百条委員会書面調査【明治大学経営学部髙巖特任教授】

百条委員会書面調査髙巖 百条委員会

当ページの概要

2024年末~2025年1月頃、百条委員会が、公益通報者保護法に関して、承知した参考人に加えて有識者数人に書面調査を行いました。

当ページでは、明治大学経営学部特任教授の髙巖氏による書面調査回答の全文を文字起こしのうえ掲載します。

書面調査の回答(文字起こし)

文書問題調査特別委員会 書面調査

提出者: 明治大学経営学部 特任教授
髙 巖

質問1

元県民局長が今年3月に報道機関、県議会議員等へ文書配布した行為(以下「文書配布」という)について、公益通報者保護法上の「公益通報」の該当の有無についてどう考えるか。

公益通報者保護法上の「公益通報」に該当するかどうかは、厳格に手順を踏んでいって初めて出せる結論です。「公益通報」にあたるかどうかは、それがたとえ外部通報であったとしても、特に今回の事案のように、内容がここまで具体的であれば、兵庫県として中立的で公正な調査を終えた後でしか、これに関する結論を出すことができません(それは、文書配布行為をもって、公益通報かどうかを判断するものではありません)。

質問2

3号通報として保護される要件は、①労働者・退職者・役員が②役務提供先について③通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、④通報の目的が不正の目的でなく、⑤3号通報先へ通報することと理解しているが、間違いがないか。

正確には、通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由(真実相当性)があり、かつ(1)〜(6)のいずれか1つに該当する場合です。本事案では(1)(3)(5)が該当するため、言及しておきます。

(1) 事業者内部(役務提供先等)又は行政機関に公益通報をすれば、解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由があること。

今回の事案では、実際に不利益取り扱いを受けており、通報者は、そうした措置が採られる可能性を事前に強く感じていたと思われます。

(3) 事業者内部(役務提供先等)に公益通報をすれば、役務提供先が通報者について知り得た事項を、通報者を特定させるものであると知りながら、正当な理由がなくて漏らすと信ずるに足りる相当の理由があること。

今回の事案では、告発内容に関する中立的な調査(利害関係者を除いた調査)を行う前の段階で、告発の対象者であった知事側に「通報者を特定させるもの」が共有されたと聞き及びます。兵庫県では、そうした杜撰な運用が為される可能性を、通報者は事前に強く感じていたのではないでしょうか。それゆえ、通報者としては、まず最初に外部通報という形で公益通報を行なったものと思われます。

(5) 書面により事業者内部(役務提供先等)に公益通報をした日から20日を経過しても、通報対象事実について、当該役務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該役務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わないこと。

今回の事案では、既述のように、通報者は、1号通報だけでは、告発内容に関する中立的な調査(利害関係者を除いた調査)は行われない可能性が高いと感じ、3号通報を先に行ったと考えられます。

以上より、保護要件は十分に満たしていると言えます。

なお、既に記述しましたが、「通報が不正の目的で為されたかどうか」は、告発内容に関する中立的な調査(知事や副知事などの利害関係者の影響を除いた調査)が行われた後に下される判断であって、告発の対象者及びその関係者(指示命令系統を制する側)が勝手に判断するものではありません。

質問3

3号通報に当たる場合に、通報先でない者が「不正の目的」や「信ずるに足りる相当の理由がない」として、公益通報に当たらないと判断することはできるか。

何度も繰り返しますが、「不正の目的」「信ずるに足りる相当の理由がない」などは、中立的な調査を行った後に、利害関係のない者が出す結論ですので、それを行わずして、告発された側及びその関係者が「通報者は不正の目的で通報を行った」「よって公益通報に当たらない」などと言うことはできません。これは指針の解説11〜12頁に記載の通りです。

「(4)公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置

①指針本文

内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関し行われる公益通報対応業務について、事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない措置をとる。

②指針の趣旨

内部公益通報に係る事案に関係する者が公益通報対応業務に関与する場合には、中立性・公正性を欠く対応がなされるおそれがあり(内部公益通報の受付や調査を行わない、調査や是正に必要な措置を自らに有利となる形で行う等)、法令の遵守を確保することができない。少なくとも、内部公益通報受付窓口に寄せられる内部公益通報については、実質的に公正な公益通報対応業務の実施を阻害しない場合を除いて、内部公益通報に係る事案に関係する者を公益通報対応業務から除外する必要がある。

質問4

うわさ話や憶測をもとにした通報は「信ずるに足りる相当の理由」が無いとされるのか。「信ずるに足りる相当の理由」があるとされるために必要な要件とは何か。

「うわさ話や憶測をもとにした通報は信ずるに足りる相当の理由が無い」とまでは言えません。少なくとも、利害関係にある者がこれを判断することはできません。仮に通報者が尋問を受け、「うわさ話や憶測である」と述べたとしても、それは情報源となった関係者の利益を守るための発言であったと解するのが一般的です。情報源となった関係者の名前を挙げるような無責任な行動をとらず、全責任を自ら引き受ける覚悟で、通報が為されたものと思われます。よって、「うわさ話や憶測をもとにした通報」と通報者が説明したとしても、利害関係にある者がその尋問を行なう限り、「その通報には信ずるに足りる相当の理由がある」と言わなければなりません。

質問5

通報対象事実の調査結果が判明する前に、範囲外共有、通報者探索、不利益取扱いすることは許されるのか。

それは絶対に許されません。そうした行為は、明らかな公益通報者保護法違反です。特に範囲外共有を行った者、通報者を特定する何らかの情報を他に漏らした者の責任(刑罰の対象となります)は極めて重いと言わなければなりません。当然、告発の対象となった権力者が通報者探しを指示する場合、あるいはそれを承認する場合)、その者の責任も厳しく問われます。

質問6

「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項に係る指針」の第4のうち、2(1)及び(2)は内部公益通報に限定せず、外部公益通報となる場合も通報者を保護する体制の整備が求められていると解釈するのか。

外部公益通報であったとしても、その通報内容が迂回的に自組織に伝えられた場合(自組織がその情報を得た場合)、自組織の担当部署は、より良い職場環境を作るため、また問題の芽を早めに摘み取るため、自ら事実関係調査(中立的な調査)を行なう必要があります。そもそも、外部通報の場合、当然の流れとして、外部通報を受けた組織や個人(マスコミなど)より問い合わせを受けますので、担当部として何も対応しないわけにはいかないはずです。その際も、真っ先にやるべきことは、通報者探しや通報者に対する不利益取扱いではなく、事実関係に関する公正かつ中立的な調査を行うことです。

質問7

公益通報者保護法に関する「解説改正公益通報者保護法(第2版)」の逐条解説224ページには、法11条第2項の条文解説として、「体制整備その他必要な措置」は公益通報のうち内部公益通報に対応するための体制整備に限定するとの記載がある。

法第11条第4項に第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置は指針において定めるとあるため指針を参照する必要がある。指針には「第4内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置」が定められており、指針第4の2「事業者は、公益通報者を保護する体制の整備として、次の措置を取らなければならない」も指針第4に含まれている。

前述の「解説改正公益通報者保護法(第2版)」351ページに「指針の法的意義」の記載がある。その記述に「事業者にとって、指針の解説は指針に定められる考慮要素等のように内部公益通報対応体制に関する「議論の素材」として説明に用いなければならないわけではない。説明に用いることができるにとどまり、法的効力は弱い。紛争が発生した場合の裁判所にとっても法的効力は同様である。」とある。

この時、事業者が法および逐条解説、指針を参照した時に体制整備義務は内部通報のみに適用されると考えることに妥当性はあるか。

「体制整備その他必要な措置」について、解説では、内部通報の場合を想定して整理しておりますが、それは体制整備上の義務が内部公益通報に限定されるという意味ではありません。外部通報の場合には、これを受け付ける外部組織も、それぞれ、通報者を保護するための体制を整備しておく必要があるからです。

ただ、既述の通り、外部通報機関に為された通報が、その外部通報機関を通じて自組織に届いた場合には、自組織において、可能な限り、通報者の利益を守りながら、事実関係の調査を行う必要があります。したがって、一度、外部通報を経由したからと言って、自組織における体制整備義務が無くなるわけではありません。

質問8

公益通報者保護法第2条の公益通報の定義には、真実相当性が含まれておらず、また「公益通報ハンドブック」P6の「1.通報者が「公益通報者」として保護されるために必要な事項」に、真実相当性は含まれていない。

一方、体制整備を定めた指針の用語の説明に「公益通報は法第2条第1項に定める「公益通報」をいい、処分等の権限を有する行政機関やその他外部への通報が公益通報となる場合も含む」とあるが、指針第4の2で求める体制整備において、外部通報の真実相当性の有無は必要としないと理解してよいか。

内部通報に関しては、通報事実が真実であること、また真実であると考えたことについて相当な理由があること(真実相当性)といった要件を不要としていますが、それは、1号通報を受け付ける組織では、できるだけ多くの情報を、可能な限り早期に受け付けるべき、と考えているからです。これに対し、外部通報では、指摘の通り、真実相当性は必要要件となります。これは嘘やでたらめによる反社会的な行為を控えさせるためです。ただここでも、重要なのは、「問題の外部通報に真実相当性があったどうか」は、告発を受けた側(利害関係者)が判断することではない、ということです。

質問9

告発文の作成者を特定するための調査過程(3/23~3/25)で、元県民局長の公用PCから発見されたクーデター計画等のファイルを根拠に、「不正な目的」であるため公益通報にあたらないという主張がされているが、「不正な目的」かどうかの判断は、告発文書を認識した時点(3/21)で判断すべきものではないのか。

「不正な目的」を立証する上で必要な条件についてどう考えるか。

公益通報者保護法上の「公益通報」に該当するかどうかは、厳格に手順を踏んで初めて出せる結論です。よって、告発文書を認識した時点で、しかも利害関係者中心で判断を下すこと(また利害関係者の意向を尊重したかのように思われる弁護士の助言を盾として判断を下すこと)は、公益通報体制構築義務として要請される手順を無視したものとなります。よって、事後に利害関係者だけで特定した「クーデター計画」などの一部の記録をもって、それ以前に行われた通報行為に対し、「これは公益通報に当たらなかった」などと過去に遡って主張することはできません。

「不正な目的」と考えられる事情と公益目的と考えられる事情が併存している場合、「不正な目的」についてはどのように判断されるのか。

不正な目的を立証する上で必要な条件についてどう考えるか。

たとえ個人的な感情などに基づいて為された通報であったとしても、通報内容に事実に関する指摘が部分的にでも為されていれば、しかも、今回の事案のように具体的に述べられていれば、これを公益通報として受けとめる必要があります。公益通報者保護法の目的は、あくまでも、問題の芽を出来るだけ早く特定し、それを摘み取ることにあるからです。よって、兵庫県が最初に為すべきことは「通報が不正な目的で為されたか」を調べることではなく、そこに記載された内容について、相当の注意をもって事実確認を行うことだったと言わなければなりません。

とりわけ、「不正な目的」と「公益目的」が混在しているような事案では、調査を行う者の人選から、調査過程における情報管理の徹底、合理的な調査範囲の決定、調査対象者の決定、全ての調査対象者の個人情報保護、調査対象者間の情報共有の禁止、調査期間中における外部の中立的なホットライン窓口の設置などを細かく設計した上で、これを行わなければなりません。そうした要件を満たした公正かつ中立的な調査であれば、その調査主体が下す結論(例えば、「事実に基づかない通報であり、不正な意図に基づくものであったと思料される」といった結論)は、十分に説得力があり、尊重されることになります。

質問11

元県民局長は3月の文書配布の後、今年4月に兵庫県の公益通報窓口に文書と同様の内容と思われることについて内部通報を行った。その後、5月に兵庫県は、3月の文書配布等について懲戒処分を行った。

元県民局長が行った4月の内部通報の調査結果を待たずに、兵庫県が3月の文書配布について処分を行ったことの適法性についてどう考えるか。

既述の通り、3月(そして4月)に配布された文書の内容について、公正かつ中立的な調査を行うことなく、利害関係者だけで「公益通報に当たらない」と判断し、通報者の特定などを行ったことは、法の趣旨を無視した行為であり、公益通報者保護法に反します。

質問12

元県民局長による文書配布への兵庫県の対応の適法性についてどう考えるか。

なぜ3月に外部通報を行い、その上で4月に内部通報を行う必要があったのかを考慮すれば(2番の問いへの回答を参照)、兵庫県の対応は、法の趣旨を無視した行為であり、公益通報者保護法に違反します。

質問13

本件において、告発文が公益通報に該当するか否かはさておき、公益通報に当たる可能性を一切排除し、告発文の被告発者が自らの判断で告発文は事実無根と断じ、さらに、第三者委員会などを設置することなく、内部調査で調査を済まそうとした初動については、知事という権力者として不当な対応、初動だったのではないか。この点について、ご見解を伺いたい。

これが全ての問題の始まりであったと考えております。権力を手にした者は、とりわけ自身の問題を指摘された時には、より謙虚かつ冷静に、物事を判断すべきであったと考えます。その意味で、まさにこれは「不当な対応、初動だった」と言わなければなりません。

質問14

クライアント先から、今回のようにマスコミ等へ送付された文書を入手して、その対応を相談された場合にどのように助言するか。

その内容が事実に基づくものであるかどうかの調査を、利害関係者抜きで徹底して実施することを助言します。これがすべての鍵を握るからです。その際、既述の通り、調査方法は妥当か、調査対象者の範囲は合理的か、調査期間中、外部の中立的なホットライン窓口を設置すべきかなども厳格に助言します。

質問15

【髙特任教授のみ】公益通報者保護法に関する「解説改正公益通報者保護法(第2版)」の逐条解説224ページには、法第11条第2項の条文解説として、「体制整備その他必要な措置」は公益通報のうち内部公益通報に対応するための体制整備に限定するとの記載がある。

また、令和2年10月19日に開催された「第1回公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会」において消費者庁から配布された資料「ご議論いただきたい事項等」に「指針の対象となる通報は「事業者内部」への「公益通報」に限られており、その他の通報は本指針の対象とはならない」との記載があることから、法および法第11条2項の指針において、公益通報のうち内部公益通報のみが対象となっていると整理されていた。

しかし、指針の解説においては、法第11条第2項の「不利益な取り扱い」は第2条に定める「処分等の権限を有する行政機関」や「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であるもの」に対して公益通報をする者についても、同様に不利益な取扱いが防止される必要があると記載されている。

検討会の議事要旨を確認しても、法第11条第2項が第2条に定める「処分等の権限を有する行政機関」や「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であるもの」に対して公益通報をすることを含むかどうかの議論がなされた形跡がほとんどない。

高先生は「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会」の座長を務められていた。法及び指針において限定している範囲を、その指針の解説において範囲を拡大解釈した経緯についてご教授願いたい。

解説において「体制整備その他必要な措置」は公益通報のうち内部公益通報に対応するための体制整備に限るとしているのは、1号通報(内部通報が特に重要であるため)について細かくまとめておけば、2号通報を受け付ける組織のあり方も、3号通報を受け付ける組織のあり方も、1号通報に関する体制整備義務よりどのようなものになるか、推測できるからであり、あるいは、体制構築における基本原則(通報者の利益保護)も十分に理解され得るからです。言い換えれば、仮に、解説において、1号通報、2号通報、3号通報を受け付ける組織のあり方について、一つひとつを別立てにして記載していれば、その内容は多くの部分で重複し、説明が冗長になり得たからです。

加えて、ここで特に注意して頂きたいことは、2号通報や3号通報が為され、これが2号通報・3号通報経由で、1号通報を受け付ける組織に入ってきた場合には、その組織は、内部通報に求められる体制整備義務を遵守しながら、とりわけ、その通報内容が具体的であれば、そこに記載された事実関係を調査しなければならないということです。これが問題を早期に発見し、問題が深刻化する前に解決しようとする組織のあり方だからです。従って、「指針の対象となる通報は「事業者内部」への「公益通報」に限られており、その他の通報は本指針の対象とはならない」という記載を見て、2号通報や3号通報の場合には、組織としての体制整備義務はないなどと解釈してはならないということです。むしろ、2号通報を通じてしか、あるいは3号通報を通じてしか、公益通報を行うことができなかった事情(内部通報の体制整備が為されておらず、不利益を被るリスクが高すぎると、通報者が感じていたことなど)を冷静に受け止め、2号通報・3号通報経由でも、可能な限り、直接、1号通報を受け付けた場合と同様の対応をとることが求められます。またこれが「処分等の権限を有する行政機関」や「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であるもの」に対して公益通報をする者についても、同様に不利益な取扱いが防止される必要がある」と付記している理由です。

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