図り、兵庫県内で働く人の健康増進を促進する目的で、兵庫県とn(日本生命)社が連携して開催する、ウォーキングアプリを活用した事業所対抗ウォーキングイベント「ひょうごあるくと大運動会」で齋藤知事が履くために、 k(アシックス)社 から、兵庫県に対し、k(アシックス)社のスポーツスタイルシューズが提供された。
同シューズは、k(アシックス)社が環境負荷の低減を追求し、温室効果ガス排出量を抑えたスポーツスタイルシューズを開発したため、SDGs関連の県行事において齋藤知事が履くことを前提に提供を受けたものであった。
(6) 提供されたスポーツウェア等の使用状況
上記のとおりk(アシックス)社から提供を受けたスポーツウェア等は、実際に齋藤知事が公務としてスポーツイベントや連携協定締結時、SDGsイベントで着用しており、本調査委員会としてもその様子の写真を確認している。
また、令和4年から令和6年にかけて、兵庫県としてクリーニング業者と契約し、齋藤知事が公務で着用後、上記スポーツウェア等を適宜クリーニングに出し、兵庫県においてクリーニング代も支払っている状況も確認できた。
(7) 提供されたスポーツウェア等の寄附申出書
もっとも、令和6年に本件文書に関する問題が連日のようにメディアを賑わせ、k(アシックス)社との癒着や貸与に疑問を呈する記載があったこと、本件百条委員会も開催されることになったこと等を受け、令和6年7月頃、県当局からの申出で、k(アシックス)社との間で、上記スポーツウェア等の取扱いについて、書面上の処理、確認を行うことに関する協議が行われることとなった。
k(アシックス)社としては、スポーツウェア等は使用済みのものを返却されても取扱い、処分に困るだけなので、貸与ということは当初から想定していなかった。
そのため、贈与として書面を作成することとなり、秘書課からの要望で、令和6年8月1日付けの寄附申出書をk(アシックス)社が兵庫県に提出し、k(アシックス)社から兵庫県に提供された既述のスポーツウェア等が全て兵庫県に寄附されたものであること、兵庫県民のスポーツ振興及び健康増進等の目的のためのみに使用し、利用後は兵庫県関係者個人をして利用させず、第三者に譲渡等することなく兵庫県にて適切の処分すべきものであることが申し出られた。
(8) 兵庫県とk社との協力イベント、有償契約
兵庫県とk(アシックス)社との間で、兵庫県が開催するイベントでの有償契約はあるものの、イベント開催時の「歩行に関するセミナー及び歩行姿勢測定」に関する講演料として10万円未満のものがあった程度であった。
(9) 小括
以上のとおり、本件文書の「④贈答品の山」に例4と記載されている内容については、齋藤知事がk(アシックス)社から貸与ではない形でスポーツウェアの提供を受けていたことは事実であり、メーカーであるk(アシックス)社からすると齋藤知事には広告塔としての意味があったこと(ただし、特段の商品PRがされていた様子はあまり見受けられないし、スポーツ選手ではないので、程度問題として、k(アシックス)社が商品PRに大きな期待や役割を求めていたものとは考え難い)は否定できないが、あくまで兵庫県への贈与であった。
また、k(アシックス)社との癒着の事実は認められなかった。
5 視察先企業リストに役得が列記されていることの有無
齋藤知事の視察先やカウンターパートの企業を選定する際、何がもらえるかが判断材料で、企業リストの備考欄に役得が列記されているといった事実は認められなかった。
6 農産物や食品関係の贈答品の独り占めの有無とその経緯
(1) 秘書課が把握する農産物や食品関係の贈答品
令和3年8月の齋藤知事就任後、令和6年7月までの間で、秘書課が管理、把握している贈答品は約137件であった。
ただし、秘書課が把握しているのは、あくまで知事応接室や秘書課倉庫等、県庁内に保管されていて形が残る物品ばかりであり、上記のうち農産物や食品関係は10件に満たず(日本酒、訪問団体の周年や総会記念品のお菓子等)、いずれの食品関係も本件文書が問題になった令和6年4月以降に贈与されたものである(消費されるものは形が残っておらず、記録もないため、資料による確認ができなかった中、令和6年4月以降は可能な範囲で秘書課にて担当者の記憶等をもとに整理した上での回答のようである)。
(2) 報道、本件百条委員会のアンケート、ホットライン、ヒアリングによる情報提供
齋藤知事が視察時等に視察先等から受領し、個人的に消費していた可能性が高い農産物や食品関係の贈答品は、報道、本件百条委員会のアンケート、ホットライン、ヒアリングによる情報提供からすると、以下のようなものがある。
- 上郡町のワイン
- 山田錦(三木市特産品)で造られた日本酒
- 淡路の牛乳
- 淡路島たまねぎ
- 朝来市特産の岩津ネギ(2ケース)
- 枝豆
- 青森のりんご
- 前開のいちご
- 野菜等の農作物
- m組合の兵庫海苔
- 明石の巻き寿司
- 香住の蟹
- 室津等の蠣、あさり
(3) 職員との分配
齋藤知事が視察先で直接受領した農産物や食品関係の贈答品は、職員には分配されず、齋藤知事が自宅に持ち帰っていたケースがほとんどであったようである。
なお、本調査委員会として分配状況を個別に確認まで行ったわけではないが、少なくとも、青森のりんご、兵庫海苔は職員との間で分けられていたようである。
(4) 齋藤知事の認識
齋藤知事は、農産物、食品関係の贈答品について、特定の職員だけに配るのはどうかと思い、自分で持ち帰って食べるのがいいと考えたと述べている。
また、本件百条委員会において、齋藤知事は、少なくとも上郡町のワイン、山田錦の日本酒、枝豆、岩津ネギ、淡路島たまねぎ、蟹等を受領し、自己消費したことを認めている。
(5) 小括
以上からすると、齋藤知事が農産物や食品関係の贈答品をおおむね独占し職員に分配していなかったこと自体は事実と言わざるを得ないし、井戸前知事が秘書課の職員等に分けていたようであることからすると、独り占めと椰楡される外形的要因があることは否定できない。
しかし、各贈与者が特産品を知事に食べてもらいたいと考えて渡しているものが主であることからすると、齋藤知事がそのまま持ち帰ること自体、本件文書が指摘するように強欲とまで言えるのか疑問があり、公務として理由があり、視察や行事出席等を行っていることからすると、出張が好きな理由がこれらの農産物や食品がもらえることにあるという事実も明らかとはいえない。
7 出張先での飲食のタカリ体質、お土産必須の有無及び経緯
齋藤知事が出張先で飲食をした際に代金を支払わず、出張先等に要求して支払わせたり、お土産を必須とさせていたりした事実は認められない。
なお、元西播磨県民局長の陳述書記載のとおり、令和4年11月7日の西播磨地域づくり懇話会において、上郡町でワインの生産が始まっているという話題が出た際に、齋藤知事が「ワインをちょっとまだ私は飲んでいないので是非また。この間はイチゴ、ジャム、塩はあれですけど、また折を見てよろしくお願いします」という発言があったこと、その後、実際に齋藤知事が同ワインの贈与を受けたことは事実であるが、出張先で齋藤知事の意向でお土産を必須としていたという事実や経緯は認められなかった。齋藤知事が視察に来た際に地元の特産品を知ってもらうためにお土産を渡すこと自体は地元側の心情や心遣いとしてありうるものであり、上記のような事例が複数あったとしても、係る事実をもって齋藤知事が出張先のお土産を必須としていた事実が推認されるものではない。
8 その他、本件文書には記載されていないが、齋藤知事が受領した贈答品の有無とその経緯
その他、本件文蓄には記載されていないが、齋藤知事が受領したことの有無等が報道等により問題となっていた事例や本調査委員会に情報提供として寄せられたものについて、いくつか、本調査委員会としての事実認定を記載する。
(1) oによる播州織の浴衣の贈与の有無とその経緯
齋藤知事は、兵庫県として、令和5年6月、oから、播州織の浴衣1着と帯2点の無償提供を受けた。
上記浴衣は、地場産業である播州織のPRとして、齋藤知事の公務でのみ使用されており、秘書課において保管されていた。
なお、提供に際して、書面等は取り交わされていなかったが、兵庫県とoが協議をして、令和6年7月30日付けでoから兵庫県に対する寄附申出書が提出されている。
(2) スキーウェアの贈与の有無とその経緯
齋藤知事は、令和5年2月15日、豊岡市日高町の万場スキー場へ、誘客促進支援(少雪や電気代高騰への支援)のための現地視察を行った。
その際、齋藤知事は、現地でスキーウェアとスキー用具を借りて、スキーを体験し、p協会の会長と懇談し、支援事業の説明を行った。
その数日後、県の職員は、齋藤知事がスキーウェアを要望していると伝え聞き、上記協会にスキーウェアの提供が可能かを打診した。しかし、その回答は、スキーウェアは会長が個人で購入した私物である、知事も必要であれば購入されたいというものであった。
そこで検討するに、齋藤知事としてはあくまで質問という意図で、かつ、個人としての所有ではなく、知事としての職務での使用のみを想定していたのかもしれない。しかし、スキーウェアを(個人としてではなく県としてであろうが)贈与してもらうことを期待していた事実に変わりはない。どれだけ丁寧かつ柔らかな物言いで伝えたとしても、県知事という県のトップからの期待、要望に圧力を感じる、あるいはそこまで感じなくても対応しないといけないと受け止めるケースはありうると思われる。したがって、外形的にみて「おねだり」をしたと見られる可能性がある状況であったことは事実とみてしかるべきである(ただし、個人への贈与ではなく県への贈与を尋ねたという主張を否定する事実、証拠は確認できなかったことから、本件文書の趣旨である齋藤知事個人への贈与をおねだりした、という事実が認定されたわけではない)。
なお、齋藤知事は、ヒアリングにおいて、会長との会話で上記スキーウェアをかっこいいと褒めたことはあるが、それは社交辞令にすぎない、職員との会話でスキーウェアを知事室に置いておきたいと述べたことはないし、提供してもらうつもりもなかった、打診は、あったとしても、自分からの指示によるものではない、職員が勝手にしたことであると述べている。しかし、複数の情報提供者から、齋藤知事の要望で打診することになったという話があったこと、齋藤知事が要望しないのに周囲の職員が独断で打診するとは考え難いこと、齋藤知事自身もスキーウェアのデザインを褒める発言をしていたこと自体は争いない事実である。その事実はスキーウェア提供打診の要望が齋藤知事からあったとする事実と整合すること、上記視察時に借りたスキーウェアは兵庫県スキー連盟のウェアで、兵庫県スポーツ協会の会長をあて職として知事が就任することになっているので、兵庫県スポーツ協会の下部組織である兵庫県スキー連盟のウェアが知事用にあってもいいし、毎年視察に行く際に着るので、聞いてみてもらえないか、という趣旨、ニュアンスの打診であったといった齋藤知事が提供を求める理由が詳細かつ具体的に情報提供されていることからすると、齋藤知事のヒアリングにおける主張は、齋藤知事の要望でスキーウェア提供の打診が行われたという上記の事実認定を妨げるものではない。
(3) 竜山石の湯呑の贈与の有無とその経緯
齋藤知事は、令和5年5月20日、高砂市の生石神社へ、ひょうごフィールドパピリオンのSDGs体験型地域プログラムに認定された「1700年前からつながるパワーストーン奇跡の浮石『石の宝殿』と竜山石を使ったワークショップ」の現地視察を行った。
その際、齋藤知事は、竜山石採石場の見学を行い、上記プログラムの実施主体であるqの理事長で、竜山石を使ったアクセサリーや各種商品を製造しているrの代表取締役ないしrから、竜山石の湯呑(複数個入りのセットで、小売価格約4万円弱だったようである)の贈与を受けた。
その後、この竜山石の湯呑は、実際に知事応接室の来客応対時に使用され、齋藤知事からも高砂の竜山石で出来たものであることを説明していることもあったことからもわかるように、知事個人ではなく、あくまで県として受領され、PRとして使用されたものであった。
もっとも、竜山石の湯呑贈与の経緯としては、r側から発案されたものではなく、県庁内での上記プログラムに関する知事協議において、職員から竜山石の湯呑の話題が出た際、齋藤知事が「使ってみたいな」等といった興味、関心を示す発言をしたこと、普段から齋藤知事が知事応接室を県の特産品のPRの場として使いたいという趣旨の発言を公言していたこと、齋藤知事は普段からあまり多くを語らず、周囲の職員には知事の意向や趣旨を汲み取って動くことを期待していた様子があることから、職員が齋藤知事の発言、態度を受けて齋藤知事が贈与を希望していると理解し、rに相談し、贈与することになったものである。
その意味で、齋藤知事が、贈与を求めるよう指示する直接的な発言をしたものではないものの、齋藤知事自身、無償提供を期待した発言をしていたものといえ、外形的にみて「おねだり」をしたと見られる可能性がある状況であったことは事実といえる(ただし、あくまで県としての贈与の希望であり、本件文書の趣旨である齋藤知事個人への贈与をおねだりしたという意味の認定ではない)。
なお、齋藤知事は、竜山石の贈与を求めるよう職員に指示したことはないと述べているが、知事室で使うようなことができないか職員に言ったことがあること、竜山石はメジャーではないが歴史も含めて素晴らしいので知事室で使用させてもらうことはいいのではないかと思ったという考えを述べていることからすると、上記のとおり認定することが妨げられるものではない。
(4) ベニズワイガニの贈与の有無とその経緯
兵庫県では、令和5年の台風7号による災害への対応について、令和5年9月12日、約53.9億円の緊急対策補正予算案が組まれた。
上記補正予算の対象となる事業のうち、公共農林土木施設災害復旧事業として、県北部の某漁港については、台風により被害を受けた施設の復旧実施(港内漂着物の撤去)費用として約3200万円の補正予算が組まれ、復旧事業が行われることになったようである。
そして、齋藤知事は、令和5年9月24日、同漁港を視察し、ベニズワイガニ漁の概要説明を受け、台風の影響で漂着した流木の撤去状況を確認した。
当日、齋藤知事は、漁業協同組合の組合長から、事前に用意されていたお土産として、ベニズワイガニ2杯の贈与を受け、自宅に持ち帰った。齋藤知事が2杯持ち帰ることになったのは、他の職員が受領を辞退したため、その分を齋藤知事が持って帰ることになったためのようである。
9 齋藤知事のおねだり体質が県庁内でも有名で、齋藤知事の自宅に贈答品が山のように積まれていることの有無
本調査委員会においては、齋藤知事にはおねだり体質というべきものがあると県庁内で有名であったかどうかについて、ホットラインでも情報提供を呼びかけたほか、職員に対するヒアリングの中で、漏れがないよう一つ一つ丁寧に聴取し、本件百条委員会のアンケートも参照した。
その結果、判明したこととしては、兵庫県庁内の一定範囲の幹部のうちでは、齋藤知事が要望して贈答品をたくさんもらっているという噂はあったようであるが、県庁全体で有名な噂とまでなっていたわけではなかった。
なお、本件百条委員会のアンケートは、匿名のものが大半であるうえ、本件文書問題が明るみになる前からの贈答品の噂、情報であるのか、質問の形式も厳密ではなく、同アンケートをもって本件文書問題が世間を賑わす前から齋藤知事の贈答品に関する噂が全庁的に有名な噂となっていたとまで評価することは困難と言わざるを得ない。
また、齋藤知事が農産物や食品関係については、累計するとかなりの数の贈与を受け、自宅に持ち帰って消費していたようであるものの、自宅に贈答品が山のように積まれているという事実は確認できなかった(既述してきたように、形に残るものは齋藤知事個人ではなく兵庫県への贈与や貸与である)。
第4 評価
以上のとおり、贈収賄と評価できるような事実はなかった。
また、本件文書で例示された1~4の事例は、いずれも兵庫県に対する贈与か使用貸借であり、齋藤知事個人への贈与の事実は認められなかった。
多くの特産品の農産物や食品関係を齋藤知事1人が持ち帰っていたことはおおむね事実であるが、1件1件については、社交儀礼の範囲内を超えることが明らかとはいえない上(ベニズワイガニについては疑問の余地はあるが、蟹のなかでは比較的安価な部類のもののようである)、本件文書が指摘するような強欲によるものと断定することはできないし、お土産を必須としていたことや飲食代を出張先に支払わせていた事実や出張が好きな理由が飲食やお土産にあるという事実も明らかとはいえない。
その意味で、本件文書に記載された事項4の贈答品に関する記載は、いずれも重要な部分、指摘する趣旨が該当するような事実は認められなかったものと言わざるを得ない。
もっとも、外形的に見て、齋藤知事による贈答品の要望とも受け取りうる発言が複数の案件で見受けられ(スキーウェア、竜山石の湯呑等)、物品を齋藤知事個人が贈与された事実は確認できなかったものの、特産品である農産物や食品関係を多く贈与され、自己消費していたことは事実であるし、コーヒーメーカーの件については、マスコミから疑問視する質問が出たことから贈与を辞退したという状況のもと、後日に兵庫県庁にコーヒーメーカーが届いていること等からすると、外形的に見て、マスコミを気にして贈与を断ったにもかかわらず後で隠れて受領したのではないかと疑われる素地があったこと、齋藤知事がおねだりしている、個人的に贈答品を非常に多くもらっていると他者から疑惑の目で見られるケースがあったこと自体は否定し難いものと評価せざるを得ない。
また、令和5年9月24日に県北部の某漁港を視察した際に齋藤知事が受領し自宅に持ち帰ったベニズワイガニ2杯については、令和5年9月12日に組まれた緊急対策補正予算案のなかで同漁港の復旧事業として約3200万円の補正予算が組まれ、復旧事業が行われていること、齋藤知事が補正予算の編成方針について権限を有していること、そのほか、兵庫県がベニズワイガニの贈与者である漁業協同組合に対して、毎年、漁業施設貸与事業等に関する補助金等を支給しており、漁港敷地の占有許可等の利害関係があることからすると、外形的に見て職務の公正さを疑われかねない利害関係もあることから、違法な収賄とはいえなくとも、受領を辞退した職員のように、齋藤知事も受領を回避することが望ましかったと思われる。
なお、地方公務員や知事に適用されるものではないが、国家公務員倫理法6条では、事業者等からの贈与の価額が1件につき5000円を超える場合に贈与等報告書を提出すべきことが定められていることを参考までに付言しておく。